法学入門: 第8講
行政法概説 Part 2
行政に関する争訟
行政行為(行政処分)に対しては,行政不服審査制度または行政訴訟(裁判)のいずれかによってその効力を争うことができる。
行政不服審査制度
- ①行政機関による処分・不作為に対して行政機関に不服を申し立てられる制度
※裁判(司法手続)ではない
- ②一般概括主義
個別の法令で「できない」とされていない限り行政不服審査法の規定に従い不服申立てができる
- ③
- ⑴不服申立てができる者
- 処分を受けた者
- 申請に対する処分が行われない不作為の場合は,申請を行った者
- 第三者に対する処分によって権利利益の侵害を受ける(おそれのある)者
- ⑵処分をした行政機関(処分庁)の最上級行政庁に対する「審査請求」で行う(原則=行不4条)
※上級行政庁=その行政事務に関して処分庁等を直接指揮監督する権限を有する行政庁。最上級行政庁は,一般的には,市町村の事務については市町村長,都道府県の事務については都道府県知事,国の事務については所轄の大臣となる。
※上級行政庁がないときは処分庁
※審査請求を受けて審査を担う行政庁が「審査庁」となる
- ⑶不服申立てができる期間(行不18条)
- 処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月(原則)
- 処分があった日の翌日から起算して1年(除斥期間)
- ⑴不服申立てができる者
- ④不服申立ての流れ
- ⑴審査請求(原則書面で=行不19条)
- ⑵審査庁による形式審査
- ⑶審査庁が審理員を指名(行不9条)
※対象となっている処分に関わった職員等は審理員になれない
- ⑷審理員による審理手続
審査請求人と処分庁とで主張立証(原則書面)
- ⒜口頭意見陳述権(31条)
- ⒝証拠提出権(32条)
- ⒞参考人陳述・鑑定要求権(34条)
- ⒟物件提出要求権(33条) など
※標準審理期間(行不16条)
- ⑸審理員が意見書を審査庁に提出(行不42条)
- ⑹審査庁は⑸を第三者機関=行政不服審査会に諮問(行不43条)→答申
- ⑺審査庁による裁決(行不44条・51条・52条)
- ⒜却下: 審査請求が不適法であるなど
- ⒝棄却: 審査請求に理由がないとき
※処分が違法・不当だが取消・撤回すると公の利益に著しい障害を生ずる場合も
- ⒞認容: 審査請求に理由があるとき(処分の取消し・変更)
行政事件訴訟
- ①行政処分や不作為が違法であるかどうかなどを争う訴訟・裁判
※手続は行政事件訴訟法による。一般的事項は民事訴訟と同様(行訴7条)
- ②不服申立てとの関係
個別の法令で審査請求前置と定められていない限り審査請求を経ずに提訴も可(行訴8条)
- ③行政事件訴訟の種類
- ⑴抗告訴訟(行訴3条)
行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟
- ⒜処分の取消しの訴え(取消訴訟)
- ⒝裁決の取消しの訴え
- ⒞無効等確認の訴え
- ⒟不作為の違法確認の訴え
- ⒠義務付けの訴え
- ⒡差止めの訴え
- ⑵当事者訴訟(行訴4条)
当事者間の法律関係を確認・形成する処分・裁決に関する訴訟
※法令によりその当事者の一方を被告とするものとされる
- ⑶民衆訴訟(行訴5条)
行政機関の不適法な行為の是正を求める訴訟
※選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するもの
- ⑷機関訴訟(行訴6条)
行政機関相互間における権限の存否やその行使に関する紛争についての訴訟
- ⑴抗告訴訟(行訴3条)
- ④取消訴訟の概要
- ⑴出訴期間(行訴14条)
- 処分または裁決があったことを知った日から6か月(原則)
- 処分または裁決の日から1年(除斥期間)
- ⑵証拠調べ
職権探知主義(行訴24条)
※一般の民事訴訟では弁論主義が採られる
- ⑶判決
- ⒜却下: 訴えが不適法であるなど
- ⒝棄却: 請求に理由がないとき
※処分が違法・不当だが取消・撤回すると公の利益に著しい障害を生ずる場合も=特別の事情による請求棄却(行訴31条)
- ⒞認容: 請求に理由があるとき(処分・裁決の取消し)
※第三者効あり(行訴32条)
※関係行政庁を拘束(行訴33条)
取消訴訟の認容判決では,主文の表現は「〔処分〕を取り消せ」と行政庁に命じるのではなく,「〔処分〕を取り消す」となり,裁判所が自ら当該処分の取消しを宣言する。これは取消訴訟が「給付の訴え」ではなく「形成の訴え」であるからである。
同様に,やはり形成の訴えとして,民事訴訟における契約解除の訴訟では判決主文は「〔契約〕を解除する」となり,離婚訴訟では「〔原告と被告とを〕離婚する」というように表現される。
- ⑴出訴期間(行訴14条)