不正競争防止法: 第2講
不正競争防止法の目的
- ①不競法1条
- ⑴
- ⒜事業者間の公正な競争
- ⒝⒜に関する国際的約束の的確な実施
- ⑵
- ⒜不正競争の防止
- ⒝不正競争に係る損害賠償に関する措置等
- ⑶ 国民経済の健全な発展に寄与する
- ※事業者:
- 商業,工業,金融業その他の事業を行う者(独禁2条1項)
- 民間事業者,政府,地方公共団体,公社,公団 なども含む
- ※国際的約束:
- WTO 設立協定・TRIPs 協定,パリ条約,マドリッド協定,商標法条約,外国公務員贈賄防止条約 など
- ⑴
- ②要するに
- ⑴不正競争によって営業上の利益を侵害され,または侵害されるおそれがある者に対し,不正競争行為の停止・予防請求権を付与することにより →不正競争の防止を図る
- ⑵営業上の利益を侵害された者の損害賠償請求権,差止請求権,刑事罰等を整備することで
→事業者間の公正な競争を確保する
一般条項と制限列挙
- ①一般条項
弾力性に富んだ抽象的概念を取り入れている法条(例:民1条2項「信義則」・90条「公序良俗」)
- 不競法での一般条項:=時流に応じて判例・学説が詳細に類型化を進めていくことで法的安定性を確保
- 長所:
- 具体的に掲げられた行為でなくとも規制できる
- 短所:
- 不正競争行為に該当するか否かが不明確になるおそれ
-
※参考: ドイツ不正競争防止法(UWG)
- 1909年法 1条
- Wer im geschäftlichen Verkehre zu Zwecken des Wettbewerbes Handlungen vornimmt, die gegen die guten Sitten verstoßen, kann auf Unterlassung und Schadensersatz in Anspruch genommen werden.
- 業務上の取引において,競業の目的で善良の風俗に反する行為をした者に対しては,中止及び損害賠償を請求することができる。
- 2004年法 3条
- Unlautere Wettbewerbshandlungen, die geeignet sind, den Wettbewerb zum Nachteil der Mitbewerber, der Verbraucher oder der sonstigen Marktteilnehmer nicht nur unerheblich zu beeinträchtigen, sind unzulässig.
- 競争事業者,消費者,その他の市場参加者が少なからずその競争を侵害されその不利となるおそれがある不正競争行為は,許されない。
-
※参考: パリ条約 第10条の2 不正競争行為の禁止
- ⑴ 各同盟国は,同盟国の国民を不正競争から有効に保護する。
- ⑵ 工業上又は商業上の公正な慣習に反するすべての競争行為は,不正競争行為を構成する。
- ⑶ 特に,次の行為,主張及び表示は,禁止される。
- 1 いかなる方法によるかを問わず,競争者の営業所,産品又は工業上若しくは商業上の活動との混同を生じさせるようなすべての行為
- 2 競争者の営業所,産品又は工業上若しくは商業上の活動に関する信用を害するような取引上の虚偽の主張
- 3 産品の性質,製造方法,特徴,用途又は数量について公衆を誤らせるような取引上の表示及び主張
- 不競法での一般条項:=時流に応じて判例・学説が詳細に類型化を進めていくことで法的安定性を確保
- ②制限列挙
わが国の不競法には一般条項がない →制限列挙方式
何が不正競争行為として規制されるかを具体的に列挙している(2条1項1号~22号)
- ※なぜ一般条項を設けなかったのか?
- ・旧法制定当時(大正~昭和初期)は不法行為に対する救済として差し止めはないと考えられていた
- ・アメリカが特に要求してこなかった
- ・不競法に一般条項を設けることで意匠制度の形骸化を招くおそれがあると考えられた
- →産業構造・取引実態の変化から一般条項制定を強く求める声もある
- ※なぜ一般条項を設けなかったのか?
