知的財産法: 第6講(補遺1)
実用新案法概説
実用新案制度の意義
- ①沿革
多国間条約に加盟し,わが国に産業財産権(工業所有権)制度が本格的に導入された19世紀末にあっては,わが国の技術水準がそれほど高くなく,多くは外国製品等の改良技術であったため,特許制度だけではむしろ外国人が利するのみでかえってわが国の産業発達の妨げとなりかねなかった。
そこで明治38年(1905年),ドイツの実用新案([独] Gebrauchsmuster,[英] utility model)制度を参考に,物品の形状・構造・組合せに係る技術的思想の創作(さほど高度でない創意・工夫,小発明)を保護すべく,実用新案法が制定された。
- ②現状
後述するように,平成5年改正で無審査登録制度を採用したが,出願・登録数はその後も減少傾向にある。現在のわが国では,例えば一般の個人(いわゆる素人)が日用品に関するアイディアを思いついたような場合に「お墨付き」として「特許を取った」と主張するために用いられることがあるようだ。
諸外国でも実用新案制度を有する国は少なくない(80余りの国・地域,国によっては simple patent などと称される)が,特にヨーロッパでは多くの国がわが国と同様無審査登録制度となっている(参考: 諸外国・地域・機関の制度概要および法令条約等 | 経済産業省 特許庁)。
実用新案制度の特徴
保護対象・登録要件等
- ①考案(新案2条1項)
- 自然法則を利用した
- 技術的思想の創作
- ②登録要件(新案3条)
- 産業上利用可能性(1項柱書き)
- 物品の形状・構造・組合せに係るもの(同)
物に限定されるので,方法の考案は保護対象とならない(新案2条3項参照)
- 新規性(1項各号に非該当)
- 進歩性(2項)
- 拡大先願(3条の2)
- ③不登録事由(新案4条)
公序良俗または公衆衛生を害するおそれがある考案
権利取得の手続
- ①方式審査(新案2条の2第4項)
手続書面が関係法令の規定に適合しているか否かの審査
- 願書・明細書の記載
- 手数料・電子化手数料
- 名義人変更の手続
- 代理人委任の手続 など
- ②基礎的要件審査(新案6条の2)
出願に係る明らかな違反等 →補正命令
- ⑴保護対象違反
- ⑵公序良俗違反
- ⑶請求項の記載様式違反
- ⑷単一性違反
- ⑸クレーム・明細書・図面の著しい記載不備
- ③実体審査の省略
早期登録が可能に
実用新案権
- ①存続期間・効力
- ⑴存続期間
- 始期: 設定登録(新案14条1項)
- 終期: 出願の日から10年(新案15条)
- ⑵効力
業として登録実用新案を実施する権利(新案16条)
- ⑴存続期間
- ②実用新案技術評価(新案12条)
- 何人も請求できる
- 実用新案登録出願に係る考案・登録実用新案・実用新案権消滅後の考案のいずれについても可(無効審判により無効とされたもの&登録に基づく特許出願がなされたものは除く)
- 請求項ごとの請求も可
- 技術的評価で下記に係るもの
- 国内外での文献公知またはインターネットを通じて公衆が利用可能であるか(3条1項3号)
- 進歩性(3条2項)
- 先願(7条1~3項・6項)および拡大先願(3条の2)
- 審査官が実用新案技術評価書を作成
※その謄本は請求人に(出願人または実用新案権者以外の者が請求人である場合は当該出願人または実用新案権者にも)送達される
実用新案技術評価書を提示して警告した後でなければ侵害者等に対して権利行使することができない(新案29条の2)
出願変更等
- ①特許・実用新案・意匠の間の出願変更
- 実用新案登録出願・意匠登録出願 →特許出願(特許46条)
- 特許出願・意匠登録出願 →実用新案登録出願(新案10条)
- 特許出願・実用新案登録出願 →意匠登録出願(意匠13条)
- ②実用新案登録に基づく特許出願(特許46条の2)
- ※すでに登録された実用新案を特許出願にできる
- ※無審査で早期登録される実用新案権の出願変更可能な期間が短いことを補完する制度
- ※以下の条件を満たす場合に可能
- 実用新案権は放棄しなければならない
- 実用新案登録出願の日から3年以内
- 実用新案技術評価がなされていないこと
- 登録実用新案出願人・実用新案権者が実用新案技術評価の請求をしていないこと
- 登録実用新案出願人・実用新案権者以外の者がした実用新案技術評価の請求に係る最初の通知を受けた日から30日を経過していないこと
- 実用新案登録無効審判の請求がなされ,審判長が指定した答弁書提出までの期間を経過していないこと
- ※特許出願の遡及(基礎とされる実用新案登録出願の際に明細書等に記載された範囲に限る)