知的財産法: 第6講(補遺3)
商標法概説
商標制度の意義
- ①保護法益(商標1条)
- 商標使用者の業務上の信用
- 需要者の利益
※商標が適切に使用されることによって,当該商標を信用して商品・役務の提供を受ける需要者の利益もまた保護される
商標権者等の私益だけでなく公益をも保護する趣旨。
- ②商標の機能
- ⑴自他商品・役務識別機能
- ⑵出所表示機能
- ⑶(品)質保証機能
- ⑷宣伝広告機能
- ⑸財産的・資産的機能
※商標権の譲渡・移転を認める(商標24条の2以下)制度においては,出所表示機能から質保証機能へと重要性がシフトする。
商標制度の特徴
保護対象・登録要件等
- ①商標(2条1項柱書き)〔※平成26年改正〕
- ⑴標章
人の知覚によって認識できるもののうち
- 文字,図形,記号,立体的形状もしくは色彩またはこれらの結合
- 音
- その他政令で定めるもの(動き,ホログラム,位置など)
- ⑵業として使用するもの
- 商品の生産,証明または譲渡をする者がその商品について使用
- 役務の提供または証明をする者がその役務について使用
※小売業等の業務において行われる顧客に対する便益の提供を含む〔平成18年改正〕
- ⑴標章
- ②使用(商標2条3項)
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- 商品または商品の包装に標章を付する行為(1号)
- そのように付したものを譲渡等する行為(2号)
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- 役務提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為(3号)
- そのように付したものを用いて役務を提供する行為(4号)
- 役務提供の用に供する物に標章を付したものを役務提供のために展示する行為(5号)
- 役務提供を受ける者の当該役務提供に係る物に標章を付する行為(6号)
- コンピューター・ディスプレイ等を介した役務提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為(7号)
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- 商品・役務に関する広告等に標章を付して展示・頒布等する行為(8号)
- 商品の譲渡等または役務提供のために音の標章を発する行為(9号)
- その他政令所定の行為(10号=商標2条1項において「標章」の定義が一部政令委任されていることに伴う)
- 文字・図形・記号・立体的形状(これらの結合またはこれらと色彩の結合を含む)の標章では,商品自体・商品の包装・役務提供の用に供する物や商品・役務の広告を標章の形状とすることも含まれる(商標2条4項1号)
- 音の標章では,商品・役務提供の用に供する物や広告に記録媒体が取り付けられている場合(それ自体が記録媒体である場合を含む)において,当該記録媒体に標章を記録することも含まれる(同2号)
-
- ③登録要件(商標3条1項)
- 自己の業務に係る商品・役務であること
- 識別性
以下のいずれにも該当しないこと
- 商品・役務の普通名称を普通方法で表示する標章のみからなる商標(1号)
- 商品・役務の慣用商標(2号)
- 商品・役務の地理的条件(産地・販売地・提供場所),質,数量等の内容を普通方法で表示する標章のみからなる商標(3号)
- ありふれた氏または名称を普通方法で表示する標章のみからなる商標(4号)
- 極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標(5号)
- 上記のほか,需要者が何人かの業務に係る商品・役務であることを認識し得ない商標(6号)
- 上記3号~5号に該当する商標でも,使用の結果識別性を獲得したものは登録可(商標3条2項)
- ④不登録事由(商標4条1項)
- 公益性に反するもの
- 国旗,国の紋章,国際機関の紋章・標章等と同一・類似の商標(1号~5号)
- 国・地方公共団体・公益事業等の表示と同一・類似の商標(当該団体等自体による出願を除く)(6号,4条2項)
- 公序良俗を害するおそれがある商標(7号)
- 公的な博覧会の賞と同一・類似の標章を有する商標(9号)
