知的財産法: 第6講(補遺2)
意匠法概説
※各項目で ★ 印のあるものは,令和元年改正の内容。
意匠制度の特徴
保護対象・登録要件等
- ①意匠(意匠2条1項★)
- 物品(物品の部分を含む)の形状・模様・色彩もしくはこれらの結合
- 建築物(建築物の部分を含む)の形状・模様・色彩もしくはこれらの結合
- 画像(画像の部分を含む)
※機器の操作の用に供されるもの,または機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限る
- ②実施(意匠2条2項★)
- 物品の意匠:
その物品の製造・使用・譲渡・貸渡し・輸出入・譲渡等の申出
- 建築物の意匠:
その建築物の建築・使用・譲渡・貸渡し・譲渡等の申出
- 画像の意匠:
その画像(画像を表示する機能を有するプログラム等を含む)について
- 画像の作成・使用・電気通信回線を通じての提供・提供の申出
- 画像を記録した記録媒体または内蔵する機器の譲渡・貸渡し・輸出入・譲渡等の申出
- 物品の意匠:
- ③登録要件(意匠3条)
- 工業上利用可能性(1項柱書き)
- 新規性
- 国内外で公知でない(1号)
- 国内外で文献公知または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていない(2号)
- 公知等意匠と類似の意匠でない(3号)
- 創作非容易性(創意性)(2項★)
- 拡大先願(意匠3条の2)
- ④不登録事由(意匠5条★)
- 公序良俗を害するおそれがある意匠(1号)
- 他人の業務に係る物品等と混同を生ずるおそれがある意匠(2号)
- 物品の機能確保・建築物の用途・画像の用途に不可欠な形状・表示のみからなる意匠(3号)
意匠権
- ①存続期間・効力
- ⑴存続期間
- 始期: 設定登録(意匠20条1項)
- 終期: 出願の日から25年(意匠21条★)
- ⑵効力
業として登録意匠およびこれに類似する意匠を実施する権利(意匠23条)
- ⑴存続期間
- ②登録意匠の範囲(意匠24条)
-
- 願書の記載 および
- 願書に添付した図面に記載され,または写真・雛形・見本により現わされた意匠
- 類似の判断……
需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づく
-
意匠特有の制度
- 一意匠一出願の原則(意匠7条)
※複数の意匠をまとめた願書による出願も可能に★
組物意匠(意匠8条)
- ①組物
- 同時に使用される二以上の物品・建築物・画像で
- 経済産業省令で定めるもの(意匠法施行規則別表第二)
→組物を構成する物品・建築物・画像に係る意匠は一意匠として出願・登録可能
- ②登録要件
- 組物を構成する物品・建築物・画像に全体として統一性がある
- 組物を構成する各意匠がそれぞれ先行意匠と同一・類似でない
㊟組物を構成する物品の部分も登録可能に(意匠2条1項★)
内装の意匠(意匠8条の2★)
- ①内装
- 店舗・事務所その他の施設の内部の設備および装飾
→内装を構成する物品・建築物・画像に係る意匠は一意匠として出願・登録可能
- ②登録要件
- 内装を構成する物品・建築物・画像に全体として統一的な美感を起こさせる
- 内装を構成する各意匠がそれぞれ先行意匠と同一・類似でない
関連意匠(意匠10条★)
- ①関連意匠
- ⑴趣旨
ある意匠(=本意匠)のバリエーション(類似の意匠)をまとめて登録意匠として保護する
- 本意匠の類似の範囲を明確にできる
- 類似の意匠(関連意匠)に対する保護を強化できる
※関連意匠の保護期間は本意匠それと同時に満了する
- ⑵要件
- 本意匠と同じ出願人であること
- 本意匠に類似する意匠であること
- 本意匠の出願から10年を経過する日前までに出願されること★
- ⑴趣旨
- ②連鎖的関連意匠(意匠10条4項★)
ある意匠(=基礎意匠)を本意匠とする関連意匠にのみ類似する意匠について,当該関連意匠を本意匠として関連意匠登録ができる
※シリーズ商品等における意匠で,第3世代以降の商品の意匠が最初の商品のそれ(基礎意匠)と類似とはいえないものについても,一連の関連意匠として登録することができる
