不正競争防止法: 第10講
ドメイン名の不正取得等
- インターネット上の識別符号(IPアドレス)に対応して人間が認識しやすいように割り当てられるドメイン名(domain name,2条10項参照)は原則として誰でも先着順に取得・登録できるものだが,これを利して不正の目的で他人の商品・役務表示と同一・類似のドメイン名を取得等する行為(サイバースクワッティング:cyber-squatting)は不公正である
- ※ドメイン名に関しては ドメイン名の種類 等を参照。なお一般的に,国別または分野別等を示すトップレベル・ドメイン(ccTLD,gTLD など=文字列の最後に位置する)および分野別等を示すセカンドレベル・ドメイン(gSLD=ccTLD の直前に位置する)がある場合,これらの下位レベル(文字列としては前に位置する)を「ドメイン」として登録することになる。例えば,「www.oit.ac.jp」の場合,「jp」が「日本」を示す ccTLD,「ac」が「学術機関」を意味する gSLD で,「oit」が「大阪工業大学(Osaka Institute of Technology)」として登録されたドメインである(「www」はホストまたはサーバーを示す)。また,関堂の個人サイト「www.sekidou.com」の場合は,「com」が「商業組織用」(=実際には誰でも取得できる)を示す gTLD で,「sekidou」が「関堂」個人の登録(実際には取得・管理を代行業者に委託している)に係る部分である。
- ※現在国別ドメイン jp に係るドメイン名の管理・運用は,社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC) からの委託を受けた 株式会社日本レジストリ・サービス(JPRS) が行っている。
規制対象と意義・要件(2条1項19号)
- ①図利加害目的
- ②特定商品等表示
人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,その他の商品または役務を表示するもの
- ※2条1項1号・2号の「商品又は営業を表示する」より狭い(商品の容器・包装等が含まれない)
- ③同一・類似
サーバー名表示や組織種別,国別コードを除いた部分で判断する
- ④
- ⑴取得: 登録事業者に登録申請を行い,または他の取得者・保有者から移転を受けて,ドメイン名を使用する権利を自己のものとすること
- ⑵保有: ドメイン名を使用する権利を継続して有すること
- ⑶使用: ドメイン名をウェブサイト開設,メール・アドレス作成等の目的で用いること
裁判外紛争処理(2000年10月から)
- 日本知的財産仲裁センター(Japan Intellectual Property Arbitration Center)による紛争処理
ドメイン名の登録移転を命じる等の裁定を行う(もっとも当事者が別途裁判をすることはできる)
- 東京地判平14・4・26 平成13年(ワ)第2887号
- 東京高判平14・10・17 平成14年(ネ)第3024号 (goo.co.jp 事件)
JIPAC(当時は「工業所有権仲裁センター」)のドメイン名移転命令の裁定を不服とした原告が,「goo.co.jp」を使用する権利を有することの確認を求めた(棄却)。
関連事例
- 東京地判平14・7・15 判時1796号145頁 mp3 事件
- [1] 事実の概要
X(原告)はパソコン周辺機器の開発,輸入および販売ならびに音響製品の販売等を目的とする有限会社である。Y(被告)は MP3 形式によって圧縮処理をした音声データをインターネットを通じて配信するサービスを業とする米国の会社であり,「mp3.com」の営業表示(以下「Y表示」という)および標章を用いて上記音楽配信サービス業を行い,また,「http://www.mp3.com」というアドレスにおいてウェブサイトを開設している(以下,このウェブサイトを「Yサイト」という)。