- 商品・役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標(16号)
- 商品・商品の包装または役務が当然備える特徴(立体的形状・色彩・音に係るもの)のみからなる商標(18号,商標施行令1条)
- 他人の商標・表示に関する権利利益を害するおそれがあるもの
- 他人の肖像・氏名等を含む商標(8号)
- 他人の周知商標と同一・類似の商標で,同一・類似の商品・役務に使用するもの(10号)
- 他人の登録商標と同一・類似の商標で,指定商品・指定役務に使用するもの(11号)
- 他人の登録防護標章と同一の商標で,その指定商品・指定役務について使用するもの(12号)
- 種苗法の登録品種の名称と同一・類似の商標で,その品種の種苗等に使用するもの(14号)
- 他人の業務に係る商品・役務と混同を生ずるおそれのある商標(15号)
- 真正な産地を表示しない葡萄酒・蒸留酒の産地の表示を含む商標(17号)
- 他人の周知商標と同一・類似で不正の目的をもって使用する商標(19号)
- ※上記中★については出願時に該当しないものを除く(4条3項)
- 公益性に反するもの
商標権
- ①存続期間・効力
- ⑴存続期間
- 始期: 設定登録(商標18条1項)
- 終期: 設定の日から10年 ※更新可(商標19条)
- ⑵効力
指定商品・指定役務について登録商標を使用する権利(商標25条)
※商標権の効力が及ばない範囲(商標26条)
- 自己の氏名・名称等を普通方法で表示する商標(不正競争目的を除く)(1号・2項)
- 商品・役務の普通名称,品質・数量等を普通方法で表示する商標(2号・3号)
- 指定商品・指定役務と同一・類似の商品・役務の慣用商標(4号)
- 商品等が当然備える特徴(立体的形状・色彩・音に係るもの)のみからなる商標(5号)
- 上記のほか需要者が何人かの業務に係る商品・役務であることを認識しうる態様により使用されていない商標(6号)
- ※特定農林水産物等名称保護法に基づく地理的表示を表示する等の行為(不正競争目的を除く)にも及ばない(3項)
- ⑴存続期間
- ②登録商標,指定商品・指定役務の範囲(商標27条)
- 登録商標の範囲(1項)
願書に記載した商標に基づいて定める
- 願書に記載した商標の記載……
商標の詳細な説明の記載および物件を考慮して意義を解釈(3項)
- 願書に記載した商標の記載……
- 指定商品・指定役務の範囲(2項)
願書の記載に基づいて定める
- 登録商標の範囲(1項)
商標特有の制度
団体商標
- ①団体商標(商標7条)
- 一般社団法人・事業協同組合等がその構成員に使用させる商標
- ②地域団体商標(商標7条の2)
- 事業協同組合・商工会・商工会議所・NPO 法人等がその構成員に使用させる商標で,(1項柱書き)
- [地域の名称+商品・役務の普通名称]を普通方法で表示する文字のみからなる商標(1号)
- [地域の名称+商品・役務の慣用名称]を普通方法で表示する文字のみからなる商標(2号)
- [地域の名称+商品・役務の普通名称または慣用名称]を普通方法で表示する文字+商品・役務の産地・提供場所の表示に付される慣用文字を普通方法で表示するもののみからなる商標(3号)
- 地域の名称(2項):
- 商品の産地
- 役務の提供場所
- 上記に準ずる程度に当該商品・役務と密接な関連を有すると認められる地域(例:商品たる加工品についての原材料の産地)
- 事業協同組合・商工会・商工会議所・NPO 法人等がその構成員に使用させる商標で,(1項柱書き)
防護標章(商標64条以下)
- ①防護標章登録要件(商標64条)
- 基礎となる商標権が存立し,その商標権者が出願すること
- 登録商標が自己の業務にかかる指定商品・指定役務を表示するものとして周知であること
- 登録商標に係る指定商品・類似商品または類似役務
- 登録商標に係る指定役務・類似役務または類似商品
→そのおそれがある商品・役務について防護標章登録出願ができる。
- ②効果
- 防護標章登録における指定商品・指定役務での登録商標の使用
→みなし侵害(商標67条)
- 防護標章登録に基づく権利と基礎商標権との随伴性(商標66条)
- 防護標章登録における指定商品・指定役務での登録商標の使用
関連事例
- 大阪地判令3・9・27 令和2年(ワ)第8061号 (メルカリ・ハッシュタグ事件)
- [1] 事実の概要
