知的財産法: 第11講
著作権等の侵害
著作権等の侵害
著作者人格権・著作権・出版権・実演家人格権・著作隣接権の侵害に対する救済等は以下のとおり
- ①直接侵害
著作権等(支分権含む)の内容に係る利用行為を無権限で行う→侵害
- ⑴民事救済
- ⒜差止請求(著112条)
- ⒝損害賠償請求(民709条)
損害額認定その他の司法手続の特則(著114条~114条の8)
- ⒞著作者人格権・実演家人格権侵害に係る名誉回復措置請求(著115条)
- ※著作者・実演家の死後にあってはそれらの一定の遺族または著作者・実演家が遺言で指定した者が差止請求・名誉回復措置請求をすることができる(著116条)
- ⑵刑事制裁(著119条以下)
- ⑴民事救済
- ②みなし侵害(著113条)
直接侵害行為をするのではないが,一定の行為を侵害とみなす
- ⑴
- ⒜著作権等の侵害となるべき行為により作成された物の頒布目的輸入(1項1号)
- ⒝著作権等の侵害となるべき行為により作成された物を情を知って頒布・頒布目的所持等すること(同2号)
- ⑵いわゆる「リーチサイト」等の規制(令和2年法律48号追加)
- ⒜送信元識別符号(URL)等の提供により侵害著作物等の他人による利用を容易にする行為(侵害著作物等利用容易化)を,ウェブサイト等(侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等)またはプログラム(侵害著作物等利用容易化プログラム)を用いて行うこと(行為に係る著作物等が侵害著作物等であることを知り,または知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある場合に限る)(2項)
- ⒝侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等の公衆への提示または侵害著作物等利用容易化プログラムの公衆への提供を行う者が,当該行為により侵害著作物等利用容易化に係る送信元識別符号等の提供がなされ,それに係る著作物等が侵害著作物等であることを知り,または知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある場合において,当該侵害著作物等利用容易化の防止措置を講ずることが技術的に可能であるにもかかわらずこれを講じない場合(3項)
- ⑶著作権侵害行為により作成されたプログラム著作物の複製物を情を知って業務上コンピューターで使用すること(5項)
- ⑷
- ⒜技術的利用制限手段を回避する行為〈研究・開発目的等を除く〉(6項)
- ⒝技術的保護手段・技術的利用制限手段を回避するコード(指令符号)の提供等(7項)
- ⑸権利管理情報に関する著作権等のみなし侵害(8項)
- ⒜権利管理情報として虚偽の情報を故意に付加する行為(1号)
- ⒝権利管理情報を故意に除去・改変する行為〈やむを得ない場合を除く〉(2号)
- ⒞権利管理情報の改竄等がなされた著作物等の複製物を情を知って頒布・頒布目的所持等すること(3号)
- ⑹国外頒布目的商業用レコードを国内頒布の目的で輸入・所持等する行為〈国内の最初の発行から4年経過後のものを除く〉(10項,著作権法施行令66条)
- ⑺著作者の声望・名誉を害する方法により著作物を利用する行為(11項)
- ▼知財高判平22・3・25 判時2086号114頁(駒込大観音事件)
※観音像の仏頭部をすげ替える行為が著作者人格権の侵害とみなされるとして当該すげ替えの経緯等に関する広告掲載が命じられた事例
- ⑴
カラオケ法理
直接侵害またはみなし侵害には該当しないが,侵害行為を教唆・幇助したり,その機会・場・手段などを提供したりすることについての責任が問題となる場合がある。これを 間接侵害 または 寄与侵害 という。この問題についてわが国においては,飲食店で客が愉しむカラオケの演奏・歌唱の主体が当該飲食店であるとする,いわゆる「カラオケ法理」がある。
- すなわち,自ら直接侵害行為をなすのではなくとも,その直接の侵害行為につき,
- 管理性ないし支配性
- 収益性ないし収益可能性
-
- ▼最判昭63・3・15 民集42巻3号199頁(クラブ・キャッツアイ事件)〔後掲〕
- ▼東京高判平17・3・31,平成16年(ネ)第405号(ファイルローグ事件)
