不正競争防止法: 第9講
技術的制限手段の無効化行為
- デジタル・コンテンツの提供に際してなされるコピー・コントロール(複製行為を禁止し,またはその回数を制限する措置等)やアクセス・コントロール(特定の者にのみ視聴・実行等を可能とさせる措置等)のための技術的制限手段を無効化する行為を,コンテンツ提供者の経済的利益や信用を不当に損なうもので不公正であるとする
技術的制限手段(2条8項)
- ①電磁的方法
- ②影像・音の視聴もしくはプログラムの実行もしくは情報処理または影像・音・プログラムその他の情報の記録を制限する手段
- ※「視聴」「実行」「情報処理」を制限する点で著作権法上の「技術的保護手段」(著2条1項20号)と異なる
- ③
- ⑴視聴等機器が特定の反応をする信号を記録媒体に記録・送信する方式
- ⑵視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像・音・プログラム・情報を変換して記録媒体に記録・送信する方式
- ※⑴の例としては,マクロビジョン(ビデオ),Serial Copy Management System(MD,DAT),Copy Generation Management System(DVD),ビデオゲームの複製物実行不可機能 など。なお,平成30年改正前は当該信号が「影像・音・プログラムとともに」記録・送信することを要件としていた。
- ※⑵の例としては,コンテンツを暗号化して記録媒体に記録する Content Scrambling System(DVD) など
規制される行為(2条1項17号・18号)
- ①営業上用いられている技術的制限手段により制限されている影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置,プログラムもしくは指令符号を記録した記録媒体等を提供する行為
- ※機器(ハードウェア)やソフトウェア(情報)ごとに一律に施される技術的制限手段が対象
- ②他人が特定の者以外の者に影像の視聴等をさせないために営業上用いられている技術的制限手段により制限されている影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置,プログラムもしくは指令符号を記録した記録媒体等を提供する行為
- ※契約者以外に視聴等をさせないなど特定者以外への技術的制限手段が対象
平成23年法律62号改正においては,従来のいわゆる「のみ」要件をはずし,実質的に技術的制限手段を回避する機能を有する装置等が対象になると改められた。これは従前から,たまたまそのような回避機能を有する装置等を含まない趣旨であったと解される(後掲裁判例「マジコン事件」参照)が,「のみ」要件を緩和したことで,そのような回避機能をそれと認識して備えた装置等をことごとく規制対象とするものであると言えよう。
適用除外
- 技術的制限手段の試験または研究のために回避装置等を提供する行為(19条1項9号)
民事救済・刑事制裁
- 技術的制限手段回避行為に対する罰則は,上記平成23年改正によって新設された(21条2項=現3項=4号)。従前は,技術的制限手段がコンテンツ提供者の利益・信用という私益保護を目的とするものであることから罰則は不要とされていた経緯がある。もっとも法改正前当時でも,例えば CATV の契約者以外でも全チャンネルを視聴可能にするチューナーを輸入販売していた業者を,電気用品安全法違反(同法27条の無表示販売等に対する57条3号)で捜査・逮捕した例がある。
関連事例
- 東京地判平21・2・27 平成20年(ワ)第20886号等 マジコン事件
- [1] 事実の概要
X₁(原告=任天堂株式会社)は携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」等(以下「DS」という)およびそのゲームソフトを製造・販売するメーカーであり,その余の原告54社はゲームソフトの制作等を業とする会社で(以下原告55社を合わせて「Xら」という),XらはいずれもDS用ゲームソフトを格納したゲーム・カード(以下「DSカード」という)を製造・販売している。Yら(被告=嘉年華株式会社ほか合計5社)はそれぞれ,ソフトウェアの企画・開発等や日用雑貨等の輸入・販売等を業としている会社である。
