知的財産法: 第10講
著作権に関連する権利
著作権に関連する権利
著作物を自ら創作するのではないが,それを公衆に伝達・提供する際にも,創作に準ずる精神的活動を要したり,少なくない経済的投下資本を要したりする場合がある。これらの公衆への伝達・提供を担う者の精神的・経済的利益を保護する必要がある。
出版権
「出版」は,著作物の利用方法の中でも最も古く重要なものの一つであり,またそもそも著作権(知的財産権)の保護の発端が出版に由来するものであったという沿革(第2講 参照)からも,出版を担う者には単なる債権的な利用許諾だけでなく「出版権」という物権的利用権の設定が認められている。
- ①出版の意義(著79条1項)
- 著作物を,文書または図画として
- ⑴出版すること
- ⒜複製し,その複製物を頒布する
- ⒝電子的方式により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を頒布する
- ⑵電子的方式により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて公衆送信(放送・有線放送を除く)する
※電子的方式 =コンピューター・ディスプレイに文書・図画として表示される方式 →電子出版
※上記⑴には当該著作物の複製権(著21条)が働き,⑵には公衆送信権(同23条1項)が働く
- ⑴出版すること
- 著作物を,文書または図画として
- ②出版権の効力(著80条)
- 出版権者は,その目的たる著作物について,上記⑴の頒布目的で複製する権利または⑵の公衆送信する権利を,専有(設定行為による)
※物権的権利 =出版権が設定されると著作権者が出版することも不可
- ※存続期間(著83条)
- 設定行為で定めるところによる
- 上記の定めがないとき=設定後最初の出版行為等があってから3年を経過した日に消滅
- 出版権者は,その目的たる著作物について,上記⑴の頒布目的で複製する権利または⑵の公衆送信する権利を,専有(設定行為による)
出版権は,著作権の一部の上に成立する,いわば「制限物権」である。あくまで著作権者(複製権者または公衆送信権者)と出版権者との間の設定行為(=契約)を前提としており,出版という事実のみによっては発生しない。著作隣接権(次節)のように,出版の事実のみをもって出版者に自動的に発生する独占的権利(例えば「版面権」というような)の新設を求める声もあるが,本権としての著作権に負担・制限が生ずるものである限りは難しく,他方著作権と重畳的な権利とすることは出版物の値上げや権利処理の煩雑さを招きかねないという意味から容易ではないように思われる。
著作隣接権等
実演家,レコード製作者,放送事業者および有線放送事業者にはそれぞれの成果について独占的権利が付与される。実演家人格権および一部の報酬請求権を除く財産権は,「著作隣接権」と総称され,各権利の存続期間は以下のとおりである(著101条)。
- 実演家の権利
- 始期:
- 実演を行った時
- 終期:
- 実演が行われた日の属する年の翌年から起算して70年
- レコード製作者の権利
- 始期:
- 音を最初に固定した時
- 終期:
- レコードが発行された日(音の固定の翌年から70年以内に発行されなかったときは固定の日)の属する年の翌年から起算して70年
- 放送事業者・有線放送事業者の権利
- 始期:
- 放送・有線放送を行った時
- 終期:
- 放送・有線放送が行われた日の属する年の翌年から起算して50年
なお,アメリカ合衆国においてはそもそも「著作隣接権」の概念がなく,実演・放送(有線放送)については主に著作権者等との契約で保護が図られ,他方レコード(phonogram)は著作物として(連邦著作権法102条⒜⑺)保護されている。こうした背景から,アメリカはいまだに実演家等保護条約(ローマ条約)に加盟せず,逆に聴覚的実演とレコードについては国際的に保護強化を求めてレコード保護条約を主導するというように,著作権・著作隣接権の国際的協調の摩擦をもたらしている。
実演家の権利
- ①意義等
- 実演: 著作物を演ずること(著2条1項3号)
※著作物を演じないが芸能的な性質を有するものも含む
- 実演家: 実演を行う者&実演を指揮し,または演出する者(同4号)
- 放送同時配信等: 放送番組・有線放送番組を,当該番組の放送等が行われた日から一定期間内に限り,当該番組の内容を変更せずに行う自動公衆送信。いわゆる「同時配信」のみならず「追っかけ配信」および「見逃し配信」をも含む(同9号の7)
- 実演: 著作物を演ずること(著2条1項3号)
- ②実演家人格権
- ⑴氏名表示権(著90条の2)
- ⑵同一性保持権(著90条の3)
- ③財産権としての実演家の権利
- ⑴録音権・録画権(著91条)
- ⑵放送権・有線放送権(著92条。同93条・94条も参照)
- ⑶送信可能化権(著92条の2)