本件サービスのように,インターネットを介する情報の流通は日々不断にかつ大量になされ,社会的に必要不可欠なものになっていること,そのうちに違法なものがあるとしても,流通する情報を逐一捕捉することは必ずしも技術的に容易ではないことなどからすると,単に一般的に違法な利用がされるおそれがあるということだけから,そのような情報通信サービスを提供していることをもって上記侵害の主体であるとするのは適切でないことはいうまでもない。しかし,単に一般的に違法な利用もあり得るというだけにとどまらず,本件サービスが,その性質上,具体的かつ現実的な蓋然性をもって特定の類型の違法な著作権侵害行為を惹起するものであり,〔本件サービスの提供者〕がそのことを予想しつつ本件サービスを提供して,そのような侵害行為を誘発し,しかもそれについての〔提供者〕の管理があり,〔提供者〕がこれにより何らかの経済的利益を得る余地があるとみられる事実があるときは,〔提供者〕はまさに自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いている者として,その責任を問われるべきことは当然であり,〔提供者〕を侵害の主体と認めることができるというべきである。
- ▼最判平23・1・20 民集65巻1号399頁(ロクラクⅡ事件)〔後掲〕
間接侵害規定を設けるべきか
著作権に対する直接侵害行為を幇助したり,その手段や場を提供したりするなどの行為を侵害とする(みなす)規定,いわゆる間接侵害規定を著作権法に設けるべきか否か,という議論がある。実際,イギリス1988年著作権・意匠・特許法(CDPA1988)には「二次侵害(secondary infringement)」に関する規定があり,侵害複製物の取引に関与する行為と著作権を侵害する複製物の作成・実演に関与する行為とについてこれらを差止めの対象になりうるとしている(もっともこれは二次侵害とされる行為をする者の「著作権侵害の認識」が要求される)。
インターネット上のサービスに関する著作権等侵害にあっては,直接侵害者であるユーザー等に個々に責任追及するよりも当該サービス提供者を間接侵害者としてこれに責任追及できるとなれば,その相手方を把握することが容易になるなど訴訟経済の点においても合理的とされる。
他方間接侵害を明文によって責任ありとすることは,著作物ないしコンテンツを利用するさまざまなビジネス,とりわけ新しいビジネスに対して侵害責任のリスクを増大させるおそれがあり,そうしたビジネスを現に手掛け,あるいは手掛けようとする事業者を必要以上に萎縮させる危険性を孕んでいる。
関連事例
- 最判昭63・3・15 民集42巻3号199頁(クラブ・キャッツアイ事件)
- [1] 事実の概要
X(日本音楽著作権協会〈JASRAC〉=原告・被控訴人[附帯控訴人]・被上告人)は,著作権仲介業務法(当時=現在は著作権等管理事業法)に基づく許可を受け,音楽著作物の著作権者からその著作権(支分権)の移転を受けてこれを行使することを業とする社団法人(現在は一般社団法人)である。Y1およびY2(被告・控訴人[附帯被控訴人]・上告人)は,福岡県北九州市において「クラブ・キャッツアイ」その他複数のカフェー(店名には「クラブ」または「スナック」とあるがいずれも現行の風俗営業等規制法2条1項にいう「接待」をする営業である)を共同経営する者である。Yらは昭和50年(1975年)7月以降反復継続して,その経営に係る前記店舗においてXの管理楽曲をXの許諾を得ずに演奏していたところ,Xが演奏権侵害を根拠に提訴。
Xの請求を全部認容した第一審判決(福岡地小倉支判昭57・8・31 判タ499号226頁)に対しYらが控訴したが,第一審係属中にYらが前記店舗にカラオケを設置して従業員(ホステス)や客に歌唱させていたことが判明,Xも請求を拡張(一部減縮)して附帯控訴した。カラオケを伴奏とする歌唱行為について,Yらは「すでにカラオケのテープで著作権使用料が支払われているので,それを歌唱することによって更に著作権使用料を請求することはでき〔ず,また〕カラオケはそれを歌唱する客が演奏の主体であって……店舗経営者が演奏の主体ではなく,また営利のための演奏でもない」などと争った。
原審(福岡高判昭59・7・5 判時1122号153頁)は,「Yらは、店舗にカラオケを設備してこれを管理し、客にすすめて管理著作物が録音された伴奏用テープを再生して他の客の面前で歌唱させ〔るなどして〕店の雰囲気をつくり、客の来集をはかつて利益をあげることを意図していると認められるから、ホステス等の歌唱は勿論、客の歌唱も含めて演奏の主体性は店側にあり、かつ営利を目的とし、公衆の面前で演奏しているものと認めるのが相当である〔ところ,〕かかる歌唱は、Xの許諾なき限り当該管理著作物にかかるXの演奏権を侵害するものと認められ〔る〕」として,附帯控訴に伴う請求拡張・減縮について原判決を変更してXの請求を一部認容。Yらが上告。
- [2] 判旨
上告棄却(一部却下)
