不正競争防止法: 第11講
商品・役務内容等誤認惹起行為(2条1項20号)
- 商品・役務の内容等の誤認を惹き起こす行為は,適正表示によって取引を行う事業者から顧客を奪い,公正な競争秩序を阻害する。
規制対象行為(要件)
- 表示の対象
- 商品
- 役務
- 商品・役務の広告
- 商品・役務の取引に用いる書類
- 商品・役務の取引に用いる通信
- 表示の内容
- その商品の原産地・品質・内容・製造方法・用途・数量について誤認させるような表示
- その役務の質・内容・用途・数量について誤認させるような表示
- 規制対象行為
- 表示をする
- 表示をした商品を譲渡し,引き渡し,譲渡・引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,電気通信回線を通じて提供する
- 表示をして役務を提供する
用語等
- ①広告,取引に用いる書類・通信
- ⑴広告: 公衆に対してなされる表示のうち営業目的であるもの
- ⑵書類: 注文書・見積書・送り状・計算書・領収書等
- ⑶通信: 取引上現れる表示行為のうち書類以外の通信形態一切(電信・電話・メール等)
- ②原産地: 商品が産出・加工・製造された生産地
- 大阪地判平12・11・9 平成12年(ワ)第943号 (マンハッタン・バッグ事件)
バッグ類の「Manhattan Passage」「NEWYORK CITY, N.Y., U.S.A.」の表示が原産地誤認惹起行為とされた。
- 大阪地判平8・9・26 平成7年(ワ)第501号 (ヘアピン事件)
ヘアピン(商品)の包装袋に外国国旗が印刷されたシールを貼付することが原産地誤認惹起行為とされた。
- 大阪地判平12・11・9 平成12年(ワ)第943号 (マンハッタン・バッグ事件)
- ③品質(質),内容,製造方法,用途,数量
- 東京地判平13・11・28 平成12年(ワ)第19529号 (ペットフード事件)
乾留物を使用したペットフードの宣伝文書の「茶葉から抽出された」との表示が品質・内容誤認惹起行為とされた。
- 大阪地判平12・11・9 平成12年(ワ)第943号 (マンハッタン・バッグ事件)〔前掲〕
肩掛鞄の「600 Denir Polyester Fablic, P.U. Coating:」との表示が品質誤認惹起行為とされた。
- 新潟地長岡支判平11・12・13 平成8年(ワ)第196号等=判例集未登載
- 東京高判平12・9・6 平成12年(ネ)第507号 (六日町産コシヒカリ事件)
「新潟県六日町産コシヒカリ」の生産農家の顔写真入り米袋と同じ米袋を勝手に使用して表示と異なる内容の米を詰めて販売した行為が商品内容誤認惹起行為とされた。
- 東京地判平13・11・28 平成12年(ワ)第19529号 (ペットフード事件)
他の法規制との関係
- 不当景品類及び不当表示防止法(景表法) 4条1項
- 商品・役務の品質・規格その他の内容について,実際よりも優良である等の表示を禁止
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- 内閣総理大臣による措置命令(6条)
- 都道府県知事による指示(7条)
- 6条の命令違反に対する罰則(15条)
- 食品衛生法 19条・20条
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- 販売の用に供する食品・添加物または器具・容器包装に関する表示の基準を定め,適合表示がなければ販売等不可
- 公衆衛生に危害を及ぼすおそれがある虚偽のまたは誇大な表示または広告の禁止
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- 都道府県知事による行政処分(営業許可の取り消し,営業禁止・停止)(55条)
- 罰則(両罰規定)(72条・78条)
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- 日本農林規格等に関する法律(JAS法) 13条,59条など
- 飲食料品等の品質に関する表示について取扱業者が守るべき基準を定める
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- 内閣総理大臣または農林水産大臣による処分(指示・命令)(39条,61条等)
- 刑事罰(上記の命令・処分に違反した場合)(76条)
刑事制裁
- 不正目的での2条1項20号所掲行為(21条3項1号)
- 商品・役務等にその内容等を誤認させるような虚偽の表示行為(同5号)
関連事例
- 東京地判平16・10・20 平成15年(ワ)第15674号 ポスカム事件
- 知財高判平18・10・18 平成17年(ネ)第10059号 上記控訴審
- [1] 事実の概要
X(原告・控訴人=株式会社ロッテ)とY(被告・被控訴人=江崎グリコ株式会社)は,いずれも菓子・食料品等の製造・売買等を目的とする会社である。Xは,平成9年以降,天然素材甘味料キシリトールの入ったガムを発売しており,平成12年には「キシリトール・ガム+2」(以下「キシリトール+2」という。)の発売を開始した。
