コンテンツ知的財産論: 第7講
法情報学: 第6講
著作権の間接侵害
間接侵害・寄与侵害
- 直接侵害
権限がないのに著作権(各支分権)の利用行為をすること
- 間接侵害または寄与侵害
自ら直接侵害行為をするのではないが,侵害行為を教唆・幇助したり,その機会・場・手段などを提供したりすること
著作権侵害差止請求の相手方は直接侵害者に限られる(著112条1項)
- (差止請求権)
第112条 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができる。
※民法の不法行為責任については間接侵害あり(民719条2項)
カラオケ法理
カラオケ歌唱の著作権侵害責任が問われた事例から創出された法理
- 最判昭63・3・15 民集42巻3号199頁 クラブ・キャッツアイ事件上告審
- 判旨
……スナック等〔の店〕において,カラオケ装置と……カラオケテープとを備え置き,ホステス等従業員においてカラオケ装置を操作し,客に曲目の索引リストとマイクを渡して歌唱を勧め,客の選択した曲目のカラオケテープの再生による演奏を伴奏として他の客の面前で歌唱させ,また,しばしばホステス等にも客とともにあるいは単独で歌唱させ,もつて店の雰囲気作りをし,客の来集を図つて利益をあげることを意図していたという……事実関係のもとにおいては,ホステス等が歌唱する場合はもちろん,客が歌唱する場合を含めて,演奏(歌唱)という形態による当該音楽著作物の利用主体は〔店の経営者〕であり,かつ,その演奏は営利を目的として公にされたものであるというべきである。けだし,客やホステス等の歌唱が公衆たる他の客に直接聞かせることを目的とするものであること……は明らかであり,客のみが歌唱する場合でも,客は,〔店〕と無関係に歌唱しているわけではなく,〔店〕の従業員による歌唱の勧誘,〔店〕の備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲,〔店〕の設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて,〔店〕の管理のもとに歌唱しているものと解され,他方,〔店〕は,客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ,これを利用していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し,かかる雰囲気を好む客の来集を図つて営業上の利益を増大させることを意図していたというべきであつて,前記のような客による歌唱も,著作権法上の規律の観点からは〔店〕による歌唱と同視しうるものであるからである。
- 判旨
すなわち,自ら直接侵害行為をなすのではなくとも,その直接の侵害行為につき,
- 管理性ないし支配性
- 収益性ないし収益可能性
を有する者は当該著作権侵害行為の主体たりうる,という法理が確立された。
情報通信サービスとカラオケ法理
- 東京地中間判平15・1・29,平成14年(ワ)第4237号 ファイルローグ事件第一審中間判決
- 東京地判平15・12・17,平成14年(ワ)第4237号 同第一審終局判決
- 東京高判平17・3・31,平成16年(ネ)第405号 同控訴審
- [1] 事実の概要
X(原告・被控訴人)は著作権等管理事業法に基づき著作権等管理事業を行う社団法人(JASRAC)であり,Y₁(被告・控訴人)はソフトウエアの開発・販売等を目的とする有限会社,Y₂はY₁の取締役である。Y₁は,平成13年11月1日から,ピア・ツー・ピア(Peer To Peer,P2P)技術を用いて,インターネットを経由してY₁設置に係る中央サーバ(以下「被告サーバ」という。)に接続されている不特定多数の利用者のパソコンに蔵置されている電子ファイルの中から,他の利用者が好みの電子ファイルを選択してダウンロードできるサービス(以下「本件サービス」という。)を,「ファイルローグ(File Rogue)」の名称で提供していた(ただし,本件に先立つ仮処分=東京地決平14・4・11,平成14年(ヨ)第22010号=を受けて,爾来Y₁は本件サービスの提供を停止している。)。
本件サービスで用いられているP2P技術はいわゆる「ハイブリッド型」と呼ばれているものである(詳細は P2P に関する Wikipedia の記事 を参照)。Xは,本件サービスにおいて,Xの管理に係る音楽著作物をMP3形式で複製した電子ファイルがXの許諾を得ずに本件サービス利用者によって交換されていることに関して,本件サービスを提供するY₁の行為がXの著作権(複製権,自動公衆送信権,送信可能化権)を侵害すると主張して,Y₁に対して上記電子ファイルの送受信の差し止めを,Y₁およびY₂に対して著作権侵害による共同不法行為に基づき合計2億1400万円余の損害賠償を求めた。
- [2] 第一審中間判決判旨
Y₁が本件サービスにおける著作権侵害行為の主体であることを認め,Y₁およびY₂に損害賠償責任があるとした。