Yらは、Yらの共同経営にかかる原判示のスナツク等において、カラオケ装置と、Xが著作権者から著作権ないしその支分権たる演奏権等の信託的譲渡を受けて管理する音楽著作物たる楽曲が録音されたカラオケテープとを備え置き、ホステス等従業員においてカラオケ装置を操作し、客に曲目の索引リストとマイクを渡して歌唱を勧め、客の選択した曲目のカラオケテープの再生による演奏を伴奏として他の客の面前で歌唱させ、また、しばしばホステス等にも客とともにあるいは単独で歌唱させ、もつて店の雰囲気作りをし、客の来集を図つて利益をあげることを意図していたというのであり、かかる事実関係のもとにおいては、ホステス等が歌唱する場合はもちろん、客が歌唱する場合を含めて、演奏(歌唱)という形態による当該音楽著作物の利用主体はYらであり、かつ、その演奏は営利を目的として公にされたものであるというべきである。
※法廷意見のカラオケ法理を「擬制的にすぎ」るとし,著作権法施行令附則3条1号(現在は廃止)にいう「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているもの」に準じてカラオケ装置による演奏に演奏権が及ぶものと解すべきだとする伊藤正己裁判官の意見あり。
本件判決は,上記伊藤裁判官もその意見で指摘するように,当時規定されていた著作権法附則14条と大いに関連があり,これを措いて本件判決を読むことはその意義を十分に解することにはならない。ここでは,その附則14条とそれに関連する法条をまず紹介する。
- 著作権法 附則 (平成11年法律77号改正前)
- (録音物による演奏についての経過措置)
第14条 適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生については、放送又は有線送信に該当するもの及び営利を目的として音楽の著作物を使用する事業で政令で定めるものにおいて行われるものを除き、当分の間、旧法第三十条第一項第八号及び第二項並びに同項に係る旧法第三十九条の規定は、なおその効力を有する。
- 著作権法施行令 附則 (平成11年政令210号改正前)
- (録音物による演奏についての経過措置を適用しない事業)
第3条 法附則第十四条の政令で定める事業は、次に掲げるものとする。
- 一 喫茶店その他客に飲食をさせる営業で、客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し、又は客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているもの
- 二 キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他フロアにおいて客にダンスをさせる営業
- 三 音楽を伴つて行なわれる演劇、演芸、舞踊その他の芸能を観客に見せる事業
- 【参考】 旧著作権法 (明治32年法律38号,昭和45年法律48号改正前)
第30条 既ニ発行シタル著作物ヲ左ノ方法ニ依リ複製スルハ偽作ト看做サス
- 第一~第七 〔略〕
- 第八 音ヲ機械的ニ複製スルノ用ニ供スル機器ニ著作物ノ適法ニ写調セラレタルモノヲ興行又ハ放送ノ用ニ供スルコト
- 第九 〔略〕
②本条ノ場合ニ於テハ其ノ出所ヲ明示スルコトヲ要ス
第39条 第二十条、第二十条ノ二及第三十条第二項ノ規定ニ違反シ出所ヲ明示セスシテ複製シタル者並第十三条第四項ノ規定ニ違反シタル者ハ一万円以下ノ罰金ニ処ス
旧著作権法下では,適法録音物を再生することによって音楽著作物を演奏する場合は出所明示する限り著作権侵害(偽作)とならないとされていた(この権利制限が憲法の保障する財産権の侵害にならない旨を判示した 最(大)判昭38・12・25 民集17巻12号1789頁・1802頁 も参照)ところ,そのような演奏に演奏権が働くことを定めている現行著作権法(著2条7項,22条)の施行に際し,多くの飲食店・小売店等が店内 BGM として音楽を流す行為を直ちに違法としてしまうと混乱することが予想されたため,「当分の間」旧法の規定を維持したのであった。その後この附則14条は,ベルヌ条約違反を訝る諸外国からの外圧と国内の権利者団体からの主張によって,ようやく平成11年(1999年)に廃止された(「当分の間」は約30年にも及んだ)が,つまり本件当時は,本件被告側が主張するように適法録音物たるカラオケのテープを店内で再生する行為は(残念ながら)演奏権侵害を問えず,それゆえ従業員や客の歌唱を演奏権侵害と主張するほかなかったのである。もし当時すでに附則14条がなかったら,果たして “クラブキャッツアイ事件” においてカラオケ法理が生まれたであろうか?
