情報法(法情報学): 第3講
情報公開制度 Part 2
開示義務と不開示事由
- ①行政機関の長に開示義務(原則=行政情報公開5条柱書き)
- ②不開示事由(5条各号)
- ⑴
- ⒜個人に関する情報(個人識別情報または個人の権利利益を害するおそれのある情報)
※例外の例外で開示
- 法令・慣行により公にすべき情報
- 人の生命・健康・生活・財産の保護のため公にすべき情報
- 公務員等の職務遂行に係る情報
- ⒝行政機関匿名加工情報等
- ▼大阪高判平24・11・29 判時2185号49頁
当該情報自体を開示しても不開示規定が防止しようとする不利益が生じるわけではないが,他の情報との照合により不開示規定が保護しようとする利益が害される場合に不開示としうることは,個人情報には必ずしも限定されないと解されるところ,〔行政機関〕情報公開法5条1号が個人情報についてのみ明文でその旨規定したことは,個人情報については特にその保護が図られるべきであるとの趣旨であると解され〔,さらに個人情報保護法の趣旨および本法の立法経緯等〕に鑑みれば,特定範疇の者にとって容易に入手しうる情報も,情報公開法5条1号にいう「他の情報」に当たると解すべきである。……個人識別性の判断に際しては,対象となる集団の規模が重要な考慮要素となり,構成員が少数の場合には,他の情報と照合することによって個人が識別される可能性が高くなると考えられるところ,このような状況のもとで,〔労災補償給付の支給決定に係る処理経過簿上の〕事業場名が開示されれば,当該被災労働者の近親者ばかりでなく,同僚や取引先関係者も,事業場名と,その保有し,入手しうる情報とを併せ照合することにより,当該被災労働者個人を識別することができるものと認められ〔,〕したがって,事業場名は,情報公開法5条1号所定の不開示情報……に該当するものというべきである。
- ⒜個人に関する情報(個人識別情報または個人の権利利益を害するおそれのある情報)
- ⑵法人等に関する情報
- 公にすることで当該法人等の権利利益を害するおそれがある情報
- 非公開約束情報で当該約束に合理性があるもの
- ▼最判平23・10・14 判時2159号53頁②
〔当時のエネルギー使用合理化法11条により事業者が経済産業局長に提出した定期報告書上の工場単位の各種燃料等に係る〕本件数値情報は,競業者にとって本件各事業者の工場単位のエネルギーに係るコストや技術水準等に関する各種の分析及びこれに基づく設備や技術の改善計画等に資する有益な情報であり,また,需要者や供給者にとっても本件各事業者との製品や燃料等の価格交渉等において有意な事項に関する客観的な裏付けのある交渉の材料等となる有益な情報であるということができ,本件数値情報が開示された場合には,これが開示されない場合と比べて,これらの者は事業上の競争や価格交渉等においてより有利な地位に立つことができる反面,本件各事業者はより不利な条件の下での事業上の競争や価格交渉等を強いられ,このような不利な状況に置かれることによって本件各事業者の競争上の地位その他正当な利益が害される蓋然性が客観的に認められるものというべきであ〔り,ゆえに〕本件数値情報は,これが公にされることにより本件各事業者の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものとして,情報公開法5条2号イ所定の不開示情報に当たるというべきである。
- ▼大阪地判平19・6・29 判タ1258号171頁
〔指定確認検査機関に対する行政の立入検査に関して作成された報告書記載情報のうち添付〕文書に記録された情報は,……情報公開法5条2号イ……に該当〔するものと〕一応認められる〔が,〕添付……資料に記録されたAによる建築基準法違反の検査が確認された物件の名称,これを担当した補助員名及びその検査の日付に関する情報にAの確認検査業務に係る営業戦略に関する情報が含まれているとしても,上記のような記録内容から推知し得る上記営業戦略の内容はおのずから限定されたものとならざるを得ないのであって,これが公にされることにより同社が営業戦略の変更を余儀なくされるなどその営業活動に具体的な支障が生じるといった事態はにわかに考え難く,……他方で,上記文書に記録された当該物件について確認検査員の資格を有しない補助員による建築基準法違反の検査がされたという情報は,……当該物件の所有者ないし利用者等の生命,健康及び財産に重大な関係を有する情報であるとともに,このような物件については,建築基準関係規定の定める建築物の敷地,構造及び用途に関する最低の基準が満たされておらず,その結果,当該物件に係る国民の財産のみならず生命,健康に対する重大な被害が発生する事態が一般的に相当の蓋然性をもって予測されるものといわざるを得〔ず,〕そうであるとすれば,上記文書に含まれる法人等(A)の確認検査業務に係る営業戦略に関する情報を公にしないことにより保護される当該法人等(A)の営業上の利益ないし競争上の地位と,上記文書に記録された当該物件について確認検査員の資格を有しない補助員による建築基準法違反の検査がされたという情報を公にすることにより保護される当該物件に係る国民の生命,身体及び財産とを比較衡量した場合,後者が前者を上回ることは明らかというべきであるから,上記文書に記録された情報は,情報公開法5条2号ただし書にいう人の生命,健康又は財産を保護するため公にすることが必要であると認められる情報に該当するものというべきで……ある。〔さらに同条6号の有無についても,人の生命・健康・生活・財産を保護するため公にすることが必要であるか否かについて勘案しなければならない旨を判示。〕