Xは,JPNIC に,平成11年7月16日付けでドメイン名「mp3.co.jp」(以下「Xドメイン名」という)を登録し,同年12月7日,接続の承認を受け,その登録後,「http://www.mp3.co.jp」というアドレスにおいて,ウェブサイトを開設している(以下,このウェブサイトを「Xサイト」という)。
Yは,平成13年3月5日,JIPAC に対し,Xを相手方として,Xドメイン名をYへ移転登録することを求める紛争処理の申立てをしたところ,JIPAC 紛争処理パネルは,同年5月29日,①Xドメイン名はY営業表示および商標と混同を引き起こすほどに類似し,②Xが,Xドメイン名について権利または正当な利益を有しておらず,③Xドメイン名が不正の目的で登録または使用されていると判断して,Xドメイン名をYに移転すべき旨の裁定をした。これを受けてXが,YのXに対する不正競争防止法3条1項に基づく差止請求権が存在しないことの確認を求めて提訴したのが本件であり,その争点は,Xのドメイン名使用等が不正競争防止法2条1項12号〔後の13号で現19号〕または同項1号・2号に該当するかどうかである。
- [2] 判旨
認容。
Ⅰ 不正競争防止法〔2条1項12号(後の13号で現19号)〕が〔ドメイン名不正取得等〕を不正競争行為とし,図利又は加害目的という主観的な要件を設けた上で,その行為を禁止したのは,①誰でも原則として先着順で自由に登録ができるというドメイン名登録制度の簡易迅速性及び便利性という本来の長所を生かす要請,②企業が自由にドメイン名を取得して,広範な活動をすることを保証すべき要請,③ドメイン名の取得又は利用態様が濫用にわたる特殊な事情が存在した場合には,その取得又は使用等を禁止すべき要請等を総合考慮して,ドメイン名の正当な使用等の範囲を画すべきであるとの趣旨からであるということができる。……そうすると,同号にいう「不正の利益を得る目的で」とは「公序良俗に反する態様で,自己の利益を不当に図る目的がある場合」と解すべきであり,単に,ドメイン名の取得,使用等の過程で些細な違反があった場合等を含まないものというべきである。また,「他人に損害を加える目的」とは「他人に対して財産上の損害,信用の失墜等の有形無形の損害を加える目的のある場合」と解すべきであ〔り,〕例えば,①自己の保有するドメイン名を不当に高額な値段で転売する目的,②他人の顧客吸引力を不正に利用して事業を行う目的,又は,③当該ドメイン名のウェブサイトに中傷記事や猥褻な情報等を掲載して当該ドメイン名と関連性を推測される企業に損害を加える目的,を有する場合などが想定される。
〔上記の趣旨および認定事実〕によれば,Xは,「不正の利益を得る目的で,又は他人に損害を加える目的」で,Xドメイン名を取得,保有,使用したということはできない。
Ⅱ ……ドメイン名は,インターネット上のアドレスにすぎないのであるから,ウェブサイトにおいて商品の販売や役務の提供をしても,当然には,そのウェブサイトのドメイン名を〔不正競争防止〕法2条1項1号,2号の「商品等表示」として使用したということはできない〔が,〕他方,ドメイン名は,通常,当該ドメイン名を登録し,ウェブサイトを開設する者の商品等表示と同一の文字列を含む文字列を第3レベルドメインとすることが多く,当該ウェブサイトを閲覧する者としても,ドメイン名と当該ドメイン名の登録者とを結び付けて認識する場合も多いものと推測される。そして,ウェブサイトにおいて,ドメイン名の全部又は一部を表示して,商品の販売や役務の提供についての情報を掲載しているなどの場合には,ドメイン名は当該ウェブサイトにおいて表示されている商品や役務の出所を識別する機能を有することもあるといえ,このような場合には,ドメイン名を法2条1項1号,2号の「商品等表示」として使用していると解すべき場合もあり得る。〔しかし本件にあっては〕前記認定のとおり,Xは,Xサイトにおいて,……Xドメイン名を示す文字列をXサイト上に掲載したと認めることはできず,その後は,Xサイトにおいて,商品の販売や役務の提供についての情報は一切掲載されて〔おらず,〕したがって,Xドメイン名が……「商品等表示」として使用されたということはできない。
- [1] 事実の概要