こうした(極端な言い方をすると)苦し紛れに編み出されたという出自をもつカラオケ法理は,その背景(バックグラウンド)から離れて抽象化され,広く著作権侵害主体を定める法理として確立されたわけだが,今後その合理性が問われるような事象が現れた際に振り返ることもやはり重要なのではなかろうか。
- [1] 事実の概要
- 最判平23・1・20 民集65巻1号399頁(ロクラクⅡ事件)
- [1] 事実の概要
X1~X10(原告・被控訴人[附帯控訴人]・上告人,うち一名は控訴審中に会社分割により交代。以下まとめてXらという)はいずれも放送事業者であり,Y(被告・控訴人[附帯被控訴人]・被上告人)は,デジタル情報家電製品の製造,販売等を目的とする株式会社である。
Yは,「ロクラクⅡビデオデッキレンタル」との名称で,ハードディスク・レコーダー「ロクラクⅡ」(以下「ロクラクⅡ」という)2台一組のうち,日本国内に設置した1台(親機)でテレビ放送に係る放送波を受信・録画し,利用者に貸与または譲渡した他の1台(子機)で当該利用者に日本国内で放送されるテレビ番組の視聴を可能にするサービス(以下「本件サービス」という)を提供する事業を行っていた。Xらは,上記Y事業がXらの著作権および著作隣接権(放送事業者の権利)を侵害するものとして,Yに対し,Xらの著作物または放送を録音・録画の対象とすることの差止めおよびロクラクⅡ親機の廃棄,ならびに合計1億5800万円余の損害賠償を求めて提訴した。
第一審判決(東京地判平20・5・28 平成19年(ワ)第17279号)は,Yの事業におけるその行為に関して著作物および放送の複製につき管理および収益を認め,行為の差止めおよび廃棄,ならびに合計733万円余の損害賠償をYに命じた(一部認容)。双方が控訴。原審(知財高判平21・1・27 平成20年(ネ)第10055号,第10069号)は,「Yが親機ロクラクとその付属機器類を一体として設置・管理することは,結局,Yが,本件サービスにより利用者に提供すべき親機ロクラクの機能を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境,条件等を,主として技術的・経済的理由により,利用者自身に代わって整備するものにすぎず,そのことをもって,Yが本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない。……親子ロクラクの機能,その機能を利用するために必要な環境ないし条件,本件サービスの内容等に照らせば,子機ロクラクを操作することにより,親機ロクラクをして,その受信に係るテレビ放送(テレビ番組)を録画させ,当該録画に係るデータの送信を受けてこれを視聴するという利用者の行為(直接利用行為)が,著作権法30条1項(同法102条1項において準用する場合を含む。)に規定する私的使用のための複製として適法なものであることはいうまでもないところである。そして,利用者が親子ロクラクを設置・管理し,これを利用して我が国内のテレビ放送を受信・録画し,これを海外に送信してその放送を個人として視聴する行為が適法な私的利用行為であることは異論の余地のないところであり,かかる適法行為を基本的な視点としながら,Xらの前記主張を検討してきた結果,前記認定判断のとおり,本件サービスにおける録画行為の実施主体は,利用者自身が親機ロクラクを自己管理する場合と何ら異ならず,Yが提供する本件サービスは,利用者の自由な意思に基づいて行われる適法な複製行為の実施を容易ならしめるための環境,条件等を提供しているにすぎないものというべきである」として,原判決を取り消し。請求・附帯控訴を棄却。Xらが上告。
- [2] 判旨
破棄差戻し
放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すなわち,複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ,上記の場合,サービス提供者は,単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても,放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり,サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。
※カラオケ法理に関し,「著作権侵害者の認定に当たっては,単に物理的,自然的に観察するのではなく,社会的,経済的側面をも含めた総合的観察を行うことが相当である」との金築誠志裁判長裁判官の補足意見がある。
- [1] 事実の概要
なお,テレビ放送がすべて(地上波・BS・CS)デジタル方式となっている現在のわが国においては,テレビ受信機や録画機が DTCP-IP が使用される DLNA 対応機器であれば,上記「ロクラクⅡ」のように,サーバー(親機)たる受信機等にクライアント(子機)たる他の受信機・PC・スマートフォン等からネットワーク(インターネット)経由でアクセスして,宅内はもとより宅外でも放送・録画されたコンテンツを愉しむことができる(対応機種等については Wikipedia の DTCP の項目などを参照)。これは,デジタル技術によってコンテンツの複製や再送信に放送局のコントロールを及ぼすことが可能となったゆえである。
