コンテンツ知的財産論: 第10講
法情報学: 第9講
多数者によるコンテンツ
- 高度情報化は時間や距離を超えて多数の者が創作に関わることを可能にする。そのように多数の者が関与することで作成されるコンテンツの権利帰属や利用許諾について考察してみよう。
多数者によるコンテンツの制作の例
- ①オープンソース(Open Source)
プログラムのソースコード(人間が理解できる言語体系で表現されているもの)をオープンに(開放)し,そうすることによって多くの人が当該プログラムを改変・応用できるようにしたもの。そのようにして開発・改良されたソフトウェアを “Free/Libre Open Source Software(頭文字を取って “FLOSS”)” という。利用・改変が「自由である」という意味で “フリー・ソフトウェア”(「無償」という意味ではない)ともいう。
- ②消費者(ユーザー)作成コンテンツ(Consumer Generated Contents : CGC, User Generated Contents : UGC)
取引や市場における「消費者」またはウェブ等の「利用者(ユーザー)」も関与して作成されるメディアまたはコンテンツ。このように双方向性を活かしたウェブを「従来のウェブの発展・進化」という意味で “Web 2.0” ともいう。
- ⑴電子掲示板
UGC の最も古いタイプ,原型とも言える。匿名で誰もが書き込めるものから,会員登録を要するものまでさまざまな態様がある。管理運営者のイニシアティヴは他の例と比べて比較的強いので,UGC に含まれないという捉え方もできる。
- ⑵電子取引サイト
取扱商品について消費者・顧客が評価でき(ユーザ・レビュー,カスタマー・レビュー),そのレビューを他のユーザがさらに評価することによって評価の信頼性を高めている。Amazon.co.jp などはそのようなレビューを掲載する電子取引サイトの典型である。
- ⑶コンテンツ投稿サイト
ユーザーがコンテンツを作成して,これを投稿(アップロード)するサイト。Frickr(写真),Pixiv(イラスト),SoundCloud(音楽),YouTube(動画),ニコニコ動画(動画)などがある。利用者が各コンテンツに対してコメントをつけることなどができ,投稿者と利用者または利用者どうしの交流が図れる仕組みを備えている。
- ⑷ブログ(Blog)
利用者が簡便にウェブ文書を作成できる仕組みで,日記に用いられることが多い。読者・利用者が記事にコメントをつけたり,トラックバックという仕組みを利用して記事や文書どうしの関連性を表すことが可能。
- ⑸ウィキ(Wiki)
やはり利用者が簡便にウェブ文書を作成できる仕組み。基本的には誰もが文書を作成・編集可能で,他の者が作成した文書をさらに改編することも可能。百科事典サイト Wikipedia が有名。
- ⑹SNS
「ソーシャルネット」とも言う。さまざまなコンテンツのやりとりを通してユーザーが広く交流する仕組みを提供している。上記⑶にコメント機能やハッシュタグを用いた検索容易性が備わって SNS に発展することが多い。当該サービスにおいて友人になっていたりフォローしていたりする人々の投稿の数々がほぼ時系列になって表示される「タイムライン」を特徴とする。短文投稿をメインとする Twitter,写真・動画の投稿を通して交流を図る Instagram,総合的な Facebook などがある。
- ⑴電子掲示板
いわゆる「二次創作」の問題
なんらかの情報に基づいて創作される表現として,いわゆる「二次創作」の問題もある。その意味するところは必ずしも明らかではないが,単に著作権法2条1項11号にいう「二次的著作物」に該当しづらいもの(例えば,著作物でない単なる名称に基づいて創作されたキャラクターなど)もあり,権利の発生や帰属を定めるのは容易ではない。
権利帰属と利用許諾
著作権の帰属
- 著作権は,創作により発生する(原始的著作権者は著作者)
- ある著作物を改変(翻訳・翻案)した場合,その改変に創作性があればその成果は二次的著作物となる
従来の制度における問題
- ①職務著作と捉えると……
インターネット経由での協働にあっては,職務著作の要件(著15条)である「使用者と従業者との実質的関係」や「使用者の発意」などの状況はほとんど考えられない。これを職務著作と捉えることは難しい。
- ②後発の成果を二次的著作物と捉えると……
オープンソースによるプログラムを例にすると,先行の成果Aに対してそれぞれにこれを改変したBとB'があり,さらに別の者が改良プログラムCを得たとき,これがA→Bのみに依拠したのかA→B'にも依拠したのかが判然としないことが少なくなく,これがさらに世代を重ねることで複雑多様な関係になることが想像できる。そうした場合に二次的著作物であるCの利用にあたり(Aはともかく)BとB'のいずれの著作権が原著作物のそれとして働くのか不明確とならざるを得ない。また UGC にあっては,各ユーザーのコメント等が明確に分離できるような態様ならともかく,ウィキのように大勢のユーザーによって断片的に書き換えられたような文章の場合は,やはり原著作物と二次的著作物との関係が判然としないこととなろう。結局著作権の帰属という点では二次的著作物に準じて捉えられるとしても,その行使(逆の立場から見ると許諾を得て権利処理をするのに)は現実的には極めて困難なこととなる。
新たなライセンスの試み
上記のような不都合の解消と知的活動の成果の自由な利用を促すため,新たなライセンス(利用許諾)の仕組みが提唱・実践されている。
- ①GNU ライセンス
主にソフトウェア(FLOSS)のためのライセンス契約。GNU プロジェクトの発起人で元マサチューセッツ工科大学(MIT)人工知能研究所のプログラマーであったリチャード・ストールマン(Richard M. Stallman)が提唱した。以下のような特徴があり,⑴~⑶の3種のライセンスが定められている。
- 著作権者はその著作権を主張する。
- 配布・再配布に際しては,ソースコードを添付するか,ソースコードにアクセスできるようにする。
- 著作権者は,契約が定める条件の下でその著作物を複製・頒布・改変する権限を利用者に与える。
- 利用者は,元の契約と同一の条件で再頒布することができるものとする。
- ⑴GNU 一般公衆利用許諾契約 (GNU General Public License)
- ⑵GNU 劣等一般公衆利用許諾 (GNU Lesser General Public License)
- ⑶GNU フリー文書利用許諾 (GNU Free Documentation License)
- ②クリエイティブ・コモンズ・ライセンス (Creative Commons License)
プログラムやソフトウェアに限らず,文書・映像・音楽その他の作品について利用できるライセンス。アメリカの憲法学者でスタンフォード大学ロースクール教授であるローレンス・レッシグ(Lawrence Lessig)が提唱した。以下のような特徴がある。
- 著作権者はその著作権を緩やかに主張する。
- 著作権者は,契約が定める条件の下でその著作物を複製・頒布(・改変)する権限を利用者に与える。
- 利用許諾の条件を大きく4つの要素に定め,著作権者はその組合せによって許諾条件を容易に選択することができ,またこれを示すアイコンとバナーによって利用者に対して条件を明示することができる。
上記の4条件は以下のとおり。
- ⑴表示 BY,Attribution: 原著作者のクレジットを表示すること(必須条件)
- ⑵非営利 NC,Noncommercial: 営利目的での利用禁止
- ⑶改変禁止 ND,No Derivative Works: 改変・変形等の禁止
- ⑷継承 SA,Share Alike: 二次的作品への契約条件の継承(⑶を指定しない場合に限る)