不正競争防止法: 第4講
周知表示混同惹起行為(2条1項1号)
商品表示・営業表示の持つ標識としての機能(出所表示,自他識別,品質保証)と顧客吸引力を保護
- ①商品等表示(商品表示または営業表示)
- ⑴人の業務に係る氏名(雅号,芸名,グループ名,愛称・略称等も)
- ⑵商号(商業登記規則上認められない表記でも)
- ⑶商標(商標法上登録要件を満たさないものでも)
- ⑷標章
- ⑸商品の容器・包装
- ※出所表示機能または自他識別機能を有している必要 = 普通名称や単に効能等を連想させるだけの表示は該当しない
- 裁判例
- ▼東京地判平10・3・13 判時1639号115頁〔高知東急事件〕
「東急」は原告商号(東京急行電鉄株式会社)の略称で,原告および東急グループの営業表示として周知・著名。
- ▼東京地判平7・2・27 判時1537号158頁〔ローズ形チョコレート事件〕
商品(それ自体)の形態が取引業者および一定の需要者間で原告商品を表示するものとして評価されていた。
- ▼東京高判平12・2・24 判時1719号122頁〔ギブソン・ギター事件〕 (後掲)
- ▼東京地判平12・6・28 判時1713号115頁〔ジーンズ刺繍事件〕
- ▼東京高判平13・12・26 平12年(ネ)3882号 〔ジーンズ刺繍事件控訴審〕
メディアへの露出のほかにジーンズ購入者を対象とした調査等から,原告ジーンズのポケット部の刺繍は,商品等表示として周知性がある。
- ▼東京地判平10・3・13 判時1639号115頁〔高知東急事件〕
- ②商品または営業:
信用へのただ乗り規制,取引秩序の公正維持という目的から,一般の意味よりも広く
- ⑴商品: 取引の対象となるような有体物+不動産,無体物も含む
- ⑵営業: 営利を目的とする事業+非営利事業
- 裁判例
- ③周知性(=需要者の間に広く認識されている)
混同が生じるかどうかの観点から弾力的に
- ⑴地域: 日本全国である必要はなく,一地方でもよい
- ⑵状態: 特定の需要者,取引業者の間での状態でもよい。自然発生的な周知性でも
- ④同一・類似
類似判断の指標は商標におけるものに準じる
- ⑤使用+使用した商品の譲渡等
- 出所表示機能または自他識別機能を有する態様で使用されること
- ⑥混同(誤認混同)
ある者の商品・営業を,他の者(表示所有者)の商品・営業と錯誤すること
現に混同の結果がなくても,混同のおそれをもたらせば足りる
- ⑴狭義の混同: A社の商品と誤認してB社の商品を購入すること
- ⑵広義の混同: B社がA社の系列会社であると誤認してB社の商品を購入すること
適用除外
- ①普通名称・慣用商品等表示の普通に用いられる方法での使用等(19条1項1号)
- ②自己の氏名の不正目的でない使用等(同項2号)
- ③商標法の規定により同一の商品・役務について使用する類似の登録商標または類似の商品・役務について使用する同一・類似の登録商標に係る商標権が異なる商標権者に帰属することとなった場合における各商標権者等による不正目的でない使用(同項3号=令和5年改正)
- ④他人による周知性獲得前からの不正目的でない使用等(同項4号)
※上記②③④の場合において,営業上の利益を侵害され,または侵害されるおそれがある者は,上記使用等を行う者に対して自己の商品・営業との混同防止表示を付すよう請求できる(同条2項)。
関連事例
- 東京高判平12・2・24 判時1719号122頁 ギブソン・ギター事件
- [1] 事実の概要
X(ギブソン・ギター・コーポレーション=原告・控訴人)は,1894年の一職人の創業に由来する米国のエレクトリック・ギター,フォーク・ギター等の製造会社。Y(株式会社フェルナンデス=被告・被控訴人)は,1969年創業の日本の楽器メーカーである。
Xは,1952年にレスポール・モデルと称するエレクトリック・ギター(以下「X製品」という)を開発・設計,X製品は現在に至るまで(一時製造が中止された時期もあったが)エレクトリック・ギターの代表的モデルの一つとなる。他方Yは,設立されて間もない1970年代初めより現在に至るまで,“Burny” というブランドでX製品のコピー・モデルのエレクトリック・ギター(以下「Y製品」という)を製造・販売している。