- ⑷譲渡権(著95条の2)
- ⑸
- ⒜商業用レコードの貸与権(著95条の3第1項)
- ⒝期間経過商業用レコードの貸与報酬請求権(同条2項・3項)
- ⑹商業用レコードの二次使用料請求権(著95条)
- ⑺
- ⒜放送される実演の有線放送に係る報酬請求権(著92条2項1号・94条の2)
- ⒝商業用レコードに録音されている実演の放送同時配信等に係る使用料相当額補償金請求権(著94条の3)
※上記のうち⑴~⑸⒜は許諾権(独占的権利)だが,⑸⒝,⑹および⑺は報酬請求権=許諾・禁止はできないが報酬・補償金としての対価を受けうる権利=である。⑸および⑹についての詳細と問題点は次項参照。
※放送される実演については,その放送事業者の送信可能化権を侵害しない限り,当該放送を受信して行う地域限定特定入力型自動公衆送信(放送と同一地域に供される IP 再送信)には権利が働かない(ただし補償金を要する)(著102条5項・6項)。
著作権法91条1項の録画権が適法に処理された実演については,その他の許諾権が働かない(著92条2項・92条の2第2項・95条の2第2項)。これは適法な録画物による実演の利用をスムーズに行わせるためで(著92条2項2号により放送・有線放送については録音物による利用も同様),実演家の権利についてのワンチャンス主義と称される。当然ながら,実演家の権利を有する者に無断で録音・録画された実演には放送権その他の許諾権が働くこととなる。
レコード製作者の権利
- ①意義等
- レコード: 蓄音機用音盤等の物に音を固定したもの(著2条1項5号)
※音をもっぱら影像とともに再生することを目的とするものを除く
※記録媒体に音のデジタル・データが記録されたものも「レコード」である
- レコード製作者: レコードに音を最初に固定した者(同6号)
- 商業用レコード: 市販の目的で製作されるレコードの複製物(同7号)
- レコード: 蓄音機用音盤等の物に音を固定したもの(著2条1項5号)
- ②レコード製作者の権利
- ⑴複製権(著96条)
- ⑵送信可能化権(著96条の2)
- ⑶譲渡権(著97条の2)
- ⑷
- ⒜商業用レコードの貸与権(著97条の3第1項)
- ⒝期間経過商業用レコードの貸与報酬請求権(同条2項・3項)
- ⑸
- ⒜商業用レコードの二次使用料請求権(著97条)
- ⒝商業用レコードの放送同時配信等に係る使用料相当額補償金請求権(著96条の3)
貸与権の創設を巡る問題点
1980年代前半,わが国では音楽や映像のソフト(当時は前者についてはアナログ・レコード,後者についてはビデオ・カセットテープがそれぞれ一般的であった)をレンタルする事業が流行したのを受けて,音楽ソフトをターゲットとして「貸与権」を設ける改正(昭和59年法律46号)が行われた(映像ソフトのレンタルについては従前からある「頒布権」で対応。またこの改正に際してわが国で従来から存在した貸本については経過措置により適用外とした=附則4条の2,後に平成16年法律92号にて廃止)。その際,著作権だけでなく実演家の権利およびレコード製作者の権利にも「貸与権」が設けられたのだが,ここで問題が生じた。
音楽ソフトに係る著作権,すなわち音楽著作物の作詞家および作曲家の著作権は,ほとんどが包括的に著作権等管理事業者である JASRAC に管理委託されており,これが権利行使することで実質的に報酬請求権化している。他方実演家とレコード製作者については,現行法上それぞれに著作権等管理事業者が存在するが(前者には芸団協実演家著作隣接権センター=CPRA=が,後者には日本レコード協会=RIAJ=が登録されている),包括的な権利管理委託ではなく,許諾・禁止権は個々の権利者が行使できる状態であった。
そこで立法者は一計を案じ,実演家とレコード製作者の許諾・禁止権としての貸与権は,その権利に係る商業用レコードの最初の販売から1カ月~12カ月での政令所定期間の時限とし(著95条の3第2項・97条の3第2項),当該期間を経過した残余49年(現行では69年)は商業用レコードの貸与については報酬請求権,すなわち貸与を禁止することはできないが相当額の報酬を受けられる請求権として(著95条の3第3項・97条の3第3項),当該報酬請求権を指定団体によってのみ行使しうることとした(著95条の3第4項~6項・97条の3第4項・同5項・95条5項~14項)。これによって,リリース直後の音楽ソフトがレンタルに供されてその売上げが落ちることを防ぐとともに,一定期間経過後には広くレンタルされることでその対価を各権利者が享受できることを見込んだ。
