法学入門: 第2講
裁判について
裁判とは
- ①具体的な争訟を解決するためになされる公権的な法的判断の表示
- ⑴判決:
- 訴えに対する終局的判断
- ⑵決定:
- 判決以外の裁判で、合議体でなされる
- ⑶命令:
- 判決以外の裁判で、個々の裁判官によりなされる
例) 仮処分命令、差押命令、拘留決定など
- ※審判:
- ⒜家庭事件・少年事件の手続 ⒝行政審判(特許庁の)
- ②裁判で行うこと …… 法的三段論法
- ⑴一般的・抽象的法規範を大前提とする ☞ 法の解釈
- ⑵認定された具体的事実を小前提とする ☞ 事実認定
- ⑶大前提(法規範)に小前提(事実)を当てはめて結論(=判決)を導き出す
- ③裁判(事件)の種類
- ⑴民事事件:
- 私法によって規律される私人間の生活関係に関する事件
- ⑵刑事事件:
- 犯罪に関する事件。犯罪を認定し刑罰を科すための手続
- ⑶行政事件:
- 行政上の法律関係に関する事件。行政機関VS私人,または行政機関相互 ※⑴に準ずる
- 注:「憲法事件」はない ←わが国の法令審査権(違憲立法審査権)は具体的付随的違憲審査制を採る
- 注:当事者の呼称が事件により異なる(別表)
裁判の種類 | 裁判の開始 | 訴える者 | 訴えられる者 | 専門の補助者 |
---|---|---|---|---|
民事(行政)事件 | 訴えの提起(提訴) | 原告 | 被告 | 訴訟代理人 |
刑事事件 | 公訴の提起(起訴) | 検察官※ | 被告人 | 弁護人 |
三審制
三つの「審級」で裁判
- ①第一審(地方裁判所)
- →不服の当事者は控訴ができる
- ②控訴審(高等裁判所)
- →判決に上告理由があれば当事者は上告ができる
- ③上告審(最高裁判所)
- →上告棄却(=原審を維持)【確定】
- →破棄自判【確定】
- →破棄差戻し … ②または①へ
民事事件では,第一審と控訴審が「事実認定」と「法の解釈(法律判断)」を行う(=事実審)が,上告審はその原審が適法に確定した事実に拘束され(民訴321条1項),自らが事実認定を行うことはできず,法律判断のみを行うことができる(=法律審)。したがって上告裁判所は,憲法違反・法令違反等を理由に原判決を破棄する場合で,改めて事実認定をさせる必要があるときは,下級裁判所に審理を差し戻さなければならない(民訴325条)。この場合,差戻しを受けた裁判所は,上告裁判所が破棄の理由とした事実上および法律上の判断に拘束される。
刑事事件では,原則として第一審が事実審で,控訴審および上告審が法律審だが,控訴裁判所および上告裁判所も職権で事実の取調をすることができる(刑訴393条・414条)。
裁判の拠り所(法源)
- ①成文法(制定法)
- ②不文法: 慣習法、判例法
- ③事実としての慣習
- ④条理(=事物の本質的法則、道理)〔裁判事務心得(明治8年太告103号)〕
※刑事事件では①のみ(罪刑法定主義)
裁判での攻撃・防禦
- ①事実認定と主張・立証
※心証形成とその証明度
- 民事裁判:
- 真実の高度の蓋然性 ※弁論主義(民訴246条)
- 刑事裁判:
- 合理的疑いを超える程度の証明
「疑わしきは被告人の利益に従う(in dubio pro reo.)」
- ②法の解釈・適用
- ⑴定義規定
- ⑵立法者の意思
- ⑶解釈の種類
- ⒜拡大解釈:
- 文言が直接指す事項よりも範囲を拡大(性質は同じ)
- ⒝縮小解釈:
- 文言が直接指す事項よりも範囲を縮小
- ⒞類推解釈:
- 文言が直接指す事項と性質は異なるが類似の事項に当てはめる
- ⒟反対解釈:
- 文言が触れていない事項については文言と反対に解する
裁判の効力
- ①判決の確定と執行 →客観的強行性
- ②既判力: ある事項についての訴訟上の拘束力
その後同一の事項が訴訟上問題となっても,当事者はこれに反する主張ができず,裁判所もこれに牴触する裁判ができない。
- ⑴民事
- ⒜客観的既判力:
- 主文に包含するもののみ(民訴114条)
- ⒝主観的既判力:
- 当事者その他一定の関係者(民訴115条)
- ⑵刑事
- ⒜内部的効果:
- 事件の内容が確定
- ⒝外部的効果:
- 同一事件について公訴の提起が許されない(一事不再理:憲39条)
- ⑴民事
判例・裁判例の読み方
- 識別の方法(記号)
- 最判昭45・7・24民集24巻7号1116頁
- 東京地決平9・7・22判時1627号141頁
- 水戸家土浦支審平11・2・15家裁月報51巻7号93頁
1 の部分(空色の背景)はその裁判が行われた裁判所を指す。“最”は最高裁判所(特に大法廷の裁判は “最大” とも表記する),“東京地”は東京地方裁判所,“水戸家土浦支”は水戸家庭裁判所土浦支部など。
2 の部分(藤色の背景)は裁判の種類。“判”は判決,“決”は決定,“命”は命令,“審”は審判。
3 の部分(黄色の背景)はその裁判が行われた日付。通常は和暦(元号)により中黒(・)を使って記述する。
4 の部分(淡紅色の背景)はその裁判が掲載されている判例集等を意味する。「最高裁判所裁判集 民事」を“民集”,「最高裁判所裁判集 刑事」を“刑集”,「知的財産権民事・行政裁判例集」を“知的裁集”,「判例タイムズ」を“判タ”などというように略号で表す。また判例集等に掲載されていないものは事件番号を併記することもある。
- 内容の読み方(主に民事事件について)
- 当事者
- 事案の概要
- 請求の趣旨&請求原因(どんな判決を求めたか,その法的根拠は何か)
- 争点と各当事者の主張
- 争点に対する裁判所の判断
「法情報学」の講座では本講の後 知的財産法第1講 以下の内容を準用します。