Xは,Yに対し,主位的には不正競争防止法2条1項1号を根拠としてY製品の製造・販売等の差し止めと損害賠償を求め,予備的に不法行為(民法709条)を根拠に損害賠償を求めた。第一審(東京地裁)はXの請求を棄却,Xが控訴。
- [2] 判旨
控訴棄却。
Ⅰ X製品は、遅くとも昭和48年(1973年)ころには、我が国のロック音楽のファンの間で、エレクトリックギターにおける著名な名器としての地位を確立し、それとともに、X製品の形態も、Xの商品であることを示す表示として周知となったものと認められる〔が、認定〕事実の下では、このようにしていったん獲得されたX製品の形態の出所表示性は、遅くとも平成5年より前までには、事実経過により既に消滅したものというほかない。すなわち、X製品の形態が出所表示性を獲得した前後のころから、現在に至るまで20年以上にわたって、数にして多い時には10数社の国内楽器製造業者から30以上ものブランドで、類似形態の商品が市場に出回り続けてきたという事実がある以上(しかも、この事実に対し、平成5年(1993年)までの間は、Xによって何らの対抗措置を執られていないことは、X自身認めるところである。)、需要者にとって、商品形態を見ただけで当該商品の出所を識別することは不可能な状況にあり、したがって、需要者が商品形態により特定の出所を想起することもあり得ないものといわざるを得ないからである。
この点につき、Xは、我が国で製造販売されていたX製品の模倣品は、模倣品であることが明示されて流通に置かれていたのであり、模倣品を製造販売する業者は、自らが、その形態はXの商品のものであって、自社の商品表示ではないことを明らかにしているのであるから、これら模倣品が出回っていたことによってX製品の形態の有する出所表示機能が希釈され、X製品の形態が出所表示機能を失うことはあり得ない旨主張する〔が〕、需要者が、X製品の形態の商品の中には、X製品を模倣したものも多数あることを認識しているということは、需要者が、X製品の形態の商品の形態を見てXを含む複数の出所を想定することを意味するものであって、これは、とりもなおさず、X製品の形態自体は特定の出所を表示するものとして機能していないことを物語るものである。
Ⅱ 商品形態の模倣行為は、不正競争防止法による不正競争に該当しない場合でも、取引界における公正かつ自由な競争として許される範囲を著しく逸脱し、それによってYの法的利益を侵害する場合には、不法行為を構成するものというべきである〔ところ、事実〕認定のとおり、Yは、エレクトリックギターの著名な名器であるX製品の顧客吸引力に便乗して利益を挙げようとして、これに似せた精巧な模倣品であることを売り物としてY製品の製造、販売をしたものであり、……〔この〕模倣行為は、その当初の段階においては、不法行為の要件としての違法性を有するものとして開始され、継続されていたものというべきである。
しかしながら、同様の模倣行為が続いた場合、それが公正かつ自由な競争として許される範囲から逸脱する度合いは、時の経過とともに生ずる状況の変化に応じて変化することがあり得るのも当然というべきであ〔り、〕……この点につき本件において極めて重要な意味を有するのは、Yを含む多数の楽器製造業者による……模倣行為が長年にわたって継続されてきており、その結果、X製品の形態は、X創作の名器に由来することが知られつつ、Xを含むどの楽器製造業者のものとしても出所表示性を有さないものとなって、その意味で、原判決にいうエレクトリックギターの形態における一つの標準型を示すものとして需要者の間に認識されるに至っているとの事実、及び、Xが、平成5年(1993年)までの20年以上にわたってこれを放置し続けてきたという事実である。……このようにみてくると、本件でXが不法行為としてとらえ損害算定の根拠としている期間(平成5年9月3日から平成8年9月2日まで)のYによる模倣行為については、たといそれがXから対抗措置を執られた後のものであったとしても、もはや不法行為の要件としての違法性を帯びないものというべきである。
- [1] 事実の概要
- 東京地判平14・1・24 判時1814号145頁 図書券事件
- [1] 事実の概要
X(原告)は全国共通図書券の発行・販売を行っている株式会社であり,Y(被告)は中古書籍・CD等の販売等を業としている株式会社である。