Ⅰ 〔本件サービスの利用者が送信者または受信者として本件各MP3ファイルを送信・受信する行為は,Xの送信可能化権および自動公衆送信権を侵害するが,〕Y₁自らは,本件各MP3ファイルをパソコンに蔵置し,その状態でパソコンを被告サーバに接続するという物理的行為をしているわけではない〔ところ,〕Y₁が,Xの有する……送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害していると解すべきか否かについては,①Y₁の行為の内容・性質,②利用者のする送信可能化状態に対するY₁の管理・支配の程度,③Y₁の行為によって受ける同被告の利益の状況等を総合斟酌して判断すべきである。
Ⅱ 〔認定事実から,〕本件サービスは,MP3ファイルの交換に係る分野については,利用者をして,市販のレコードを複製したMP3ファイルを自動公衆送信及び送信可能化させるためのサービスという性質を有すること,本件サービスにおいて,送信者がMP3ファイル(本件各MP3ファイルを含む。)の自動公衆送信及び送信可能化を行うことはY₁の管理の下に行われていること,Y₁も自己の営業上の利益を図って,送信者に上記行為をさせていたことから,Y₁は,本件各管理著作物の自動公衆送信及び送信可能化を行っているものと評価することができ,Xの有する自動公衆送信権及び送信可能化権の侵害の主体であると解するのが相当である。
※ その後の終局判決においては,Y₁に対象となるファイルの送受信の差し止めが,Y₁およびY₂に合計3400万円余の損害賠償が,それぞれ命じられた。
- [3] 控訴審判旨
控訴棄却(ただし原判決の訂正あり)。
……本件サービスのように,インターネットを介する情報の流通は日々不断にかつ大量になされ,社会的に必要不可欠なものになっていること,そのうちに違法なものがあるとしても,流通する情報を逐一捕捉することは必ずしも技術的に容易ではないことなどからすると,単に一般的に違法な利用がされるおそれがあるということだけから,そのような情報通信サービスを提供していることをもって上記侵害の主体であるとするのは適切でないことはいうまでもない。しかし,単に一般的に違法な利用もあり得るというだけにとどまらず,本件サービスが,その性質上,具体的かつ現実的な蓋然性をもって特定の類型の違法な著作権侵害行為を惹起するものであり,Y₁がそのことを予想しつつ本件サービスを提供して,そのような侵害行為を誘発し,しかもそれについてのY₁の管理があり,Y₁がこれにより何らかの経済的利益を得る余地があるとみられる事実があるときは,Y₁はまさに自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いている者として,その責任を問われるべきことは当然であり,Y₁を侵害の主体と認めることができるというべきである。
- ※ 上記各期日とそれぞれ同一年月日の裁判で,原告・被控訴人がレコード会社各社(計19名)の事件もあり(平成14年(ワ)第4249号,平成16年(ネ)第446号),いずれも判決内容は同旨。
- [1] 事実の概要
- 東京地判平20・5・28,平成19年(ワ)第17279号 ロクラクⅡ事件
- 知財高判平21・1・27,平成20年(ネ)第10055号等 ロクラクⅡ事件控訴審
- 最判平23・1・20,平成21年(受)第788号 ロクラクⅡ事件上告審
- [1] 事実の概要
X₁~X₁₀(原告・被控訴人=附帯控訴人・上告人,うち一名は控訴審中に会社分割により交代。以下まとめてXらという。)はいずれも放送事業者であり,Y(被告・控訴人=附帯被控訴人・被上告人)は,デジタル情報家電製品の製造,販売等を目的とする株式会社である。
Yは,「ロクラクⅡビデオデッキレンタル」との名称で,ハードディスク・レコーダー「ロクラクⅡ」(以下「ロクラクⅡ」という)2台一組のうち,日本国内に設置した1台でテレビ放送に係る放送波を受信・録画し,利用者に貸与または譲渡した他の1台で当該利用者に日本国内で放送されるテレビ番組の視聴を可能にするサービス(以下「本件対象サービス」という)を提供する事業を行っていた。Xらは,上記Y事業がXらの著作権および著作隣接権(放送事業者の権利)を侵害するものとして,Yに対し,Xらの著作物または放送を録音・録画の対象とすることの差止めおよびロクラクⅡ親機の廃棄,ならびに合計1億5800万円余の損害賠償を求めて提訴した。
第一審判決は,Yの事業におけるその行為に関して著作物および放送の複製につき管理および収益を認め,行為の差止めおよび廃棄,ならびに合計733万円余の損害賠償をYに命じた(一部認容)。
- [2] 控訴審判旨
原判決取消し。請求・附帯控訴棄却
Ⅰ Yが親機ロクラクとその付属機器類を一体として設置・管理することは,結局,Yが,本件サービスにより利用者に提供すべき親機ロクラクの機能を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境,条件等を,主として技術的・経済的理由により,利用者自身に代わって整備するものにすぎず,そのことをもって,Yが本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない。