- ⑶国の安全・外交等に関する情報
- ▼最判平30・1・19 判時2377号4頁(内閣官房報償費事件)
※内閣官房報償費に関する支払明細書のうち調査情報対策費および活動関係費の各支払決定に係る記録部分については本条3号または6号の該当性を認めつつ,政策推進費受払簿等における政策推進費の繰入れに係る記録部分についてはその該当性を否定し,当該部分等について不開示決定が取り消された事例。
- ▼最判平30・1・19 判時2377号4頁(内閣官房報償費事件)
- ⑷犯罪捜査・公安等に関する情報
- ⑸審議・検討・協議に関する情報
- ⑹事務・事業に関する情報
- ▼最判平30・1・19 判時2377号4頁(内閣官房報償費事件)
重要政策等に関して内閣官房から非公式の協力依頼等を受けた関係者は,……自らが関与するなどした事実が公にならないことを前提にこれに応じることが通常であると考えられ〔,〕上記事実に関する情報又はこれを推知し得る情報が開示された場合には,当該関係者からの信頼が失われ,重要政策等に関する事務の遂行に支障が生ずるおそれがあるとともに,内閣官房への協力や情報提供等が控えられることとなる結果,今後の内閣官房の活動全般に支障が生ずることもあり得る。また,このような関係者等の氏名又は名称が明らかになると,これらの者への不正な働き掛けが可能となり,その安全が脅かされたり,情報が漏えいしたりすることによって,内閣官房の活動の円滑かつ効果的な遂行に支障が生ずるおそれもある。〔本条6号該当性を肯定。〕
- ▼最判平30・1・19 判時2377号4頁(内閣官房報償費事件)
※公益上の理由による裁量的開示(行政機関情報公開7条)
部分開示(一部開示)の実施に際し,文書・図画の写しが開示請求者に交付される(次項参照)場合において,その具体的手法が問題となることがある。すなわち,交付される文書の写しに含まれる不開示情報の部分を “黒塗り” で隠すのが通例であるところ,文書のページ全体が黒く塗り潰され,さらにそれが何ページにも渡って続くという,いわゆる連続「のり弁」状態になっているものも見受けられ,その部分開示に意味があるのかと見る者をして思わせる。
また,“黒塗り” であればそこに何らかの情報があってそれが隠されていることを認識できるからまだよいものの,不開示とする箇所を修正液等で背景や空白部分と同一にして “白抜き” にしてしまうことで,当該箇所に情報があったのかどうかさえ認識できなくしてしまう手法も採られることがあり,こうした場合は開示に係る行政機関のモラルが問われることとなろう。
- ⑴
- ③存否応答拒否(グローマー拒否)(行政機関情報公開8条)
※特定の人物に係る前科の情報など。当該情報が存在することを知られると不開示情報を開示したことになる。
アメリカ合衆国 FOIA の実務において行われていた Glomar denial(Glomar response,Glomarization とも)と同様の制度。1974年に太平洋に沈没したソビエト連邦(当時)の潜水艦を極秘裏に引き上げようとしたアメリカ合衆国中央情報局(CIA)の “ジェニファー計画” と,そのために建造されたとされるサルベージ船 “グローマー・エクスプローラー(Glomar Explorer)” に関する情報を得ようと情報公開請求をしたジャーナリストに対し,CIA が当該事実の「確認も否定もしない」と回答したことに由来する。
開示等決定
- ①開示等決定(行政処分)
- ⑴開示請求者に書面で通知(行政情報公開9条)
- 全部開示
- 一部開示
- 全部不開示
- ⑵決定までの期間:30日以内(原則=行政機関情報公開10条・11条)
- ⑶第三者の意見書提出機会(行政機関情報公開13条)
- ⑴開示請求者に書面で通知(行政情報公開9条)
- ②開示等の実施(行政機関情報公開14条)
- ⑴
- ⒜文書・図画: 閲覧または写しの交付
- ⒝電磁的記録: その種別,情報化の進展状況等を勘案した政令所定の方法
※行政機関情報公開法施行令9条3項
- ⑵手数料(行政機関情報公開16条)
- ⑴
不服申立て
- ①
- ⑴開示決定等に対する審査請求
- ⑵開示請求に係る不作為に対する審査請求
- ②行政不服審査法に基づくが……
- 適用除外(行政機関情報公開18条):
審理員&行政不服審査会関連規定
※審理員ではなく審査庁自体が審理を行う。
- 適用除外(行政機関情報公開18条):
- ③情報公開・個人情報保護審査会
- 情報公開制度&個人情報保護制度の専門の審査会
⇒審査庁の長は諮問しなければならない(行政機関情報公開19条)
※諮問をせずともよい(適用除外)範囲が一般の審査請求よりも狭い(19条1項1号・2号,行不43条1項)。
- 情報公開制度&個人情報保護制度の専門の審査会