Yは,平成8年頃から,その運営する店内において「図書券の利用が可能である」旨の掲示をし,同内容のチラシを商圏内において配布し,顧客の持参する全国共通図書券と図書との引換えを行っていた。
Xは,Yの上記行為が不正競争防止法2条1項1号所掲の不正競争に該当するとして,①全国共通図書券と図書との引換えの差し止め,②店舗内に「図書券の利用が可能である」旨の掲示をし,同内容のチラシを配布することの差し止め,③領収書への図書券による領収の欄を印刷することの差し止め,④前記②の掲示およびチラシの廃棄,ならびに⑤弁護士費用等の損害賠償を求めた。
- [2] 判旨
店舗内の掲示の差し止めおよび当該掲示の廃棄ならびに損害賠償の一部を認容。
Ⅰ 認定事実によれば,遅くとも平成6年ころには一般消費者の間で,全国の多数の新刊図書を扱う書店において図書券を用いて図書を購入することが可能であること及びこれらの書店は図書券による代金決済を可能とする組織の加盟店であることが,広く認識されていたものと認めることができ〔,また〕新聞広告〔等〕において,X加盟店において図書券の利用が可能である旨の表示がされ,また,X加盟店の各店舗においても当該店舗において図書券の利用が可能である旨を表示したポスターなどが掲示されていたことを併せ考慮すれば,「図書券の利用が可能である」旨の表示は,遅くとも平成6年ころにはX加盟店を示す表示として一般消費者の間に広く認識されていたものというべきである。
すなわち,特定の種類の商品券,プリペイドカードやクレジットカードを利用しての商品の購入が,当該商品券等の代金決済システムを行う特定の組織に加盟する店舗においてのみ可能であるような場合には,ある店舗において当該商品券等の利用が可能であることを表示することは当該店舗が当該組織の加盟店であることを顧客に示すものであり,このような場合には,当該商品券等の利用が可能である旨を表示することが,特定の組織に属する店舗の営業であることの表示となるものである。この場合には,そのような特定の商品券等による代金決済を行う組織の加盟店であることが,当該店舗の社会的な信用を高めることも少なくないのであって,このような点を考慮すれば,当該商品券等の利用が特定の組織に属する店舗のみにおいて可能であることが需要者の間に広く認識されている場合には,当該商品券等の利用が可能である旨の表示が不正競争防止法2条1項1号にいう周知の「商品等表示」に該当し得るものというべきである。
Ⅱ しかしながら,……チラシの記載は,旅行券・オレンジカード・ハイウェイカード・切手・印紙に続けて図書券を挙げた上でその利用が可能である旨を記載したものであるから,現金の代わりに代物弁済として受け入れる対象として,旅行券〔等〕と並列的に図書券を掲げたにすぎず,単に代物弁済の対象についての事実を記載したにすぎないものと認められる。したがって,前記のチラシの記載は,営業主体と何らかの関連をもった記載ということができず,商品等表示の使用に当たらないから,Yが前記チラシを配布する行為は,不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当しない。
また,図書券と図書とを引き換えること自体は,代物弁済として行い得る行為であり,需要者に対して何らかの表示をしているものともいえないから,それ自体は不正競争行為に該当するものではない。代金を図書券で受領した場合にその旨をレシートに記載することも,単なる弁済方法に関する事実の記載であり,需要者に対する表示ということができないから,不正競争行為に該当しない。
- [1] 事実の概要
- 東京地決平28・12・19(平成27年(ヨ)第22042号) コメダ珈琲店事件
- [1] 事実の概要
X(債権者)は喫茶店事業を主たる事業とする株式会社で,昭和43年(1968年)創業の喫茶店「珈琲所コメダ珈琲店」の事業を承継し,平成27年(2015年)現在37都道府県で600店余の「コメダ珈琲店」を直営またはフランチャイズによって運営している。Y(債務者)は,TVゲーム事業,エンターテイメント事業等を主たる事業とする株式会社である。
