知的財産法: 第2講
知的財産の保護
いかにして知的財産を保護するか
前提となるのは自由経済社会とそこにおける競争の自由。
- 権利付与型
- 知的財産を対象に物権的権利(独占権)を付与する
- 登録型
- 権利の取得や行使に一定の手続・登録を要する
〔特許法,実用新案法,意匠法,商標法など〕
- 非登録型
- 権利の取得等に一切手続を要しない
〔著作権法〕
- 行為規制型
- 知的財産による他人の利益を侵害する行為を規制する
〔不正競争防止法〕
自由競争に関しては,国家が不当にこれに干渉するのは望ましくない。したがって,権利を付与してこれを各人が自由に行使させることで利益を確保させることとした。また行為の規制も公権力による取締りではなく,当該規制に反した場合に民事的な制裁(損害賠償等)によるものである(下記参照。もっとも罰則規定も存在する。)。
また上記のほかに「何を守ろうとしているのか」でも分類できる。
- 創作保護型
- 技術的思想や表現などの創作を奨励・保護する
〔特許法,実用新案法,意匠法,著作権法など〕
- 信用保護型
- 創作行為そのものではなく,勝ち得た信用を保護する
〔商標法,不正競争防止法〕
知的財産の保護の限界
知的財産とその利益に対する保護は,基本的にそれらの情報・知識を囲い込ませることで行う。しかし情報・知識は本来人類共通の財産となるべきもの。そのバランスをとるために,次のような共通ルールがある。
- 保護の対象となるべき情報・知識を厳格に定める。
- 保護は一定の期間に限られ,その期間経過後は当該情報・知識を誰でも自由に利用できる。
知的財産の保護の仕組み
権利を与え,あるいは行為を規制することで知的財産を保護するが,具体的にはどうするのか?
- 差止請求
- 損害賠償請求
- 信用回復措置請求
知的財産の各権利または営業上の利益を侵害された者(被害者)は加害者に対して上記を請求できる(民事救済)。
また,知的財産の各権利の侵害行為および不正競争行為(の一部)については,各法律で犯罪行為とされ,それぞれに刑罰が科せられる(刑事制裁)。
知的財産の国際的な保護
知的財産権は,もともと中世に欧州の領主が,自己の領地内に技術情報・文化情報をもたらした特定の者に特権を与えることで,技術・文化の囲い込みを図ったことに由来するという背景から,属地主義が採られている。もっとも近代以降,以下のような多国間条約の締結によって各国の制度の協調が図られている。
- 工業所有権の保護に関するパリ条約(1900年12月14日にブラッセルで、1911年6月2日にワシントンで、1925年11月6日にヘーグで、1934年6月2日にロンドンで、1958年10月31日にリスボンで及び1967年7月14日にストックホルムで改正され、並びに1979年9月28日に修正された工業所有権の保護に関する1883年3月20日のパリ条約)
日本は1899年に加盟(昭和50年条約2号=ストックホルム改正条約)。特許・実用新案・意匠・商標・商号・原産地表示等の不正競争について規定。
- 特許協力条約(PCT)(1970年6月19日にワシントンで作成され、1979年9月28日に修正され、1984年2月3日及び2001年10月3日に変更された特許協力条約)
日本は1978年に加盟(昭和53年条約13号)。複数の国において発明の保護(特許)を取得するための手続を簡易かつ経済的に行うことを目的とする,国際特許の手続について規定。
- 著作物の保護に関するベルヌ条約(1896年5月4日にパリで補足され、1908年11月13日にベルリンで改正され、1914年3月20日にベルヌで補足され並びに1928年6月2日にローマで、1948年6月26日にブラッセルで、1967年7月14日にストックホルムで及び1971年7月24日にパリで改正された1886年9月9日の文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約)
日本は1899年に加盟(昭和50年条約4号=パリ改正条約)。著作物に関する権利の保護要件等について規定。
- WIPO 設立条約(世界知的所有権機関を設立する条約)
1967年作成,1970年発効。日本は1975年に加盟(昭和50年条約1号)。上記パリ条約およびベルヌ条約の国際事務局を統合して1892年に設立された知的所有権保護合同国際事務局(BIRPI)を発展的に解消し,これに代わる国際事務局として WIPO を設立するために作成された条約。
- WIPO 著作権条約(WCT)(著作権に関する世界知的所有権機関条約)
1996年作成,2002年発効。日本は発効当初より加盟(平成14年条約1号)。全加盟国の賛成を要件とするベルヌ条約改正が困難であった(先進国と新興国との対立による)ことを背景に,これと二階建て構造とする形で,主にネットワーク利用やデジタル保護手段等に対応することを目的として作成された条約。同様に,WIPO 実演・レコード条約(WPPT,日本については平成14年条約8号)および視聴覚的実演に関する北京条約(2020年発効。日本については令和2年条約1号)がある。
- WTO 設立協定(世界貿易機関を設立するマラケシュ協定)
1994年作成,1995年発効。日本は1994年に加盟(平成6年条約15号)。自由貿易と完全雇用を目指して,GATT のウルグアイ・ラウンドを経て合意された WTO を設立するための協定だが,非関税障壁の一つとして知的財産が挙げられ,同協定の附属書に TRIPs 協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)がある。
上記の条約・協定のいくつかは,権利保護の要件,保護期間等についての国際的な標準を定め,これらの履行を加盟国に求めている。また,これらの多国間条約では以下のような原則が定められている。
- 内国民待遇
他の加盟国の国民を内国民(自国民)と平等に扱うこと(パリ条約2条⑴,ベルヌ条約5条⑴など)。なお WTO 設立協定は,第三国の国民に付与するすべての待遇より不利ではない待遇を他の加盟国の国民に与えるべしとする最恵国待遇を求めている(TRIPs 協定4条)。
- 各国権利独立の原則
特許権・商標権について,加盟国の一つにおいて生じたこれらの権利の事由は他の加盟国における権利に影響を及ぼさない(パリ条約4条の2・6条⑵,⑶)。
- 無方式主義,保護国法主義
著作者の権利の享有・行使には登録・表示等の方式を要しない(ベルヌ条約5条⑵)。また権利の保護の範囲,救済方法等は,もっぱら保護が求められる国の法による(同⑶)。なお,権利享有・行使に方式主義を採る国においても通用するように定められた万国著作権条約(昭和52年条約5号)もある。