連鎖的関連意匠のイメージ : 渡邉知子「令和元年意匠法改正について ―イノベーションの推進とブランド構築のためのデザイン活用の促進を目指して―」特許研究69号17頁
秘密意匠(意匠14条)
- 設定登録の日から3年を限度として登録意匠を公開しない制度
- 意匠登録出願人の請求による
- 意匠登録出願人が期間を指定(延長または短縮の請求も可)
※意匠によっては公開される図面や雛形から容易に同一・類似の意匠の物品等を作出することができ,そうした模倣品が出回ることで意匠登録出願人(意匠権者)の利益獲得の機会が奪われかねないため
他の制度との関連
- ①著作権法上の応用美術
応用美術(applied art)とは…… 美術の技法や感覚を実用品に応用したもの。もっぱら鑑賞を目的とする「純粋美術(fine art)」に対する概念。応用美術の具体例としては,⑴絵画を屏風に仕立てるなど純粋美術として制作されたものを(そのまま)実用品に応用したもの,⑵絵画・彫刻等の純粋美術の技法を一品製作である陶器・織物などに応用したもの(美術工芸品=著2条2項),⑶純粋美術の技法・感覚を機械生産品や大量生産品に応用したもの,などが挙げられる。
- 工業的に生産される物品のデザイン(=意匠)について意匠登録を経ていないものを,著作権法上の「美術の著作物」として保護することは?
- ▼長崎地佐世保支決昭48・2・7 無体集5巻1号18頁(博多人形事件)
- ▼神戸地姫路支判昭54・7・9 無体集11巻2号371頁(仏壇彫刻事件)
- ▼知財高判平27・4・14 判時2267号91頁(TRIPP TRAPP 事件)
著作権法〔1条の趣旨〕に鑑みると,表現物につき,実用に供されること又は産業上の利用を目的とすることをもって,直ちに著作物性を一律に否定することは,相当ではな〔く,〕「美術工芸品」に該当しない応用美術であっても,同条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,「美術の著作物」として,同法上保護されるものと解すべきであ〔り,また〕応用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に,作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。……著作権が,その創作時に発生して,何らの手続等を要しないのに対し……,意匠権は,設定の登録により発生し……,権利の取得にはより困難を伴うものではあるが,反面,意匠権は,他人が当該意匠に依拠することなく独自に同一又は類似の意匠を実施した場合であっても,その権利侵害を追及し得るという点において,著作権よりも強い保護を与えられているとみることができる〔といった〕点に鑑みると,一定範囲の物品に限定して両法の重複適用を認めることによって,意匠法の存在意義や意匠登録のインセンティブが一律に失われるといった弊害が生じることも,考え難〔く,したがって,〕応用美術につき,意匠法によって保護され得ることを根拠として,著作物としての認定を格別厳格にすべき合理的理由は,見出し難いというべきである。
- ②不正競争防止法上の商品形態
他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等=不正競争(不競2条1項3号)
- 商品形態(不競2条4項)
- 需要者が通常の用法に従った使用に際して
- 知覚によって認識しうる
- 商品の外部および内部の
- 形状&
- その形状に結合した模様・色彩・光沢・質感
※商品の機能確保に不可欠な形態を除く
- 模倣(不競2条5項)
依拠 + 実質的同一性
- 適用除外(不競19条1項5号)
※不正競争だが差止・損害賠償請求および罰則の適用なし
- 国内での最初の販売から3年を経過した商品の形態を模倣した商品の譲渡等
- 商品形態模倣商品の譲受人(譲受時に善意で重過失なき者)の取引
- 商品形態(不競2条4項)
- 設定登録の日から3年を限度として登録意匠を公開しない制度