- [1] 事実の概要
X1~X249(原告・控訴人・被上告人。以下まとめてXらという)はそれぞれ音楽教室を運営する法人または個人であり,Y(日本音楽著作権協会〈JASRAC〉=被告・被控訴人・上告人)は,著作権等管理事業法に基づく登録を受けた音楽著作物(歌詞・楽曲)に係る著作権管理事業を行う一般社団法人である。
Yは,その管理する音楽著作物について,音楽教室・歌唱教室等からの使用料徴収を平成30年(2018年)から開始するとして,平成29年(2017年)6月7日,文化庁長官に使用料規程の届出をなした。このことに対し,Xらがその音楽教室におけるY管理楽曲の使用に関わる請求権(著作権侵害に基づく損害賠償請求権または不当利得返還請求権)が存在しないことの確認を求めて提訴したのが本件である。すなわち,音楽教室・歌唱教室において①教師と10名以下の生徒との間で行われるレッスンもしくは②教師1名と生徒1名とで行われるレッスンで,⑴楽曲を一曲通して演奏しない場合もしくは⑵楽曲を一曲通して演奏する場合で,⒜録音物を使用せず,⒝市販の音楽 CD 等の録音物の再生が行われ,もしくは⒞マイナスワン音源(生徒が演奏する楽器のパートのみを除いた合奏が録音された CD 等)の録音物の再生が行われるもの,または③生徒の居宅において教師が行う個人レッスンのいずれにあっても,YがY管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことの確認を求めている(主位的請求。なお予備的請求は,レッスンの参加人数(生徒の人数),演奏者(教師および生徒),演奏対象(小節数),再生対象(市販 CD 等とマイナスワン音源)により細かく態様を分けた上での上記の一部請求である。)。
第一審判決(東京地判令2・2・28 平成29年(ワ)第20502号等)は,音楽教室における演奏の主体についていわゆるカラオケ法理に則りこれをXらであると認め,他方Xらからみてその顧客である生徒は「公衆」に該当し,教室における演奏はこれに直接「聞かせることを目的」とするもので,演奏権が及ぶとして請求棄却(演奏権の消尽,権利濫用等についても否定)。Xらが控訴。原審(知財高判令3・3・18 令和2年(ネ)第10022号)は,「〔著作権法22条の〕『聞かせることを目的』の趣旨は,『公衆』に対して演奏を聞かせる状況ではなかったにもかかわらず,たまたま『公衆』に演奏を聞かれた状況が生じたからといって……,これを演奏権の行使とはしないこと,逆に,『公衆』に対して演奏を聞かせる状況であったにもかかわらず,たまたま『公衆』に演奏を聞かれなかったという状況が生じたからといって……,これを演奏権の行使からは外さない趣旨で設けられたものと解するのが相当であるから,『聞かせることを目的』とは,演奏が行われる外形的・客観的な状況に照らし,演奏者に『公衆』に演奏を聞かせる目的意思があったと認められる場合をいい,かつ,それを超える要件を求めるものではないと解するのが相当である」とした上で,教師の演奏についてはその行為主体がXであり「公衆」たる生徒に「聞かせる目的」で行っていることを認めつつ,他方「音楽教室における生徒の演奏の本質は,あくまで教師に演奏を聞かせ,指導を受けること自体にあるというべきであ」るとして,生徒の演奏行為の主体がXであるか,およびそれが公衆に直接聞かせることを目的とするものであるかにつきいずれも消極に解し,演奏権侵害を否定,予備的請求に係る音楽教室におけるレッスン中の生徒によるY管理楽曲の演奏については著作権侵害に基づく損害賠償請求権または不当利得返還請求権は存しないと結論づけた。Yが上告。
- [2] 判旨
(弁論を開いた上で)上告棄却
演奏の形態による音楽著作物の利用主体の判断に当たっては、演奏の目的及び態様、演奏への関与の内容及び程度等の諸般の事情を考慮するのが相当である。Xらの運営する音楽教室のレッスンにおける生徒の演奏は、教師から演奏技術等の教授を受けてこれを習得し、その向上を図ることを目的として行われるのであって、課題曲を演奏するのは、そのための手段にすぎない。そして、生徒の演奏は、教師の行為を要することなく生徒の行為のみにより成り立つものであり、上記の目的との関係では、生徒の演奏こそが重要な意味を持つのであって、教師による伴奏や各種録音物の再生が行われたとしても、これらは、生徒の演奏を補助するものにとどまる。また、教師は、課題曲を選定し、生徒に対してその演奏につき指示・指導をするが、これらは、生徒が上記の目的を達成することができるように助力するものにすぎず、生徒は、飽くまで任意かつ自主的に演奏するのであって、演奏することを強制されるものではない。なお、Xらは生徒から受講料の支払を受けているが、受講料は、演奏技術等の教授を受けることの対価であり、課題曲を演奏すること自体の対価ということはできない。
※ゆえにレッスンにおける生徒の演奏について,XらがY管理楽曲著作物の利用主体であるということはできない。