知的財産法: 第8講
著作者の権利
著作者の権利(広義の著作権)
- 著作物を創作することにより発生(無方式主義=著17条2項)
※未完成でも著作物(著2条1項1号)たりえればよい
※著作権表示(© 発行年 著作権者名)の意義
- 著作者(著作物を創作する者=著2条1項2号)に原始的に帰属
- 著作者の権利には以下の権利が含まれる
- 著作者人格権
- 著作財産権(狭義の著作権)
著作者人格権
- 著作者であるがゆえの固有の権利
※職務著作(著15条)の要件を満たす著作物の著作者は,使用者たる法人等(=団体名義)となる
- 職務著作の要件
- 使用者と従業者との実質的関係(指揮・命令・監督)
- 使用者の発意に基づくこと
- 従業者が職務上作成すること
- 使用者が自己の名義の下に公表する著作物であること(プログラム著作物では不要)
- 作成時の契約・勤務規則に別段の定めがないこと
- 一身専属権(著59条)
- 譲渡不可
- 著作者の死亡により消滅
※ただしその死後も人格的利益は保護される(著60条・116条・120条)
- ⑴公表権(著18条)
自身の未公表の著作物を公表する権利
- ▸同意の推定(2項)
- ⒜著作(財産)権を譲渡した場合
当該著作物をその著作権の行使により公衆に提供・提示すること
- ⒝美術・写真の著作物の原作品を譲渡した場合
その原作品による展示の方法で公衆に提示すること
- ⒞映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属(29条)した場合
当該著作物をその著作権の行使により公衆に提供・提示すること
- ⒜著作(財産)権を譲渡した場合
- ▸同意の擬制(3項)
- ⒜情報公開制度において行政機関等に提供した場合(1号~3号)
情報公開制度に基づいて公衆に提供・提示すること(公文書管理制度により国立公文書館等に移管された場合は同制度による提供・提示を含む)
- ⒝公文書管理制度において国立公文書館等・地方公文書館等に提供した場合(4号・5号)
公文書管理制度に基づいて公衆に提示すること
- ⒜情報公開制度において行政機関等に提供した場合(1号~3号)
- ▸適用除外(4項)=公表権が働かない
- ⒜情報公開制度における不開示事由の例外または裁量的開示により行政機関の長等が公衆に提供・提示する場合(1号~5号)
- ⒝公文書管理制度において情報公開制度上の不開示事由の例外により国立公文書館等の長等が公文書等利用請求者に利用をさせるべく公衆に提供・提示する場合(6号~8号)
- ▼東京高判平3・5・31 判時1388号22頁(神奈川県新築マンション平面図等公開請求事件)
※情報公開条例に基づく図面の開示がその作成者の公表権を侵害し,条例所定の不開示事由に該当するものと認められた事例(平成11年法律42号・43号による行政機関情報公開法制定および著作権法改正前)
- ▸同意の推定(2項)
- ⑵氏名表示権(著19条)
著作物の原作品に/公衆への提供・提示に際し,著作者がその実名または変名を著作者名として表示する/しない権利
※当該著作物を原著作物とする二次的著作物にも及ぶ
- ▸著作物の利用者の便宜
- ⒜すでに著作者が表示しているところに従い表示してよい(2項)
- ⒝利用目的・態様に照らし著作者の利益を害するおそれがないときは,公正な慣行に反しない限り表示の省略が可能(3項)
- ▸適用除外(4項)=氏名表示権が働かない
- ⒜情報公開制度に基づく公衆への提供・提示における場合
- ⓐすでに著作者が表示しているところに従い著作者名を表示するとき(1号)
- ⓑ個人情報を除いた部分開示(行政機関情報公開6条2項参照)において,著作者名表示を省略するとき(2号)
- ⒝公文書管理制度に基づく公衆への提供・提示において,すでに著作者が表示しているところに従い著作者名を表示するとき(3号)
- ⒜情報公開制度に基づく公衆への提供・提示における場合
- ▸著作物の利用者の便宜
- ⑶同一性保持権(著20条)
自身の著作物およびその題号をその意に反して改変(変更・切除等)されない権利
※改作利用権(27条)との関係(別の者に帰属した場合)
- ▸適用除外(2項)=同一性保持権が働かない
- ⒜学校教育に係る著作権の制限規定(33条~34条)に基づく利用における用字・用語の変更等でやむを得ないと認められるもの(1号)
- ⒝建築物の増築・改築・修繕・模様替えによる改変(2号)
- ⒞プログラムを特定のコンピューターで実行し得るよう,またはより効果的に実行し得るようにするために必要な改変(3号)
