法学入門: 第6講
刑法の原則と犯罪
罪刑法定主義
- ①何が犯罪とされ,それに対してどんな刑罰が科せられるかは,あらかじめ明文の法律によって定められなければならない(憲31条参照)
⇔ 罪刑専断主義
- ②派生する原理原則
- ⑴刑罰法規明確性の原則
- ⑵慣習刑法の禁止(法律主義)
- ⑶遡及処罰(事後法)の禁止(憲39条前段)
- ⑷類推解釈の禁止
- ⑸実体的デュープロセス
- ⑹絶対的不定期刑の禁止
㊟少年事件での相対的不定期刑
犯罪の意義と刑法
- ①犯罪とは
- 責任能力がある人の(有責性)
- 故意(犯意)による行為で
- 犯罪の構成要件に該当し(構成要件該当性)
- 違法性阻却事由がないもの
- ②
- ⑴責任能力(刑39条)
- 心神喪失:
精神障害により事理弁識能力またはその弁識に従って行動する能力のない状態
- 心神耗弱:
上記の能力が欠如してはいないが著しく減退した状態
㊟原因において自由な行為(actio libera in causa)
- ▼最大判昭26・1・17 刑集5巻1号20頁
※多量飲酒により病的酩酊に陥り他人に害悪を及ぼすことを自覚する者が,飲酒酩酊した心神喪失状態で人を刺し死に至らしめた場合に,過失致死罪を適用
- 心神喪失:
- ⑵故意(犯意)(刑38条)
一部例外として過失による行為を罰する(過失致死など)
- 事実(構成要件)の錯誤 →故意を欠く=犯罪とならない
- 法律(違法性)の錯誤(禁止の錯誤) →故意あり(3項)
- ▼大判大14・6・9 刑集4巻378頁(たぬき・むじな事件)
※「むじな」は禁猟獣「たぬき」とは別物であると信じて捕獲→「たぬき」を捕獲するという認識を欠く
- ▼大判大13・4・25 刑集3巻364頁(むささび・もま事件)
※ある地方で「もま」と俗称されている動物が禁猟獣「むささび」と同一とは知らずに捕獲→犯意を阻却せず
- ⑶構成要件該当性
刑法各論(刑法第2編)の罪に関する各規定が構成要件を定めている
- ⑷違法性阻却事由
構成要件に該当する行為は通常は違法 ⇒該当しても違法とならない事由
- ⒜正当行為(刑35条)
法令行為&正当業務行為
- ⒝正当防衛(刑36条)
- 急迫不正の侵害に対し
- 自己または他人の権利を防衛するため
- やむを得ずした行為
- 過剰防衛:
防衛行為が防衛の程度を超えること(2項)
- 誤想防衛:
正当防衛の要件がないのにあると誤信して防衛行為を行うこと →事実の錯誤
- 誤想過剰防衛:
→誤認した侵害に対し防衛行為が相当性を有する場合にのみ故意を阻却
- ⒞緊急避難(刑37条)
- 自己または他人の生命・身体・自由・財産に対する現在の危難があり
- その危難を避けるために
- やむを得ずに行為がなされ(補充性の原則)
- これにより生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった(法益権衡の原則)
- 過剰避難:
- 補充性の欠缺
- 法益権衡の欠缺 →いずれもただし書
- 誤想避難:
緊急避難の要件がないのにあると誤信すること →事実の錯誤
- 誤想過剰避難:
→誤認した危難に対し避難行為が相当性を有する場合にのみ故意を阻却
- ⒟自救行為
- ▼福岡高判昭45・2・14 高刑23巻1号156頁
※建物所有者がその建物の賃借人の占有を侵奪した場合における賃借人の自救行為(鍵の取替え)が認められた例
- ▼福岡高判昭45・2・14 高刑23巻1号156頁
- ⒠被害者の同意
㊟自殺関与・同意殺人=刑202条
- ▼福岡高判昭30・9・28高刑裁特2巻22号1149頁
被害者の同意は行為時に与えられたもので,自由かつ真意のものであることを要する。
- ▼福岡高判昭30・9・28高刑裁特2巻22号1149頁
- ⒜正当行為(刑35条)
- ⑴責任能力(刑39条)
- ③刑法第2編の各規定
- ⑴テンプレート
[犯罪となる行為(構成要件)]をした者は、
[刑罰(量刑)]に処する。 - ⑵
- ⒜未遂罪:
犯罪の実行に着手したが遂げないもの(刑43条)
- 障害未遂:
外的障害により犯罪が未完成に終わった場合 ⇒減刑可
- 中止未遂(中止犯):
自己の意思でやめたもの ⇒必ず減免
※未遂罪を罰するかは各本条による(刑44条,例えば203条)
- 障害未遂:
- ⒝予備罪:
罪を犯す意思を持ちこれを実現するためにする準備行為で実行の着手に至らないもの
⇒重要な犯罪の予備罪は例外的に処罰(刑78条・88条・113条など)
㊟組織犯罪処罰法
- ⒜未遂罪:
- ⑶親告罪:
公訴提起に被害者等の告訴を必要とする犯罪
※各本条による(例えば135条・209条2項)
※非親告罪化が進んでいる……
知的財産法でも,特許権侵害罪(平10年改正),営業秘密不正取得等(不競法=平23年)など
- ⑴テンプレート
- ④
- ⑴併合罪:
確定判決を経ない数個の罪(刑45条)
⇒加重主義(原則=刑47条)←吸収(刑46条)併科(刑48条・53条)
- ⑵観念的競合:
一個の行為が数個の罪名に触れること(刑54条1項前段)
- ⑶牽連犯:
犯罪の手段または結果である行為が他の罪名に触れること(刑54条1項後段)
⇒⑵⑶は最も重い刑により処断
- ▼最大判昭49・5・29 刑集28巻4号151頁
※無免許運転と酒酔運転 →観念的競合
※酒酔運転とその運転中の業務上過失致死 →併合罪
- ⑴併合罪: