不正競争防止法: 第13講
代理人等商標冒用行為(2条1項22号)
- 外国における商標権の保護を例外的にわが国に拡張するもの
- 本来商標権は「各国権利独立の原則」に従い,国ごとに存立する(外国で登録された商標に係る商標権はわが国には及ばない)
- パリ条約リスボン改正条約(1958年)6条の7第2項に対応
※参考: パリ条約 第6条の7 代理人,代表者による商標の登録・使用の規制- ⑴ 同盟国において商標に係る権利を有する者の代理人又は代表者が,その商標に係る権利を有する者の許諾を得ないで,1又は2以上の同盟国においてその商標について自己の名義による登録の出願をした場合には,その商標に係る権利を有する者は,登録異議の申立てをし,又は登録を無効とすること若しくは,その国の法令が認めるときは,登録を自己に移転することを請求することができる。ただし,その代理人又は代表者がその行為につきそれが正当であることを明らかにしたときは,この限りでない。
- ⑵ 商標に係る権利を有する者は,⑴の規定に従うことを条件として,その許諾を得ないでその代理人又は代表者が商標を使用することを阻止する権利を有する。
- ⑶ 商標に係る権利を有する者がこの条に定める権利を行使することができる相当の期間は,国内法令で定めることができる。
※例えば,A国において商標「X」の商標権を有する甲が,B国に進出しようとして同国の乙と代理店契約を締結し,同国において乙をして「X」を使用させていたところ,乙が,⒜甲との信頼関係に反して,「X」を他の商品等に無断で使用したり,⒝当該代理店契約の終了後も「X」の使用を継続したり,⒞先回りして「X」を商標登録したりすると,甲のB国における活動が妨げられかねない。
※パリ条約6条の7第1項が規定する上記⒞に対応するわが国の法条としては商標法53条の2(商標登録取消審判)がある。
意義・要件
- ①条約等に基づく保護対象国
- ②商標に関する権利
- 商標権
- 商標権に相当する権利
※ドイツ商標法(MarkenG)10条の “周知商標(notorisch bekannte Marken)” や英米法上の “passing-off” のように登録を経ないが保護されるもの,わが国の不競法上の周知表示保護に相当するものなど。
※ただし,商標権に関する質権,使用権等は含まれない
- ③代理人・代表者
同盟国商標権者等の信頼を保護する趣旨から名目上の「代理」「代表」に囚われず広く解される。
- 行為の日前一年以内に代理人・代表者であった者
※冒用行為(開始)日を始期とし,代理人等辞任から1年経過を終期とする行為に適用される。
- 行為の日前一年以内に代理人・代表者であった者
- ④正当理由のない無断使用行為
- 正当な理由 =代理人等の独自使用を認める例外的事由
※例えば,同盟国商標権者等がわが国での権利を放棄したこと,または権利取得の意思がないことを代理人等に信じさせ,それに基づいて代理人等が信用を築いたような場合
- 正当な理由 =代理人等の独自使用を認める例外的事由
民事救済・刑事制裁
- 代理人等商標冒用行為については不競法上の罰則はない。
関連事例
- 大阪地判平12・12・14 平成9年(ワ)第11649号 マイタケDフラクション事件
- [1] 事実の概要
X1(第一事件原告)は1991年(平成3年)にその代表者Aによって設立された栄養補助食品を販売する米国デラウェア州の会社で,X2(第一事件原告・第二事件本訴原告兼同反訴被告)はやはりAが代表取締役を務める日本の会社である。X1は,1996年(平成8年)7月以降,X2を日本における総代理店として,マイタケ(舞茸)の成分の抽出物をエキス状にした栄養補助食品(商品名「D-fraction」,以下「本件商品」という)およびマイタケの成分の抽出物を錠剤にした栄養補助食品(商品名「Grifron」,以下「グリフロン」という)を輸出し,X2がこれらを日本で販売している。Y(第一事件被告・第二事件本訴被告兼同反訴原告)は,食料品,化粧品,医薬品の販売,卸しおよびこれらの代理店業を目的とする会社で,1996年9月頃より,X2から本件商品を仕入れて日本国内で販売していた。本件商品は,神戸女子薬科大学(現・神戸薬科大学)のN教授が1974年(昭和49年)以来研究を続けてきた,キノコからの抽出物の抗腫瘍機能に着目し,マイタケから抽出された癌抑制物質「Dフラクション」を健康食品として商品化したものである。