- ⒟その他著作物の性質&利用目的・態様に照らしやむを得ないと認められる改変(4号)
- ▼東京高判平10・8・4 判時1667号131頁(俳句添削事件)
※新聞・雑誌に投稿された俳句について,選者が必要としたときは添削した上で掲載しうるとの事実たる慣習があり,この慣習に従った添削・掲載は違法な無断改変とならないとした事例
- ▼最判平13・2・13 民集55巻1号87頁(ときめきメモリアル事件上告審)
※メモリーカードの使用によるコンピューター・ゲームのパラメーターの変更が当該ゲームソフトの同一性保持権を侵害するとした事例(コンテンツ知的財産論 第4講 も参照)
- ▸適用除外(2項)=同一性保持権が働かない
著作財産権
- 通常「著作権」という場合はこちらを指す
- 譲渡可能(支分権ごとでも)(著61条)
※著作権が譲渡されると「著作者」と「著作権者」は別々になる
※映画の著作物の著作権は,職務著作でない限り,その著作者が映画制作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは,当該映画制作者に帰属する(著29条1項)
※放送事業者・有線放送事業者による放送・有線放送または放送同時配信等(著2条1項9号の7)のための技術的手段として製作する映画の著作物に係る著作権の一部は,職務著作でない限り,当該放送事業者・有線放送事業者に帰属する(著29条2項・3項)
- 以下の事由の日が属する年の翌1月1日から起算して70年で消滅(著57条)
※2018年12月30日の TPP 発効に伴う平成28年法律108号施行により延長
※外国の著作者が創作した著作物の保護期間=相互主義(著58条)
- 著作者の死亡(共同著作の場合は最後に死亡した者の死亡)〔原則〕(著51条2項)
- 著作物の公表〔無名または周知でない変名の著作物=著作者が誰か判然としない場合〕(著52条)
- 著作物の公表(創作後70年以内に公表されなかった場合は創作)〔団体名義の著作物・映画の著作物〕(53条・54条)
- 著作物の利用態様ごとに支分権
- ⑴複製権(著21条・2条1項15号)
- ⑵上演権・演奏権(著22条・2条1項16号)
- ⑶上映権(著22条の2・2条1項17号)
- ⑷公衆送信権等(著23条・2条1項7号の2)
- ⒜放送権(著2条1項8号)
- ⒝有線放送権(著2条1項9号の2)
- ⒞自動公衆送信権・送信可能化権(著2条1項9号の4・9号の5)
特定入力型自動公衆送信(IP マルチキャスト放送=著2条1項9号の6)および放送同時配信等(著2条1項9号の7)を含む
- ⒟受信装置による伝達権(著23条2項)
- ⑸口述権〔言語の著作物〕(著24条・2条1項18号)
- ⑹展示権〔美術の著作物・未発行の写真の著作物〕(著25条)
- ⑺頒布権〔映画の著作物〕(著26条・2条1項19号)
- ⑻譲渡権〔映画の著作物以外〕(著26条の2)
- ⑼貸与権〔映画の著作物以外〕(著26条の3・2条8項)
- ⑽翻訳権・翻案権(著27条)
なぜ支分権に「映画のみ」と「映画以外」の区分があるのか。
そもそも昭和45年(1970年)制定の現行著作権法には「貸与権」「譲渡権」の規定はなかった。前者はレンタル・レコードの流行を受けた昭和59年法律46号(1984年)に,後者は平成11年法律77号(1999年)に,それぞれ著作権法改正により追加された支分権である(なお「譲渡権」の創設と同時に,それまで映画の著作物のみを対象としていた「上映権」がすべての著作物に認められるようになった)。
他方「映画の著作物」については現行法制定当時から,映画の配給制度を保護すべく,その著作物の複製物を譲渡または貸与することによってこれをコントロールしうるという「頒布権」が設けられていた。それゆえ上記改正に際していずれも「映画には “頒布権” があって貸与や譲渡を許諾・禁止できるから新しい権利に含めなくてよし」とされた経緯がある。
関連事例
- 最判平14・4・25 民集56巻4号808頁(中古ゲームソフト事件)
- [1] 事実の概要
X1~X6(原告・被控訴人・上告人)は,いずれもゲームソフトの開発・製造・販売を目的とする株式会社であり,それぞれ家庭用テレビゲーム機 PlayStation 用またはセガ・サターン用のゲームソフト(本件ゲームソフト)を製作・販売しており,それぞれが各製造・販売に係る本件ゲームソフトの著作権者である。Y1(第一事件=平10年(ワ)第6979号=被告・控訴人・被上告人)はゲームソフトの中古販売のフランチャイズチェーンの運営・育成を業とする株式会社であり,Y2(第二事件=平10年(ワ)第9774号=被告・控訴人・被上告人)はY1のフランチャイジーでゲームソフトの中古販売業を営んでいる。Y2は,フランチャイザーであるY1の指導の下にゲームソフト販売店を開設して営業しており,その店舗において本件ゲームソフトの中古ソフト(いったん一般消費者に譲渡され遊技に供されたゲームソフト)を販売している。