X(原告)は,アパレル製品・日用品雑貨等の企画・デザイン・製造・販売等を業とする京都の株式会社で,標準文字「シャルマントサック」からなる商標(以下「本件商標」という)につき,第18類「かばん類,袋物」を指定商品としてその商標権を有している(登録6232133号=以下「本件商標権」という)。Y(被告)は,パートタイム従業員としての勤務または主婦業に従事する個人で,その余暇を利用して趣味であるバッグを製作し,「pud」の名称を用いてオンラインフリーマーケットサービス “メルカリ” 上にサイト(以下「Yサイト」という)を開設し,Yサイトにおいてその製造する巾着型バッグ(以下「Y商品」という)を販売していた。Yは,YサイトでY商品を含む複数の商品を販売する際に,個別商品の紹介ページに,検索用のハッシュタグを付した「#シャルマントサック」(Y標章①)なる表示をしていたところ,Xは,YサイトにおけるY標章①または「シャルマントサック」(Y標章②)の表示が本件商標と同一・類似であり,またY商品が本件商標権の指定商品と同一であるとして,YサイトにおけるY標章①またはY標章②の表示行為を差止めを求めて提訴した。
ハッシュタグとは,インターネット上のウェブサイトおよびソーシャルネットワーキング・サービス(SNS)において,検索を容易にしたり特定のキーワードに情報を関連づけたりするために用いられるもので,記号「#」に続けてキーワードを表記するものである。ツイッターやインスタグラムといった SNS では,複数のハッシュタグを同時に用いて,本文や写真に関連して気の利いたことを記述するというような手法もしばしば採られる。本件でも,Yサイトの個別商品を紹介するページにおいて,Y標章①とともに,「#シャルマントサック風」「#ドットバッグ」「#ポシェット」「#斜めがけ」「#巾着バッグ」などの複数のハッシュタグが羅列され,それに続けて「好きの方にも…」と記述されている(添付文書 PDF 参照)。
本件の主な争点は,Y標章①②の使用,すなわち一般個人がその趣味で製造し,フリーマーケットサイト上で販売する商品に係るハッシュタグでの使用が,「業として」の使用であるか,また商標的使用であるか否か,である。
- [2] 判旨
一部認容(Y標章①の表示の差止め)
Ⅰ 〔Yサイトに表示された標章は記号部分と片仮名部分からなるが,〕表示態様に鑑みると両部分を分離するのではなく,一連一体の「#シャルマントサック」すなわちY標章①として把握するのが相当である。
Ⅱ⑴ 〔商標法2条1項にいう〕「業として」……とは,反復継続して行うことを意味し,営利目的であるか否かは問わない〔ところ,認定事実から〕Yは,「業として」商品を譲渡する者に当たる。〔また,認定事実から〕本件商標とY標章①は,類似するものと見るのが相当である。
⑵ Yサイトは,そこでY商品を含む商品が表示され,販売されていることに鑑みると,Yの商品に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供するものといえ〔,〕したがって,このようなYサイトにY標章①を表示することは,商標の「使用」に当たる。
⑶ オンラインフリーマーケットサービスであるメルカリにおける具体的な取引状況をも考慮すると,記号部分「#」は,商品等に係る情報の検索の便に供する目的で,当該記号に引き続く文字列等に関する情報の所在場所であることを示す記号として理解される。このため,YサイトにおけるY標章①の表示行為は,メルカリ利用者がメルカリに出品される商品等の中から「シャルマントサック」なる商品名ないしブランド名の商品等に係る情報を検索する便に供することにより,Yサイトへ当該利用者を誘導し,当該サイトに掲載された商品等の販売を促進する目的で行われるものといえる〔こと等からすると,〕YサイトにおけるY標章①の表示は,需要者にとって,出所識別標識及び自他商品識別標識としての機能を果たしているものと見られる。すなわち,Y標章①は,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様による使用すなわち商標的使用がされているものと認められ〔,ゆえに〕YサイトにおけるY標章①の表示行為は,指定商品についての登録商標に類似する商標の使用(法37条1号)に当たり,本件商標権を侵害するものと見なされる。
※ このほか,差止めの必要性についても認定。
- [1] 事実の概要