法学入門: 第4講
私法の原理・原則と修正・例外
私法の原則
- ①権利能力平等の原則
権利能力は,国籍・年齢・性別等により差別されず平等に認められる。
権利能力を有する存在=人(自然人&法人)
【参考】- ⑴権利能力:
- 私法上の権利の主体となることができる資格(民3条)
- ⑵意思能力:
- 自分の行為の性質を判断することができる精神的能力(民3条の2)
- ⑶行為能力:
- 有効な法律行為を単独でできる能力(民4条以下)
- ⑷責任能力(不法行為能力):
- 行為の責任を弁識することができる精神的能力(民712条・713条)
- ②所有権絶対の原則
財産権の象徴としての所有権は絶対で,権力の不当な干渉を受けない(憲29条1項参照)
- ③私的自治の原則(契約自由の原則)
個人の私法関係はその意思によって自由に規律される。
契約は,締結・相手方・方式・内容においていずれも自由である。
- ④過失責任の原則(自己責任の原則)
人は自己の過失ある行為についてのみ責任を負う。
原則に対する修正・例外
原則を徹底するとかえって衡平を欠くこともある。
- ①権利濫用の禁止 ⇒所有権絶対に対する修正
外形上は正当な権利の行使だが実質的には社会正義に反するなどの理由からその権利行使が否定される
☞- ⑴権利行使の効力が認められない
◆大判昭10・10・5 民集14巻1965頁(宇奈月温泉事件)
- ⑵権利行使が他人に対する不法行為となる →損害賠償責任の発生
◆大判大8・3・3 民録25輯356頁(信玄公旗掛松事件)
- ⑶権利そのものが剥奪されることもある
親権の喪失(民834条)
- ⑴権利行使の効力が認められない
- ②契約自由の原則に対する例外
- ⑴公共的性質を有する事業に関する契約
電気・ガス・水道等の供給契約
- ⑵資力の格差がある者どうしの契約
- 不動産の賃貸借契約 →借地借家法
- 労働契約 →労働契約法,労働基準法
- ⑴公共的性質を有する事業に関する契約
- ③過失責任の原則に対する例外
- ⑴無過失責任
例:製造物責任法
- ⑵他人の行為の責任
監督者責任(民714条),使用者責任(民715条)など
- ⑴無過失責任
民法の基本理念と一般条項
- ①信義誠実の原則(信義則)
権利行使・義務履行について社会生活を営む以上要求される規範(民1条2項)
- ▼最判昭41・11・18 民集20巻9号1845頁
無権代理人が本人の連帯保証人として締結した保証債務契約の履行を求められた際に,当該代理権の不存在を主張して主たる債務の成立を否定することは,信義則に反し許されない。
- ▼最判昭41・11・18 民集20巻9号1845頁
- ②公の秩序,善良の風俗(公序良俗)
- 公序:
- 国家社会の一般的な利益(トップダウン的)
- 良俗:
- 社会の一般的な道徳観念(ボトムアップ的)
⇒要するに…社会の一般的秩序を維持するために要請される倫理的規範
公序良俗に反する法律行為は無効(民90条)
- ▼最判昭56・3・24 民集35巻2号300頁(日産自動車女子若年定年制事件)
※性別を理由にした定年の差別は不合理で(憲法14条違反)公序良俗に反し,当該部分は無効