Ⅱ 親子ロクラクの機能,その機能を利用するために必要な環境ないし条件,本件サービスの内容等に照らせば,子機ロクラクを操作することにより,親機ロクラクをして,その受信に係るテレビ放送(テレビ番組)を録画させ,当該録画に係るデータの送信を受けてこれを視聴するという利用者の行為(直接利用行為)が,著作権法30条1項(同法102条1項において準用する場合を含む。)に規定する私的使用のための複製として適法なものであることはいうまでもないところである。そして,利用者が親子ロクラクを設置・管理し,これを利用して我が国内のテレビ放送を受信・録画し,これを海外に送信してその放送を個人として視聴する行為が適法な私的利用行為であることは異論の余地のないところであり,かかる適法行為を基本的な視点としながら,Xらの前記主張を検討してきた結果,前記認定判断のとおり,本件サービスにおける録画行為の実施主体は,利用者自身が親機ロクラクを自己管理する場合と何ら異ならず,Yが提供する本件サービスは,利用者の自由な意思に基づいて行われる適法な複製行為の実施を容易ならしめるための環境,条件等を提供しているにすぎないものというべきである。
- [3] 上告審判旨
破棄差戻し。
放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すなわち,複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ,上記の場合,サービス提供者は,単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても,放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり,サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。
※ カラオケ法理に関し,「著作権侵害者の認定に当たっては,単に物理的,自然的に観察するのではなく,社会的,経済的側面をも含めた総合的観察を行うことが相当である」との金築誠志裁判長裁判官の補足意見がある。
- [1] 事実の概要
著作権の間接侵害の問題点
間接侵害規定を設けるべきか
著作権に対する直接侵害行為を幇助したり,その手段や場を提供したりするなどの行為を侵害とする(みなす)規定,いわゆる間接侵害規定を著作権法に設けるべきか否か,という議論がある。実際,イギリス1988年著作権・意匠・特許法(CDPA1988)には「二次侵害(secondary infringement)」に関する規定があり,侵害複製物の取引に関与する行為と著作権を侵害する複製物の作成・実演に関与する行為とについてこれらを差止めの対象になりうるとしている(もっともこれは二次侵害とされる行為をする者の「著作権侵害の認識」が要求される)。
インターネット上のサービスに関する著作権等侵害にあっては,直接侵害者であるユーザー等に個々に責任追及するよりも当該サービス提供者を間接侵害者としてこれに責任追及できるとなれば,その相手方を把握することが容易になるなど訴訟経済の点においても合理的とされる。
他方間接侵害を明文によって責任ありとすることは,著作物ないしコンテンツを利用するさまざまなビジネス,とりわけ新しいビジネスに対して侵害責任のリスクを増大させるおそれがあり,そうしたビジネスを現に手掛け,あるいは手掛けようとする事業者を必要以上に萎縮させる危険性を孕んでいる。
ユーザーの行為規制
従来著作権(その支分権)が働くのは著作物の「利用行為」に対してであって,ユーザーの「使用行為」(または「消費行為」。いわゆる「見る」「読む」「聴く」などの行為。)には及ばなかった。しかしながらわが国の著作権法は2009年改正(平成21年法律53号)によって私的使用目的複製に係る権利を制限した30条1項の例外規定に第3号を追加し,著作権等を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音・録画を,その事実を知りながら行う場合は当該著作権等を侵害するものとした(いわゆる「ダウンロード違法化」)。あくまで「録音・録画」という利用行為を対象としているが,いわゆるエンド・ユーザーの行為を対象とするという意味では事実上の「使用行為」に対する規制といえよう。
上記改正に際しては,30条1項3号所定の行為はあくまで民事責任の対象となるにとどめられたが,その改正の2年後さらにこれを罰則の対象とする改正がなされた(著作権法119条3項。ただし加重要件あり)。権利者等はユーザーに向けて刑罰の可能性を示すことで違法なコンテンツのダウンロード等に対する抑制効果を期待しているのかもしれないが,それに乗じての “見せしめ” 的な取締りがなされるおそれもあり,ユーザーに与える影響は小さくない。
「法情報学」の講座では本講の後 コンテンツ知財論第8講 の内容を準用します。