Yは,平成15年より,歯の再石灰化促進を目的としてリン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca)を配合した粒状のガム「ポスカム」を発売,その新聞広告やウェブページでの記載において「一般的なキシリトールガムの約5倍の再石灰化を実現しました。」などと表示した(以下これを含む一連の表示を「本件比較表示」といい,本件比較表示を含む広告を「本件比較広告」という。)。
Xは,本件比較表示が不正競争防止法2条1項13号(のちの14号で現20号)にいう品質等誤認表示および同14号(のちの15号で現21号)にいう虚偽事実の陳述流布に当たるとして,Yに対し,ポスカム販売に際しての本件比較広告・本件比較表示の差し止め,謝罪広告および合計10億円余の損害賠償を求めた。Yは,本件比較表示は日本糖質学会の学会誌「Trends in Glycoscience and Glycotechnology」に掲載された,C₁助教授に係る「馬鈴薯澱粉由来リン酸化オリゴ糖の生産と応用」と題する論文(以下「TIGG論文」という。)において紹介されているD-2-3実験の結果を根拠にしており,合理性があるなどとして争った。
- [2] 第一審判旨
請求棄却。
……①……本件比較表示を含む本件比較広告は,D-2-3実験を根拠とし,その実験で示されたデータのとおり表示されていること,そして,②D-2-3実験は,実験条件,方法等について不合理な点は存しないこと,③「D-2-3実験の結果」と「Yがその後実施した再実験(以下「Y実験」という。)の結果」とは,ほぼ同一の数値(約5倍)を示し,D-2-3実験の結果は,上記再実験により裏付けられていると判断できること等の事実に照らすならば,Yが本件比較広告をする行為は,不正競争防止法2条1項13号〔のちの14号で現20号=以下同じ〕及び14号〔のちの15号で現21号=以下同じ〕のいずれの不正競争行為にも該当しない。
- [3] 控訴審判旨
原判決変更。一部(差し止めのみ)認容
Ⅰ ……再現実験ないし追試とは,元の実験……の正確性や信頼性を確認するために行われるものであるから,それを客観的に担保するため,元の実験の実施者……以外の者によって行われるか,仮に元の実験者が関与して行わざるを得ないのであれば,公正な第三者による厳重な監視下において行うなどの条件が必要である。……そうだとすれば,〔TIGG論文の執筆者自身である〕C₁助教授が関与して,かつ,公正な第三者による監視等がないまま行われたY実験は,その実施方法や内容のいかんを問わず,再現実験としての適格性を欠くものといわざるを得ない。したがって,Y実験により,D-2-3実験の再現性が確認されたものということはできない。……当裁判所は,本件において,D-2-3実験の再現実験の実施に関して,これを必要であると考え,本件比較広告の虚偽性について立証責任を負うXの申出に基づいて,鑑定として採用実施したいとして,当事者双方に対しその具体的な実施方法について検討を求めた際,Xが鑑定実施に関する諸条件を提案したのに対し,Yは,鑑定人について〔D-2-3実験の再実験を行い得るのは一部の研究者に限られるとの〕条件に固執し,そうでない限り,鑑定として実施する意義はないと主張して譲らなかったため,裁判所としては,やむなく鑑定の採用実施を断念するに至ったものである。この問題は,当審の審理の中で最も重大なものであり,口頭弁論期日等において,当事者双方が最も力を注いで弁論した点であり,裁判所も最も重視し,慎重に審理決断した点であった。……そうすると,Yは,D-2-3実験の合理性について,必要な立証を自ら放棄したものと同視すべきものであり,D-2-3実験の合理性はないものといわざるを得ない。
Ⅱ 本件比較広告の本件比較表示……は,Yの製品であるポスカムが,Xの製品であるキシリトール+2の約5倍の再石灰化効果を有することを表示するものである。しかしながら,その根拠であるD-2-3実験が合理性を欠くものといわざるを得ないことは,〔認定〕のとおりであり,他にポスカムの再石灰化効果がキシリトール+2の約5倍であるということの根拠は何ら主張されていないから,ポスカムが,キシリトール+2の約5倍の再石灰化効果を有するというのは,客観的事実に沿わない虚偽の事実というべきであり,Yが,……本件比較表示や……本件比較広告を実施した行為は,競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布する行為として,不正競争防止法2条1項14号に該当するものである。
Ⅲ また,本件比較広告がポスカムに関するものであることは明らかであるところ,上記のとおり,……本件比較表示……は,ポスカムがキシリトール+2の約5倍の再石灰化効果を有することを表示するものであり,かつ,それが客観的事実に沿わないのであるから,本件比較広告のこれらの部分は,ポスカムの品質を誤認させるものというべく,したがって,Yが,これらの部分を含む本件比較広告を実施した行為は,同項13号に該当するものである。
- [1] 事実の概要