コンテンツ知的財産論: 第8講
コンテンツの活用 Part 1
コンテンツの利用・活用
市販の DVD ソフトのデータ
- 一般的な DVD のパッケージには,いくつかの技術的事項に関する記述がある(右画像の右下赤枠部分)。それを拡大したのが下の画像で,上段中程やや右寄りに
「複製不能」
の文字がある(赤の下線)。これは当該 DVD ソフトにコピー・ガードが施されていることを示している。
- 一般に市販されている動画編集・DVD 作成・複製ソフトを用いて,上記 DVD を複製してみる。ここでは,コンピューターにプリインストールされていた Roxio DigitalMedia を使う。
「ディスク コピー」
を実行すると……ディスクが
「コピー プロテクションされてい」
てコピーできない旨表示され,コピーが実行できず,ここから先へ進めない(「キャンセル」
のボタンが表示されており,これを選択するよりほかにない。)。
- 上記とは別の,DVD 読み取り・書き込み用ソフトウェアを使う。とはいっても別に特殊なソフトウェアではない。インターネット上で無償でダウンロードでき,また雑誌等の付録 CD-ROM に収録されていることもある,いわゆるフリーソフトである。ここでは DVD Decrypter を用いた。なお右の画像(メイン画面表示の一部)の下線部分にあるように,上記 DVD においては,CSS(Content Scrambling System)と CPPM(Content Protection for Prerecorded Media)という,技術的保護手段(著作権法2条1項20号)等の DRM(デジタル著作権等管理)が施されていることがわかる。
- なお,2010年代後半にあっては,光学ディスク・メディアは DVD より高解像度・大容量等で優位のブルーレイ・ディスク(Blu-ray)の普及率が高くなっているが,ブルーレイにもやはり DRM が施されている。これを回避するソフトウェアも存在するが,無償で手軽なものは見当たらないようである。
- 技術的保護手段 (著2条1項20号)
著作者人格権・著作権・実演家人格権・著作隣接権(=コンテンツに係る権利)を侵害する行為を防止・抑止する手段
- 技術的利用制限手段 (著2条1項21号)
著作物・実演・レコード・放送等(=コンテンツ)の視聴・実行を制限する手段
- 技術的制限手段 (不競2条8項)
映像・音・プログラムその他の情報(=コンテンツ)の視聴・実行・処理・記録を制限する手段
それぞれに共通する要素 - 電磁的方法(人の知覚によって認識できない方法)による
- 視聴等機器が特定の反応をする信号を(コンテンツとともに)記録・送信する方式による(特定反応方式) または
- 視聴等機器が特定の変換を必要とするようコンテンツを変換して記録・送信する方式による(特定変換方式または暗号化方式)
- 技術的保護手段を回避してできる複製をその事実を知りつつ行うと,私的使用目的であっても複製権等侵害となる(著30条1項2号・102条1項)
- 技術的利用制限手段を回避する行為は原則として著作権等侵害行為とみなされる(著113条6項)
- 技術的制限手段を回避する機能を有する装置・プログラム等を提供等する行為は原則として不正競争となる(不競2条1項17号・18号,19条1項9号)
- また,各 DRM を回避する装置・プログラム等の提供,公衆からの求めに応じての回避行為には,罰則がある(著120条の2第1号・2号,不競21条3項4号)。
著作権法にいう「技術的保護手段」については平成24年改正(法律43号)により,従来の特定反応方式に加え,特定変換方式(前述の CSS などはまさにこれに該当する。)もその対象となるよう明示された。また,環太平洋パートナーシップ協定(TPP)締結に伴う平成28年法律108号(平成30年=2018年12月30日施行)改正により,同法に「技術的利用制限手段」に関する2条1項21号および113条6項が新設された。 - 技術的保護手段 (著2条1項20号)
- DVD Decrypter では,特に難しい設定をせずとも,CSS,CPPMおよびマクロヴィジョン(Macrovision)等の DRM を解除して,DVD の内容(データ)をコンピュータのハードディスクにコピーすることができるようになる。下の画像はコピー実行中のログ画面。赤の下線部分には,
“Remove Macrovision Protection: Yes”
との表示が見られる。
- DVD からのデータの取り込み(リッピング)が終わると,コンピュータのハードディスクにデータのファイル(ISO 形式,VOB 形式等)が生成される。右上の画像でのファイルは ISO ファイルで,これは 「イメージ・ファイル」 とも言い,これをそのまま DVD-R に書き込む(焼く)ことで当該 DVD のコピー・ディスクを作ることができる。
- 上記のデータ・ファイルは,次のように利用することができる。
- ⒜前述のように,DVD-R にコピーすることでもう一枚 DVD を作ることができる。もっとも,片面二層の DVD ソフトを複製する場合は,これに対応する DVD-R DL 等のメディアが高価であるため,片面一層(DVD-R)に収まるようにさらに圧縮をするのが一般的であるようだ。
- ⒝影像データの形式を変換することで,データの容量を少なくしたり,コンピュータやポータブル・プレイヤー等で気軽にコンテンツを視聴できるようにすることができる(次項参照)。
- ⒞「Winny」「Share(仮称)」 等のいわゆるファイル共有ソフト(P2P アプリケーション)を用いて,ファイルのデータをインターネット経由で送受信することもできる(右下の画像は 「Share(仮称)」 の画面)。
※それが倫理的ないし法的に許されるか否かと技術的に可能かどうかは別である。
データ変換とさらなる活用
- ファイル形式の変換
動画を再生できる携帯プレーヤー(例は Sony PSP),スマートフォンまたはタブレット端末等の環境に合わせて,DVD のコンテンツ・データを(この場合は VOB ファイルを MP4 ファイルに)変換する。ここで用いたソフト 携帯動画変換君 もインターネット上で無償で配布されており,特に難しい設定を要さない。
- 変換したファイルの視聴
上記携帯プレーヤー,スマートフォン等の記憶媒体に変換したファイル転送し,実際に視聴してみる。下の写真のうち,左は PSP のメニュー画面で動画ファイルの一覧を表示したところで,右は当該ファイルを実際に再生しているところ(映りこんでいてわかりづらいが)。
考察しよう
- 従来アナログの時代においては,コンテンツは形式や媒体(メディア)と一体であり,またそれに支配されていた。すなわち,ユーザーがアナログ・レコードに記録されたコンテンツを複製しようと思うと,カセットテープ等の既存の形式・媒体に依らざるを得なかった。
- デジタルの時代になり,また一連の情報技術が発達したことによって,コンテンツはデジタル・データとして,形式・媒体の支配を離れることができるようになった。要するに,ユーザー自身において,オリジナルと同一の形式・媒体で複製することも,また,高速なネットワークを通じて送信することも可能になった。
- 知的財産権は,法という人為的取決めの上に成り立っており,ゆえにそれに関する救済・制裁は法に則ってなされてきた。しかしながら現今は,一方の当事者が自己の知的財産に関する権利・利益を(法によるのではなく)技術的に保護することができ,そして法がその技術的保護を認めて(追認して)いる。この点に問題はないか。
- ユーザーが変換を行いそれを愉しむことは非難されるべきことか,一方のみの視点からではなくさまざまな角度から,また法的な観点のみならず倫理等の面からも検討してみよう。
続けて コンテンツ知財論 第9講 もご参照ください。