関連事例
- 大阪地判平14・7・25,平成12年(ワ)第2452号 オートくん事件
- [1] 事実の概要
原告Xはソフトウェア業等を目的とする有限会社であり,被告Yは測量器,事務機等の販売・修理を業とする有限会社である。なお,Xの代表者であるAは,X設立までの約 5年間Yに営業社員として勤務していた。
Xは,訴外Bが平成 11年 1月に作成した高知県の公共事業入札等の書類作成支援ソフトウェア「オートくん(バージョン 1)」に関する著作権等一切の権利を譲り受け,同年 4月ころ「オートくん(バージョン 2.00)」(以下「本件ソフトウェア」という。)を完成させて一般顧客に対する販売を開始した。他方Yは,平成 11年 4月ころ「高知県版書類作成支援ソフト(バージョン 1.08)」(以下「Yソフトウェア」という。)を製作し,これを営業先に頒布するとともにインターネット上のYのウェブにおいて公衆送信していた(以下これら一連の行為を「Y行為」という。)。
Xは,①主位的に著作権侵害(著 112条 1項)に基づき,また②予備的に一般不法行為(民 709条)に基づき,Y行為の差し止めと合計 1200万円の損害賠償を請求して提訴した。すなわちXの主張するところは,①Yソフトウェアは著作物たる本件ソフトウェアを複製または翻案したものであり,Y行為はXの著作権(複製権,翻案権)を侵害し,または,②Yソフトウェアは本件ソフトウェアのデッドコピーであり,さらにこれを頒布・公衆送信するYの営業活動はXに対する営業妨害というその目的および態様において取引通念を逸脱した違法なものであるから,不正競争防止法 2条 1項 3号の趣旨に鑑みて一般不法行為が成立する,というものである。
- [2] 判旨
損害賠償の一部を認容。
Ⅰ 本件ソフトウェアは,……汎用表計算ソフト……のマクロ機能を使用してビジュアルベーシック言語により書かれたプログラムであり,〔その構成要素のうち土木関係書類書式が入力された〕帳票部分は,……誰が作成しても同一又は類似の記載にならざるを得ないから,〔これ〕のみで独自に著作物とすることはできない〔が,〕プログラム中の命令の組み合わせについては,作成者……の個性が現れているものと認められ,これら一連の命令部分と帳票部分を組み合わせることにより,……Xの意図する機能を実現するものといえる。そうすると,本件ソフトウェアは,全体としては,……プログラムの「表現」に創作性が認められるから,著作物に当たると認めるのが相当である。
Ⅱ Yソフトウェアは,本件ソフトウェアとは……構造,機能,〔コードの〕表現のいずれについてもプログラムとしての同一性があるとは認められ〔ず〕,Yソフトウェアは,本件ソフトウェアを複製又は翻案したものとはいえない。〔……著作物性の認められない〕帳票部分においてYソフトウェアが本件ソフトウェアに酷似し,前者が後者をデッドコピーした徴表があるとしても……,Yソフトウェアが本件ソフトウェアを複製又は翻案したことを肯定する根拠とはならない。〔主位的請求を棄却〕
Ⅲ 〔Yソフトウェアおよび本件ソフトウェア両者のワークシート(以下それぞれ「Yシート」および「本件シート」という)を〕と対比すると,〔シート・文字の大きさ等の同一性や入力例の矛盾点の一致などの点において,Yシート全体の 62.8%〕が本件シートに依拠していることを示す徴表を有することが認められ〔,また〕Yには〔Xと〕共通する顧客等からの情報によって,……本件ソフトウェアにアクセスする機会はあったと推定される。そうすると,これらのYシート……は,……本件シートを複製した上で,これを改変したものと推認され〔る。さらに認定事実から〕Yは,……自社から独立し,……Yと競業関係に入ったA及びXが本件ソフトウェアを販売するのを妨害する意図をもって,〔Y行為〕を行ったものと推認される。
民法 709条にいう……権利侵害は,必ずしも厳格な法律上の具体的権利の侵害であることを要せず,法的保護に値する利益の侵害をもって足りるというべき〔ところ,相当の労力・費用をかけて作成された本件ソフトウェアの〕帳票部分をコピーして,作成者の販売地域と競合する地域で無償頒布する行為は,他人の労力及び資本投下により作成された商品の価値を低下させ,投下資本等の回収を困難ならしめるものであり,著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして,不法行為を構成するというべきである。〔予備的請求を認容〕