不正競争防止法: 第5講
著名表示冒用行為(2条1項2号)
商品表示・営業表示の標識機能(出所表示,自他識別,品質保証)と顧客吸引力,特にブランド・イメージを保護
- ①著名性
- ⑴周知性(+自己の営業本来の需要者・地域の枠を超えて知られる)
- ⑵一定以上の信用・名声・評判が確立されている
- 例:「ルイヴィトン」「JAL」「三井」「三菱」等
- 注:長年使用しているというだけではダメ
- ②同一・類似: →1号参照
- ※学説:冒用表示が著名表示を認識させるかどうかの観点から判断すべし
- ③「混同」は要件でない。
行為態様
- ①フリーライド(free-ride)〔ただ乗り〕
- ※著名表示の持つ顧客吸引力(good will)にただ乗りすること
- ※他人が長年かけて,あるいは努力して築き上げた高級イメージにただ乗りすることは,本来自ら行うべき営業上の努力や宣伝活動を省き,費用・時間の節約を図るもので不公正
- 裁判例
- 東京地判平6・4・27 知裁集27巻1号171頁 〔中目黒スナック・シャネル事件〕
- 東京高判平7・3・1,平成6年(ネ)第2081号 〔上記事件控訴審〕
中目黒駅近くのガード下の歌謡スナックの営業表示として,世界的に著名な服飾ブランドと同一・類似の「シャネル」を用いることは不正競争行為。
- ②ダイリューション(dilution)〔稀釈化〕
- ※著名・ユニークで良いイメージを持つ表示が冒用されることでそのユニーク性が稀釈され,その価値が毀損される
- ※ダイリューションがあるか否かの判断は〔学説〕…冒用される表示の
- ⑴著名性
- ⑵表示の(または使用による)独自性
- ⑶唯一性(真に一つでなくても,あまりありふれていないこと)
- ⑷広告力(良いイメージを持っているなど)
- 裁判例
- 大阪地判平16・1・29,平成15年(ワ)第6624号 〔日本マクセル事件〕
原告商品等表示〔「マクセル」「Maxell」〕は,造語であり,……原告の表示として独自性があるものと認められ,……良い印象を備えており,顧客吸引力があると推認される。さらに,……原告商品等表示は,高い著名性を備えていたものと認められ〔ることもあり,〕被告による被告商品等表示〔株式会社日本マクセル〕の使用は,ダイリューション,フリーライドに該当する……。
- 大阪地判平16・1・29,平成15年(ワ)第6624号 〔日本マクセル事件〕
- ③ポリューション(pollution)〔汚染〕
- ※高級イメージの定着している表示が低俗・低価値の商品・営業に冒用されることで当該高級イメージが汚染される
- ※ポリューションの成否は冒用者の業種的性格・営業手法等とも関連する
- ⑴悪印象の強い業種(例えば悪徳金融)の企業が冒用
- ⑵詐欺的商法を行う企業が冒用
- ⑶高級イメージの定着している表示を大衆向け商品に冒用 …など
- 裁判例
- 東京地判平13・4・24 判時1755号43頁 〔J-phone事件〕
- 東京高判平13・10・25,平成13年(ネ)第2931号 〔上記事件控訴審〕
通信事業者のブランドと同一・類似である j-phone.co.jp のドメイン名を使用してそのウェブサイトにおいて裸体写真や大人の玩具の販売を行うことが不正競争とされた
適用除外
- ①普通名称・慣用商品等表示の普通に用いられる方法での使用等(19条1項1号)
- ②自己の氏名の不正目的でない使用等(同項2号)
- ③商標法の規定により同一の商品・役務について使用する類似の登録商標または類似の商品・役務について使用する同一・類似の登録商標に係る商標権が異なる商標権者に帰属することとなった場合における各商標権者等による不正目的でない使用(同項3号=令和5年改正)
- ④他人による著名性獲得前からの不正目的でない使用等(同項5号)
民事救済・刑事制裁
- 著名表示冒用行為(2条1項2号)に対する罰則は平成17年改正前は設けられていなかった。これは2条1項2号所掲の規制が同項1号(需要者の「混同」を要件としている)のそれ異なり,もっぱら私益の保護を目的としているからであった。しかし平成15年(2003年)以降決定・改訂されている政府の知的財産推進計画の一環として「ブランドの保護」が謳われ,これを受けて不正競争防止法が改正される運びとなった。
関連事例