Yらはいずれも,DSカードから複製したプログラム(以下「本件吸い出しプログラム」といい,本来であればこれはDS本体で動作し得ない)等をDS本体において実行可能ならしめる「マジコン」(マジックコンピュータの略称)と称する装置(以下「Y装置」という)を輸入・販売していた。
Xらは,上記Yらの行為が不正競争防止法2条1項10号(当時・後の11号で現17号)に該当するものとして,その行為(Y装置の譲渡等)の差止めを求めた。すなわち,DS本体とDSカードは組となって,DSカードに記録されている特定信号(以下「本件特定信号」という)を使用してプログラムの実行を制限している(以下,この仕組みを「X仕組み」という)ところ,X仕組みは不正競争防止法2条7項(現8項)にいう「技術的制限手段」であり,Y装置は技術的制限手段を無効化する機能のみを有するもので,Yらの行為によりXらの営業上の利益が侵害された,というのである。
- [2] 判旨
仮執行の一部を除き(ほぼ全部)認容。
Ⅰ ……我が国におけるコンテンツ提供事業の存立基盤を確保し,視聴等機器の製造者やソフトの製造者を含むコンテンツ提供事業者間の公正な競争秩序を確保するために,必要最小限の規制を導入するという観点に立って,……コンテンツ提供事業者がコンテンツの保護のためにコンテンツに施した無断複製や無断視聴等を防止するための技術的制限手段を無効化する装置を販売等する行為を不正競争行為として規制する〔という〕不正競争防止法2条1項10号〔後の11号で現17号=以下同じ〕の立法趣旨と,無効化機器の1つである MOD チップ〔=媒体に格納された特殊な信号(パソコンで複製できない)をゲーム機が探知してゲーム・プログラムを実行するという手段を無効化するもの〕を規制の対象としたという立法経緯に照らすと,不正競争防止法2条7項〔現8項=以下同じ〕の「技術的制限手段」とは,コンテンツ提供事業者が,コンテンツの保護のために,コンテンツの無断複製や無断視聴等を防止するために視聴等機器が特定の反応を示す信号等をコンテンツとともに記録媒体に記録等することにより,コンテンツの無断複製や無断視聴等を制限する電磁的方法を意味するものと考えられ,〔ある信号を検知した場合にプログラム等の実行を制限する〕検知→制限方式のものだけでなく,〔ある信号を検知した場合にプログラム等の実行を可能とする〕検知→可能方式のものも含むと解される。
Ⅱ ……不正競争防止法2条1項10号の「のみ」は,必要最小限の規制という観点から,規制の対象となる機器等を,管理技術の無効化を専らその機能とするものとして提供されたものに限定し,別の目的で製造され提供されている装置等が偶然「妨げる機能」を有している場合を除外していると解釈することができ,これを具体的機器等で説明すると,MOD チップは「のみ」要件を満たし,パソコンのような汎用機器等及び無反応機器は「のみ」要件を満たさないと解釈することができ〔,〕Y装置は,以上のように解された……「のみ」要件を満たしている。……そして,この点は,Y装置の使用実態を併せ考慮しても同様である。すなわち,証拠……及び弁論の全趣旨によれば,数多くのインターネット上のサイトに極めて多数の本件吸い出しプログラムがアップロードされており,だれでも容易にダウンロードすることができること,Y装置の大部分が,そして大部分の場合に,本件吸い出しプログラムを使用するために用いられていることが認められ,Y装置が専ら自主制作ソフト等の実行を機能とするか,偶然「妨げる機能」を有しているにすぎないと認めることは到底できないものである。
Ⅲ 前記……のとおり,数多くのインターネット上のサイトで極めて多数の本件吸い出しプログラムがアップロードされており,だれでも容易にダウンロードすることができ,Y装置の大部分が,そして大部分の場合に,本件吸い出しプログラムを使用するために用いられているものであるから,Y装置により,Xらは,DSカードの製造販売業者として,本来販売できたはずのDSカードが販売できなくなり,現実に営業上の利益を侵害されているものと認められる。X₁は,DS本体の製造販売業者としても,X仕組みの技術的制限手段が妨げられてその対策を講じることを余儀なくされ,現実に営業上の利益を侵害されているものと認められる。
- [1] 事実の概要