上記の許諾・禁止権としての貸与権に係る期間は著作権法施行令57条の2で最長12カ月と定められたものの,わが国のレコード製作者(多くはいわゆるレコード会社)のほとんどは,これを3週間程度のみ行使してそれ以降はレンタルに供されることを禁じていない(レンタル事業者のサイト を参照)。他方,外国の実演家・レコード製作者にあっては,上記改正法施行の当初から現在に至るまで,そのほとんどが許諾・禁止権の最長期間である12カ月間レンタルを禁じている。これは,上記改正の趣旨と,音楽ソフトがレンタルに供されることが必ずしも権利者の利益を奪うものではない(むしろレンタル業者が確実に対価を支払うことで,場合によってはそのほうが利益になりうる)ということを,立法の段階で外国の権利者にうまく説明できなかった背景があるようだ。
わが国の音楽市場においては1990年代以降「洋楽の衰退」が進んだとされているが,上記のような法律・制度がその一つの要因になったとも言えるかもしれない。
商業用レコードを放送等で利用する場合の問題点
現行著作権法が制定された1970年当時,すでにラジオやテレビといった放送メディアは一般に普及しており,これらにおいて音楽ソフト(=商業用レコード)は,新たな音楽の紹介・宣伝だったり語りや演技等の BGM だったりと日常的に利用されていた。こうした放送事業者・有線放送事業者(以下このコラムでは単に放送事業者という)による商業用レコードの利用と,当該商業用レコードに係る実演家およびレコード製作者の権利の処理をスムーズに行わせようと,現行法は商業用レコードについては「二次使用料請求権」を定めた(著95条・97条)。これによって,放送事業者が商業用レコードを放送・有線放送で利用する際には実演家およびレコード製作者の許諾を要せず,他方これらの権利者に対して指定団体を通して相当額の使用料を支払えばよいこととなった(商業用レコードに収録されている音楽著作物の著作権については,前述のコラムでも述べたように著作権等管理事業者によって別途スムーズな権利処理がなされる)。
その後20世紀末になって,著作権法は著作物等のインターネットでの利用への対応を迫られ,1997年(平成9年)改正(法律86号)において公衆送信に関する規定を整理(著2条1項7号の2以下)した上で,著作権の支分権として自動公衆送信と送信可能化を含む公衆送信権(著23条1項)を,実演家の権利,レコード製作者の権利および放送事業者・有線放送事業者の権利それぞれの支分権として送信可能化権(著92条の2・96条の2・99条の2・100条の4)を設けるに至った。この改正については,世界に先駆けて WIPO 著作権条約にいち早く対応し,著作隣接権の支分権に送信可能化権を設けて保護の強化を図ったとして,当時の立法関係者も胸を張っていたが(例えば コピライト 436号〔1997年7月〕2頁以下),これが後のわが国のデジタル・コンテンツ産業の発展を妨げる一因となった感は否めない。
要するに,著作隣接権の支分権としての送信可能化権を独占的な許諾・禁止権としたことで,商業用レコードの放送・有線放送による公衆への提示には前記のとおり許諾を要しないのに対し,インターネットを通じての公衆への提示には送信可能化権が働き,実演家およびレコード製作者の許諾を得ないとその権利の侵害となってしまうのである(著作権には管理事業による集中処理がある)。インターネット・ラジオで商業用レコードを利用したいのであればいちいち実演家およびレコード製作者に許諾を得なければならず,このことはそうしたサービスを行おうとする者の意欲を削ぐのに十分であろう。
確かに,radiko (ラジコ) や TVer(ティーヴァー)の一部に見られるようなネット同時配信(マルチキャスト)に対応すべくその後著作権法も改正されているし(平成18年法律121号による34条1項・39条・40条・68条2項・102条3項=現5項=,令和3年法律52号による2条1項9号の7・同9号の8・34条1項・38条3項・39条1項・40条2項・44条・63条5項・93条~94条の3・96条の3・102条5項・103条等),実演家の権利はその団体たる芸団協 CPRA が,またレコード製作者の権利はほとんどの場合各レコード会社が把握していてその団体たる RIAJ が,それぞれスムーズな権利処理を図ってはいるが,これらはいずれも,放送事業者自身またはこれと人的関係・資本関係において密接な関係を有する者が「同時配信」「追っかけ配信」または「見逃し配信」を行う場合にこれらの者に恩恵をもたらすに過ぎず,放送とは別個独自に音楽作品をネット配信サービスをしようとする者には無意味であると言わざるを得ない。また,一部にレコード製作者の権利をレコード会社以外の者が保有している場合(わが国において顕著な例は,人気男性グループを多く抱える芸能事務所など)があり,上記のように放送事業者等によるネット同時配信等については今後権利処理がスムーズになされることが期待されるが,やはり独自のネット配信サービスにあっては,権利者の許諾をいちいち取らなければならない(または該当する楽曲を利用しないこととせざるを得ない)ことに変わりはない。
