知的財産法: 第1講
知的財産とは何か
知的財産とは何か
- 人の知的活動の成果
- 一定の情報・知識
- 創作または保有する者(私人)にとっても,また社会全体にとっても有益なもの
- ゆえにこれを財産(経済的価値)として保護しようとする
情報・知識
法律では「情報」についての定義は特にない。一般の意味は,おおむね 知らせ
とか 判断・行動の材料となる知識
などと解説される。また情報学では ある現象に関して認識されていること,またはその一部
と定義される。
- 情報・知識は,無体物(=空間の一部を占める存在ではない)なので,物理的にコントロールできない。
- 情報・知識は,多くの人に伝播して共有されることにより人類共通の財産となる。
- 逆に情報・知識の有無ないし多寡によって,経済的利益を大きく得たり失ったりすることもある。= 情報・知識が財産としての価値を有することがある。
この「共有され共通の財産となる」という情報・知識の本来の性質と,これを「財産として保護する(=情報を囲い込む)」という仕組みとの相剋が,現代の知的財産法制の問題を大きくしている。
なぜ知的財産は保護されるべきか
- 知的創造サイクル
「創造」の成果が「活用」され「収益」を上げることで次の「創造」という私人のインセンティヴ(動機づけ)となる。また後の「創造」が前の「創造」を凌ぐことで社会全体の技術や文化が向上・発展する。
具体的な知的財産と法
主な知的財産とそれを保護する法令は以下のとおり。
対象(知的財産) | 権利 | 法令 | 概要 |
---|---|---|---|
発明 | 特許権 | 特許法 | 新規性・進歩性のある発明に特許権を付与 |
考案 | 実用新案権 | 実用新案法 | 新規性・進歩性のある考案に実用新案権を付与 ※現在は無審査で権利が付与され,その行使に技術評価を要する。 |
意匠 | 意匠権 | 意匠法 | 新規性・創意性のある意匠に意匠権を付与 |
商標 | 商標権 | 商標法 | 識別性のある商標に商標権を付与 |
著作物 | 著作権・ 著作隣接権等 | 著作権法 | 創作的表現を対象として著作権,著作隣接権を付与 |
新品種 | 育成者権 | 種苗法 | 植物の新品種を開発・育成した者に育成者権を付与 |
営業表示・ 営業秘密等 | - | 不正競争防止法 | 他人の信用にただ乗りするなどの不正競争行為を規制 |
- 発明
- 自然法則を利用した高度な技術的思想の創作
- 考案
- 自然法則を利用した技術的思想の創作(対象は物品の形状・構造・組合せ)
- 意匠
- 物品の形状・模様・色彩もしくはこれらの結合,建築物の形状等または機器操作等に供される画像で,視覚を通じて美感を起こさせるもの
- 商標
- 文字・図形・記号・立体的形状・色彩またはこれらの結合その他音・動き・位置・ホログラム等(=標章)で,商品の生産・譲渡等,役務の提供等に用いるもの
- 著作物
- 思想・感情の創作的表現で,文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するもの
※これらの法律を「知的財産法(intellectual property law)」と総称し,各法律により付与される各権利を総じて「知的財産権(intellectual property rights)」と称する。また,特許法・実用新案法・意匠法・商標法の四法を「産業財産法(industrial property law)」としてまとめ,これらの各法律に基づいて特許庁(経済産業省の外局)の手続(次講 参照)に従い付与される各権利を「産業財産権(industrial property rights)」という(不正競争防止法も経産省所管であることからこれを「産業財産法」に含む捉え方もある)。なお,かつては intellectual property rights を「知的所有権」と,industrial property rights を「工業所有権」とそれぞれ称しており,現在でも条約の公定訳ではこれらの語が用いられている。
「法情報学」の講座では本講の後 知的財産法第2講 の内容を準用します。