- 東京地判平13・7・19,平成13年(ワ)第967号 呉青山学院事件
- [1] 事実の概要
X(原告)は「青山学院大学」「青山学院中等部」等の学校を設置運営する学校法人であり,Y(被告)もまた学校法人である。Xは,その設置する前記各学校またはその集合体を表すものとして「青山学院」,「Aoyama Gakuin」の各名称(以下「X名称」という)を用いており,他方Yは,その設置運営する中学校に「呉青山学院中学校」,ローマ字表記,英語表記として「Kure Aoyama Gakuin」,「Kure Aoyama Gakuin Junior High School」の名称(以下「Y名称」という)をそれぞれ用いていた。
Xは,Yの上記名称使用行為が不正競争行為に当たり,またXの有する商標権を侵害するとして,不正競争防止法 2条 1項 1号,2号または商標法 36条 1項に基づき,上記行為の差止めと 1000万円の損害賠償を求めた。
- [2] 判旨
一部(差止めのみ)認容。
Ⅰ 〔Xが設置運営する学校の沿革,全国に渡る入学志願者の存在とこれに対するアンケートの結果,卒業生の活躍,広報活動等についての認定〕事実によれば,X名称は,遅くとも平成 11年 3月までには,Xが行う教育事業及びXが運営する各学校を表す名称として,学校教育及びこれと関連する分野において著名なものになっていたものと認めることができる。
Ⅱ 一般に営業表示の類否については,取引の実情の下において,取引者又は需要者が両表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想などから両表示を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である〔(最判昭59・5・29 民集38巻7号920頁参照)ところ,認定事実から判断すればY名称はいずれもX名称と〕類似する。
〔「呉青山学院中学校」という名称は営業の普通名称であり,不正競争防止法 11条〈注:現19条〉1項 1号が適用されるとのYの主張につき,〕地名……に「学院」の語を直接続けた「○○学院」の名称を用いている〔中学・高校〕の数は〔その〕総数からみれば極めて小さな割合であり,また,……その多くは,単に当該地名により表された地域に所在する学校という意味を超えて,特定の経営主体により設置運営されている特定の学校を示す固有名称として社会的に認識されていること……に照らせば,所在地の地名と「学院」の組合せが,普通名称又は学校について慣用されている表示に該当すると認めることはできない。
- [1] 事実の概要
- 知財高中間判令1・5・30,
知財高判令2・1・29 平成30年(ネ)第10081号等 マリカー事件- [1] 事実の概要
X(任天堂株式会社=原告・控訴人[被控訴人・反訴被告])は,ゲーム,映像および音楽等のコンテンツの制作・製造・販売等を業とする会社であり,Y1(被告・被控訴人[控訴人・反訴原告])は,当初の商号を「株式会社マリカー」(平成30年に変更)として平成27年(2015年)に設立された,自動車等の売買,リース,レンタル等を業とする会社で,Y2(被告・被控訴人)はY1の代表者である。
Y1は,その設立時より自ら,また平成28年6月以降は複数の有限事業責任組合(以下「関係団体」という)を経由して,公道を走行可能なカート(公道カート)のレンタルとそれに付随する事業(以下「本件レンタル事業」という)を営んでいたところ,本件レンタル事業に係る広告,公道カートの車体,ウェブサイト等において,「マリカー」「MariCAR」等の標章(以下「Y標章」という)を含む表示をし,本件レンタル事業の利用者やY従業員に「マリオ」等のキャラクターのコスチュームを着用させ,さらにそれを撮影した写真・動画を自身のウェブサイトや動画共有サービスに掲載し,さらに平成29年初頭までに「maricar」を含むドメイン名(以下「Yドメイン名」という)につき,ドメイン名登録機関から登録を受け,ウェブサイト開設に使用したものである。