最近では上記のようにラジオ・テレビのいずれもネット同時配信等が充実しつつあり,わが国でもそれなりに「放送と通信の融合」が実現しつつあるが,それでも海外のネットラジオ等に比較してわが国のそれが(ネット独自配信サービスの少なさやコンテンツ,音質の点で)ずいぶん貧弱に見えて(聞こえて)しまうのは,上記のような拙速でその場しのぎな制度政策が要因の一つであるといえるのではなかろうか。(なお,インターネットを用いた音楽配信サービスの多様化については コンテンツ知的財産論 第5講 も参照されたい。)
放送事業者・有線放送事業者の権利
- ①意義等
- 放送: 公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信(著2条1項8号)
- 放送事業者: 放送を業として行う者(同9号)
- 有線放送: 公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信(同9号の2)
- 有線放送事業者: 有線放送を業として行う者(同9号の3)
※現行著作権法の制定当時は broadcast として無線の電波によるもののみを想定して2条1項8号の規定を設けたところ,後に有線放送が登場して問題となった際に,両者を統合せずに「有線」を追加して改正(昭和61年法律64号)したため現行のような規定となっている。ここでは両者を統合して扱う。
- 放送同時配信等事業者: 人的関係・資本関係において密接な関係を有する放送事業者・有線放送事業者から番組の供給を受けて放送同時配信等を業として行う事業者(同9号の8)
- ②放送事業者・有線放送事業者の権利
- ⑴複製権(著98条・100条の2)
- ⑵(再)放送権・(再)有線放送権(著99条・100条の3)
※放送事業者については「再放送権・有線放送権」,有線放送事業者については「放送権・再有線放送権」となる。要するに,放送または有線放送されたコンテンツを受信してそのままさらに放送または有線放送を行うことに働く権利である。
- ⑶送信可能化権(著99条の2・100条の4)
- ⑷テレビ放送の伝達権(著100条・100条の5)
放送等を受信装置により伝達することの問題点
わが国では2019年にラグビーのワールドカップが開催され,それに伴って試合の中継映像を拡大して大勢で愉しんだり(いわゆるパブリック・ビューイング),スポーツバーのような飲食店で愉しんだりする情景がしばしば繰り広げられた。テレビ放送や有線テレビ放送を受信して受信装置等により公に伝達することについては,そのコンテンツに係る著作権および放送事業者・有線放送事業者の権利が働くが(著23条2項・100条・100条の5),その一方で,著作権に関しては⒜非営利目的で聴衆・観衆から料金を受けない場合には権利が働かず,さらに⒝「通常の家庭用受信装置」を用いてする場合は(営利目的で料金を徴収しても)権利が働かないとされる(著38条3項)。また著作隣接権にあっては「影像を拡大する特別の装置」を用いてする場合にのみ権利が働くとされていることから,やはり一般的な家庭用の受信装置には権利が働かないと解される(著作隣接権の制限に関する著作権法102条1項において上記38条3項が準用されないことにも注意)。
ここで問題となりうるのは,どの程度までが「通常の家庭用受信装置」に該当し,かつ「影像を拡大する特別の装置」に該当しないか,である。近年液晶や有機 EL といった技術によって家庭用テレビも大型化が進み,一般化しつつある。もちろん,プロジェクターとスクリーンを用いるような場合はいずれの権利も働くものと考えられるが,家庭用テレビにあってそうしたスクリーンに匹敵するほどの大きさのものがないわけではないし(実際,テレビ画面が65型を超えるとその横幅は150cmにも達する),逆に「ホーム・シアター」と称してプロジェクターとスクリーンを一般家庭に設置する例も増えてきている。
加えて,スポーツ,音楽ライヴ等のイベントの中継が,テレビ放送だけではなく動画配信サービスによって供給される機会が多くなってきていることにも留意を要しよう。現にここ数年わが国では,イギリス発祥のインターネット定額動画配信サービス DAZN がプロ・サッカー・リーグやプロ野球リーグの試合を積極的に配信・提供している。当然ながらこうしたインターネット配信は,わが国の著作権法上は「放送」や「有線放送」ではなく,放送・有線放送を前提とする権利制限規定の適用もなければ,そこに作用する権利も異なる(前述のコラム参照)。もちろん前記 DAZN のような既存のサービスにあっては著作権その他の権利についての処理等はなされた上で提供されているわけだが,これからますますスポーツその他のイベントの映像を大勢で享受する機会は増えるであろうことが予想されるところ,そうしたサービスの展開を通して,一般消費者において放送と通信とがシームレスに捉えられるようになった場合に,現行の著作権制度が何らかの歪みをもたらしはしないかという不安はやはり残る。