法学入門: 第1講
法の意義と形式
法の意義
- 政治的に組織化された社会における規範(=社会規範)で
- 客観的強行性(強制力)を有するもの
- ※社会規範:
- ある社会集団内で,人と人との関係にかかわる行為についていかなる状況でいかなる行為が要求されているかを示す命題
法と他の社会規範との異同
- ①道徳(倫理)
道徳に反した場合には人々から非難されることはあるが客観的強行性はない
- ②慣習
ある社会の構成員間で反復継続して行われる行動型(=慣行)で,それが当該構成員間で拘束力を生じるようになったもの
慣習の強制力も組織的・画一的なものではない
- ③宗教
本来は個人的な心の救いを本質とするが,人の行動の在り方についても規範を与えうる
政治的に組織化された社会におけるものではない
法の形式
- ①成文法(制定法)
国家機関によってあらかじめ定められた一定の手続に従って定立され,一定の形式をもって公布される法
- 何が法であるかが明確,予測可能性が高い
- 議会制民主主義を通して国民の意思が反映されやすい
- ⑴憲法:
- 国家の組織と作用を定める,基本的人権,最高法規
- ⑵法律:
- 立法機関である議会(国会)が定める
- ⑶規則(議院規則,裁判所規則):
- 衆参両院および最高裁判所が制定する,各内部事項に関する法(憲法58条2項・77条)
- ⑷命令:
- 行政機関が制定する法(政令・~省令・~省規則など)
- ⑸条例:
- 地方公共団体が制定する法
- ⑹条約(協約・協定):
- 文書による国家間の合意。条約が国内法上の効力を有するかどうかは国による
- ※一般法と特別法
- 一般法:
- ある事項について一般的原則を定める法
- 特別法:
- 上記事項に含まれる特殊な事項について特に定める法
一般法と特別法は相対関係
※法律・命令を「法令」と総称する。法令の参照は「法令集」(いわゆる「六法」)を用いるのが通常だが,最近ではウェブでも e-Gov 法令検索システム があり,さらにはスマートフォン用のアプリケーション等があって便利である。
- ②不文法
- ⑴慣習法:
- 事実としての慣習に法としての効力が認められたもの(法適用通則法3条)
- ⑵判例法:
- 裁判における先例(裁判例・判例)の集積が法として機能する
※厳密には最高裁による裁判が「判例」(裁判所法4条・10条参照)
iPhone および/または iPad で利用できる法令集アプリには以下のようなものがある。
- 参照判例付きのアプリ
- 有斐閣 判例六法 Professional
アプリ自体は一つで,表示する法令を年ごとに切り替えられる。
- 物書堂六法+模範六法
年ごとにアプリ自体が別になる。縦書きにも対応。
- 法令のみのアプリ
- 六法
公的なリソースである e-Gov 法令検索 からコンテンツをダウンロードして利用する。無償版ゆえ音声を伴う広告がたびたび表示される。
法令の読み方
- 法令名(題名)
- 法令名には,正式名称,略称,略号がある。
正式名称 略称 略号 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 独占禁止法 独禁 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律 風俗営業等規制法
風俗営業法風営 航空機の強取等の処罰に関する法律 ハイジャック防止法 ハイジャック 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律 国際麻薬取締法 国際麻薬 高度情報通信ネットワーク社会形成基本法 IT基本法 IT 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 プロバイダ責任制限法 プロバイダ - 法令として成立した際に,その年と個別の番号からなる識別符号がつけられる(改正でも同様)。
図にあるような法令集の書式では以下のようになる。
- ①が法令名(題名)
法令の改正により題名が改められることもある。例) 「薬事法」(昭和35年法律145号)→「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」(平成25年法律84号による改正)
- ②が公布の年月日と番号(例では「昭和45年5月6日 法律第48号」となる)
なお、「著作権法」という法律はかつて「明治32年法律39号」があったが、現行法はこれを全面改正(法律全体の構成、条数等も含めて全面的に改正)したものである。この場合、明治32年法を「旧著作権法」(または単に「旧法」)として区別することがある。
- ③が施行日(その法令が効力を有する日=法適用通則法2条参照)
- ④が改正法の公布年・番号の履歴
なお、特定の時期に施行されていた法令を適用するなどの場合は、例えば「著作権法(平成24年法律43号による改正前)」というように指定することで、現行の規定と異なることを示す。
- ①が法令名(題名)
- 法令名には,正式名称,略称,略号がある。
- 条・項・号
- 法令は、一つの事項を(原則として)一つの文で表した「条」を重ねて構成する。二以上の文を要する場合はそれぞれが「第一文」「第二文」となるが、第一文が原則を規定し第二文がその例外を定める場合は、特に前者を「本文」といい、後者(書き出しが「ただし、」になる)を「ただし書き(但書)」という。
- 一つの条の中で項目を複数置く場合は、段落を分け(改行し)それぞれを「項」とする。項数については、第1項の記述は省略し、第2項から算用数字で示す(戦前の法令では項数は記述されておらず、一般の法令集ではこれらを補っている)。
- 条または項の中で箇条書きをする必要がある場合は、それらを漢数字の「号」で表す。「箇条書き」に先行する文は、「柱書き」という。
- 改正によって新たに「条」「項」「号」を追加する場合、特に「条」および「号」では、数を繰り下げるのではなく、枝番を使って挿入する。すなわち、民法817条と同818条との間に新たに10の条文を追加する場合は、順に「817条の2」「817条の3」「817条の4」……「817条の11」となる(図参照)。
※もっとも近年は、例えば不正競争防止法の改正(平成30年法律33号)に際して号数を繰り下げる例(同法2条1項17号以下)もあって、過去の裁判例を参照する場合などには混乱をもたらす要因となっている。
- 論文・レポート等で条文を示す場合、通常は「第」を用いなくともよい(例えば「民法94条2項」というように)。しかし枝番が含まれる場合はそれだとわかりづらくなるので、例えば図の★印の部分を指し示すときは、「民法817条の10第1項2号」というように記述する。