これらYらの一連の行為に対し,Xは,Y標章の使用の差止め,ウェブサイト等の写真・動画の削除等および1000万円余の損害賠償を求めて提訴。すなわちXの主張するところは,Y1の一連の行為のうち,①「マリオカート」および「マリカー」と類似するY標章の使用が不競法2条1項1号または2号の不正競争に該当し,②「マリオ」等の各キャラクター(X表現物)と類似する部分を含む写真および動画のウェブサイト等への掲載(アップロード)がXの著作権(複製権・翻案権,公衆送信権等)を侵害し,③X表現物と類似するコスチュームの貸与(以下「本件貸与行為」という)等および特定の店舗における「マリオ」の人形の使用が不競法2条1項1号または2号の不正競争に該当し,④Yドメイン名の使用が不競法2条1項13号〔現19号〕の不正競争に該当し,⑤X表現物の複製物または翻案物であるコスチュームを貸与する行為が著作権(貸与権)の侵害となる,というものである(一部の争点は省略)。
一審判決(東京地判平30・9・27 平成29年(ワ)第6293号)は,①について,「マリオカート」「マリカー」がXの商品等表示であって周知性があること,およびこれとY1の本件レンタル事業とで混同を生じるおそれがあることを認めつつ,他方「日本語を解しない者の間ではX文字表示マリカーが周知又は著名であったとはいえ」ないなどとして,Y標章およびYドメイン名の使用の停止等(外国語のみで記載されたウェブサイト等におけるものを除く),コスチューム等の使用の停止等(動画のデータの廃棄を含む)およびY1に対する1000万円余の損害賠償をYら命じた(一部認容)。
XとY1の双方が控訴し,Y1は加えて反訴を提起。
- [2] 判旨
原判決変更(Y標章およびYドメイン名の使用については外国語のみで記載されたウェブサイト等を除外せず,損害賠償については5000万円余に変更)。
Ⅰ 〔X文字表示マリオカート,「MARIO KART」表示およびX文字表示マリカーは,いずれも平成27年または平成22年頃の時点で〕Xの人気カートレーシングゲームシリーズを表すものとして,日本国内において,「著名な商品等表示」になり,これが現在も継続していることが認められ〔,また〕「MARIO KART」表示は,〔同時点で〕日本国外のゲームに関心を有する需要者,すなわち,〔訪日外国人を含む〕日本国外の本件需要者……の間でも,Xの人気カートレーシングゲームシリーズを表すものとして,「著名な商品等表示」になり,これが現在でも継続していると認められる。
〔Y標章〕は,公道カートのレンタル等からなる本件レンタル事業に関して使用されているものである〔ので,〕取引の実情を考慮した上で類否判断を行うのが相当である〔ところ,〕X文字表示マリオカートは著名であって,Y標章〔マリカー〕の需要者である日本国内の本件需要者との関係でY標章〔マリカー〕と類似しており,「MARIO KART」表示は著名であって,Y標章〔MariCAR等〕の需要者である日本国内外の本件需要者との関係でY標章〔MariCAR等〕と類似するものであ〔り,〕また,……Y1が単独又は関連団体と共同で行っているY標章……の使用行為は,いずれもY標章……を,自己がしている本件レンタル事業という役務を表示するものとして使用するものといえる。
そして,不競法2条1項2号は,著名表示をフリーライドやダイリューションから保護するために設けられた規定であって,混同のおそれが不要とされているものであるから,Yらが主張するような打ち消し表示の存在〔等の〕事情は,何ら不正競争行為の成立を妨げるものではな〔く,〕したがって,……自ら又は関係団体と共同してY標章……を〔認定事実のとおり〕使用するY1の行為は,外国語のみで記載されたウェブサイト等で用いることも含めて不正競争行為に該当するものである。
※Y1が有する標準文字「マリカー」からなる登録商標の抗弁については権利の濫用として退けた。
Ⅱ⑴ X表現物マリオは,……Xの商品の出所を表示する商品等表示となり,遅くとも……平成18年5月には,日本国内で,Xの商品等表示として著名となっており,……また,遅くとも……平成23年2月頃には,日本国外のゲームに関心を有する需要者の間でも著名となっており,それが現在でも継続しているものと認められる。……X表現物ルイージ,X表現物ヨッシー及びX表現物クッパについても,……Xの商品の出所を表示する商品等表示となったというべきであり,遅くとも……平成21年12月には,日本国内でXの商品等表示として著名となっており,……また,……X表現物ルイージ〔等〕もまた,遅くとも……平成25年1月までには,日本国外のゲームに関心を有する需要者の間で著名となり,それが現在まで継続しているものと認められる。