Xらは,Yらの中古ソフト販売行為が著作権(頒布権)侵害であるとして,中古ソフトの頒布(販売)禁止および当該中古ソフトの廃棄を求めて提訴。本件の争点は,⑴本件ゲームソフトが「映画の著作物」であるか,⑵本件ゲームソフトにつきXらが頒布権を有するか,および⑶本件ゲームソフトの頒布権は第一譲渡により消尽するか,である。
第一審(大阪地判平11・10・7 判時1699号48頁)は,Xらの請求を全部認容。原審(大阪高判平13・3・29 判時1749号3頁)は,争点⑴および⑵については第一審と同じく解しつつも,特許制度におけるのと同様の論理で権利消尽の原則を説き,本件ゲームソフトには権利消尽の原則が適用される(著作権法26条の頒布権には本来権利消尽の原則が働くが,映画の配給制度に該当する商品取引形態は同原則の適用されない例外的な場合だ)として,一審判決を取り消し請求棄却。Xらが上告。
なお同時期に本件とは別に,株式会社エニックス(当時)が別の中古ソフト販売業者に対してその製作・販売に係るゲームソフトの中古販売の中止を求めたところ,当該中古ソフト販売業者がエニックスを被告として提起した債務不存在確認請求事件があったが,その第一審(東京地判平11・5・27 判時1697号3頁)は当該ゲームソフトが映画の著作物に該当しないとして,また控訴審(東京高判平13・3・27 判時1747号60頁)は当該ゲームソフトが映画の著作物でこれに頒布権は存するとしつつも,当該ゲームソフトの複製物は著作権法26条1項の「複製物」には当たらず頒布権の対象とならないとして,いずれも請求を認容(債務の不存在を確認)した。
- [2] 判旨
上告棄却
Ⅰ 原判決が適法に確定した事実関係の下においては,本件各ゲームソフトが,著作権法2条3項に規定する「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物」であり,同法10条1項7号所定の「映画の著作物」に当たるとした原審の判断は,正当として是認することができ〔,〕本件各ゲームソフトが映画の著作物に該当する以上,その著作権者が同法26条1項所定の頒布権を専有するとした原審の判断も,正当として是認することができる。
Ⅱ 〔特許権の消尽に関する BBS 並行輸入事件(第4講 参照)における法理は,〕著作物又はその複製物を譲渡する場合にも,原則として妥当するというべきである。……映画の著作物にのみ頒布権が認められたのは,映画製作には多額の資本が投下されており,流通をコントロールして効率的に資本を回収する必要があったこと,著作権法制定〔1970年〕当時,劇場用映画の取引については,……専ら複製品の数次にわたる貸与を前提とするいわゆる配給制度の慣行が存在していたこと,著作権者の意図しない上映行為を規制することが困難であるため,その前段階である複製物の譲渡と貸与を含む頒布行為を規制する必要があったこと等の理由によるもので〔,〕このような事情から,同法26条の規定の解釈として,上記配給制度という取引実態のある映画の著作物又はその複製物については,これらの著作物等を公衆に提示することを目的として譲渡し,又は貸与する権利(同法26条,2条1項19号後段)が消尽しないと解されていたが,同法26条は,映画の著作物についての頒布権が消尽するか否かについて,何らの定めもしていない以上,消尽の有無は,専ら解釈にゆだねられていると解される。
Ⅲ 本件のように公衆に提示することを目的としない家庭用テレビゲーム機に用いられる映画の著作物の複製物の譲渡については,市場における商品の円滑な流通を確保するなど,〔BBS 並行輸入事件におけるのと同様の〕観点から,当該著作物の複製物を公衆に譲渡する権利は,いったん適法に譲渡されたことにより,その目的を達成したものとして消尽し,もはや著作権の効力は,当該複製物を公衆に再譲渡する行為には及ばないものと解すべきである。……なお,平成11年〔1999年〕法律第77号による改正後の著作権法26条の2〔は,映画の著作物以外の著作物についての譲渡権の消尽を規定するが,これは〕上記のような消尽の原則を確認的に規定したものであって,同条1,2項の反対解釈に立って本件各ゲームソフトのような映画の著作物の複製物について譲渡する権利の消尽が否定されると解するのは相当でない。
- [1] 事実の概要