X1は,1996年10月29日,米国において,横一列の黒字活字体からなる「MAITAKE D-FRACTION」の商標登録(登録番号2012571)を受け(以下「本件米国商標」という),爾来X表示〔画像参照〕を商品表示として本件商品のラベルに付していた(このX表示は,1996年9月17日,わが国において商標登録出願がなされたが,1999年(平成11年)4月6日付けで「単に商品の原材料を表示するにすぎない」として拒絶査定を受けている)。
Yは,1997年(平成9年)10月から,「『D-フラクション』の高品質化に成功!従来を超えた『スーパーD-フラクション・タブレット』&『スーパーD・フラクション・エキス』」「D-フラクションエキス・グリフロンマイタケ製品の国内生産への移行のお知らせ」などと記された複数の印刷物(以下「本件印刷物」という)を卸先・顧客に配布しつつ,本件商品およびグリフロンの販売を停止し,国内産の製品であるY商品①にY表示①〔画像参照〕を付し,同じくY商品②にY表示②〔同〕を付して,それぞれ販売し始めた。また1998年(平成10年)4月からは,Y表示③〔画像参照〕を付したY商品③およびY表示④〔同〕を付したY商品④の販売を開始した(以下Y商品①~④をまとめて「Y商品」という)。
本件第一事件において,X1およびX2は,Y表示①~④の使用およびこれらを付したY商品の販売が不正競争防止法2条1項1号または同14号〔現22号〕に該当し,またYによる本件印刷物の配布が同13号〔現21号〕に該当するとして,Y各表示の使用およびこれらを使用した商品の販売等の差止め,本件印刷物中の特定の文言の抹消および文書・口頭によるこれと同義の告知・流布の差止めならびに1億50万円余の損害賠償を求めた。すなわち,不競法2条1項14号〔現22号〕に係る請求において,Xらは,YがY表示①および同②の使用を開始する前1年以内に,X1と実質同一体であるX2の代理店であったか,またはX1の日本における総代理店であるX2の代理店としてX1の復代理人であった,というのである。この点につきYは,同社がX2から健康食品を仕入れて一般消費者や薬局に販売していたのは自己の名において行っていたこと等を根拠に,X1からの代理権授与はないこと,またYが1997年9月末をもってX2との取引を完全に終了したことにより,1998年10月1日以降の本件米国商標の使用は不正競争とならないことを主張して争った。
※ なお本件第二事件は,X2とYとの間の売買契約残代金やYからAに対して支払われたコンサルタント料を巡る争いであり,ここでは割愛する。
- [2] 判旨
一部認容。
- 第一事件については,不競法2条1項1号に基づく損害賠償の一部(1194万5106円)のみ認容。
- 第二事件については,本訴請求(342万4946円)のうち103万9290円を,反訴請求の全部(318万4554円)をそれぞれ認容した。
Ⅰ 不正競争防止法2条1項14号〔現22号〕……の趣旨が、外国の商標所有者の信頼を広く保護するところにあることを考慮すれば、同号にいう「代理人」の意義は、法律上の代理権の存否を要件とすることなく広く解されるべきであり、同盟国商標権者との間に特定商品の包括的な代理店関係を有する者に限ることなく、何らかの基礎となる代理関係があれば足りるものと解するのが相当である。
Ⅱ 〔不正競争防止法2条1項22〕号が「一年以内」という期間を定めた趣旨は、代理人等の関係が終了した後も余りにも長くこれらの代理人等を拘束することは、代理人等でなかった者が商標の選定について何らの拘束を受けないのに比して酷である上、法的安定性を害することにもなりかねないとの理由によるものと解されるから、〔YがXらとの代理関係を終了させた平成9年10月から一年に達する時期までの行為については不正競争となり得る〕。
※ 上記のとおり,Yの代理人性および「一年以内」について裁判所は肯定したが,結局Y表示①~④はいずれも本件米国商標に類似しないとして,不競法2条1項14号〔現22号〕に係る請求は棄却,また本件印刷物に係る同13号〔現21号〕を根拠とする請求についても,その「表示された内容が虚偽の事実とはいえ」ず,その他の表現も「直ちに、従来製品である本件商品の品質が悪いという印象を与え、Xの商品に対する評価を低下させるものとはいえない」として棄却した。
- [1] 事実の概要