〔Yらの反論に対し,〕本来的に商品の出所表示機能を有さない商品の形態とは異なり,キャラクターが商品等表示足り得るためには,その性質上,特別顕著性は必ずしも必要ないというべきであ〔り,〕また,〔一定の〕特徴を備えたX表現物マリオは,「顔」以外にも赤い帽子と長袖シャツ,帽子に描かれた「M」のマーク,青のオーバーオール,白い手袋,茶色の靴といったものが複数組み合わされることによっても特徴付けられていて,「顔」も含めた全体に特徴があるものといえ,……「顔」以外の部分がありふれたもので何ら特徴的ではないということはでき〔ない。さらに,〕X表現物について,時代やゲームによって造形が異なるものがあるとしても,……X表現物の特徴と同一かほぼ同一の特徴を備えた「マリオ」〔等〕が,長年にわたって繰り返しXのゲーム作品等に用いられてきたことからすると,X表現物は著名となり,それが現在まで継続していると認められる。
⑵ 〔X表現物マリオ等のコスチュームを着用した人物が写った写真を店舗ウェブサイトに掲載し,また同様の人物が写った動画を動画投稿サイトに投稿する行為について,X各キャラクターのコスチューム〕並びにそれらのコスチュームを着用した人物の表示は,いずれもX表現物の特徴の一部を備えていて,外観上,X表現物と類似することや「マリオカート」シリーズが……日本国内外の本件需要者の間で著名であることからすると,本件各〔写真・動画〕中の上記表示とX表現物は類似するといえ〔,さらに写真掲載・動画投稿行為は,〕単に本件レンタル事業の内容を説明するものではなく,Y1によって自己の商品等表示として用いられたものと認められ〔,〕したがって,〔写真掲載・動画投稿行為〕は不競法2条1項2号の不正競争行為に該当するというべきである。
⑶ 本件貸与行為で用いられている本件各コスチュームは,ライセンシーがXの許諾・監修のもとに作成したものであって,……X表現物の特徴の全部又はその大部分を備えていて,X表現物に類似するものである〔ところ,Y1が謳い文句で〕本件貸与行為を強調し,それを前面に出して本件レンタル事業の宣伝が行われてきた〔ことや,一審判決後も複数のXキャラクターの〕コスチュームを着用した者らの写真をウェブサイトの予約ページで用いていること……からすると,現時点でも本件貸与行為は,Y1がしている本件レンタル事業を特徴付けるものとして,従来と同じく重要な地位を占めているものと推認することができ〔,〕したがって,Y1は,本件各コスチュームを自己の商品等表示として使用しているものと認められ〔,ゆえに〕本件貸与行為は,不競法2条1項2号の定める「使用」に当たるものとして,同号の不正競争行為に該当するというべきである。
⑷ 〔Y1が〕公道カートのレンタルや本件貸与行為を含む本件レンタル事業を行っていた〔店舗〕において,本件マリオ人形を,……店舗の入口付近に設置することは,……本件マリオ人形を自己の商品等表示として用いるものということができ〔,〕そして,本件マリオ人形は,……X表現物マリオの特徴をいずれも備えており,本件マリオ人形がX表現物マリオに類似することは明らかであるから,本件マリオ人形の設置行為は不競法2条1項2号の不正競争行為に該当する。
⑸ 〔認定事実〕によると,従業員が着用していた……コスチュームは,……X表現物の特徴の一部を備えており,かつ,これらのコスチュームを着用し,カートツアーの先導者として公道カートに乗車することは,本件需要者をしてゲームシリーズ「マリオカート」に登場する「マリオ」〔等〕を想起させるといえ,X表現物と上記各コスチューム及び同コスチュームを着用して先導を行う従業員らの表示はいずれも類似するといえる。……そして,上記のように従業員に……コスチュームを着用させる行為は,自己の商品等表示としてこれを使用するものといえるから,従業員に……コスチュームを着用させて,カートツアーのガイドをさせる行為は不競法2条1項2号の不正競争行為に該当する。
※Xによる著作権を根拠とする主張については,不正競争に係る主張と選択的併合に立つものであるとして判断なし。
※ドメイン名に係る不正競争行為の成否,損害額(LLP法の適否を含む)およびY1による反訴請求の可否については省略。
- [1] 事実の概要