コメダ珈琲店の各店舗には,いずれもその(郊外型店舗における)店舗外観(店舗の外装,店内構造及び内装)および食器等に共通する特徴がある。すなわち,建物上部は大小の切妻屋根で構成され,側面のベージュ色の外壁の相当部分には赤茶色系のレンガ調のタイル貼り装飾が施され,やはりレンガ調の出窓が備えられている。また店内は,壁面・床面において無垢調の木質系を基調とし,座席の座面と背面(クッションまたは背もたれ)には濃紅色の起毛ストライプが生地が用いられている。
Yは,平成25年(2013年)初頭に,Xのフランチャイジーとなって和歌山市内にコメダ珈琲店を出店することを企図してXに対しフランチャイズ契約を申し込んだが,諸般の事情により同契約は成立に至らなかった。そのような中でYは,和歌山市内にY店舗の建物(写真参照)を建設し,平成26年(2014年)8月から「マサキ珈琲店」としてY店舗の営業を開始した。
Xは,不正競争防止法2条1項1号または同2号を根拠に,同法3条1項に基づく差止請求権を被保全権利として,YによるY店舗におけるY表示の使用(Y店舗の店舗外観の表示の使用およびこれと共にするY店舗内における商品・容器の組合せによる表示の使用)を差し止める旨の仮処分命令を求めた。すなわちXの主張によれば,①「コメダ珈琲店」の標準的な郊外型店舗に共通してあるいは典型的に用いられている店舗外観および②商品(飲食物)と容器(食器)の組合せによる表示はいずれもXの営業表示に当たり,Y店舗におけるY表示の使用は,Xの上記各営業表示と類似する営業表示を使用するものだ,というのである。
- [2] 決定要旨
一部認容(上記①に係るY店舗用建物の使用および印刷物・ウェブにおける同建物の写真等の使用を差止め)。
Ⅰ 店舗の外観(店舗の外装,店内構造及び内装)は,通常それ自体は営業主体を識別させること(営業の出所の表示)を目的として選択されるものではないが,場合によっては営業主体の店舗イメージを具現することを一つの目的として選択されることがある上,①店舗の外観が客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しており,②当該外観が特定の事業者(その包括承継人を含む。)によって継続的・独占的に使用された期間の長さや,当該外観を含む営業の態様等に関する宣伝の状況などに照らし,需要者において当該外観を有する店舗における営業が特定の事業者の出所を表示するものとして広く認識されるに至ったと認められる場合には,店舗の外観全体が特定の営業主体を識別する(出所を表示する)営業表示性を獲得し,……「商品等表示」に該当するというべきである。
〔コメダ珈琲店の店舗外観は,認定の〕とおりの特徴が組み合わさることによって一つの店舗建物の外観としての一体性が観念でき,統一的な視覚的印象を形成しているということができるところ,これら多数の特徴が全て組み合わさった外観は,建築技術上の機能や効用のみから採用されたものとは到底いえず,むしろ,コメダ珈琲店の標準的な郊外型店舗の店舗イメージとして,来店客が家庭のリビングルームのようにくつろげる柔らかい空間というイメージを具現することを目して選択されたものといえ〔,〕他の喫茶店の郊外型店舗の外観と対照しても,上記特徴を兼ね備えた外観は,客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しているということができる(他との十分な識別力を有しているということもできる。……)。
Ⅱ 〔他方,〕一般に,喫茶店において提供する飲食物の容器は,飲食物の提供という本来の目的を十分果たすよう当該飲食物に合わせて選択される……上,客の目を惹くようなデザインの食器が選択されることもあるが,提供商品たる飲食物とその容器との組合せ(対応関係)が営業主体を識別させる機能を有することはまれであるとみられる。こうしたことから,もともと飲食物と容器の組合せ表示のみでは,出所表示機能が極めて弱く,店舗外観以上に営業表示性を認めることは困難であると解されるところ,……認定事実によると,〔Xにおける商品・容器の組合せに係る表示〕が特定の営業主体を識別する(出所を表示する)営業表示性を獲得していたことを根拠付けるに足りる疎明はないといわざるを得〔ず,これらが〕「商品等表示」に該当するということはできない。
※ 店舗外観についてはX表示の周知性,XY両表示の類似性および混同のおそれならびに保全の必要性についても認定。
- [1] 事実の概要