コンテンツ知的財産論: 第4講
各種コンテンツとその保護 Part 3
さまざまな種類のコンテンツ
マルチメディア
- ①マルチメディア(multimedia)の意義
- ⑴コンピューター上で,文字・静止画・動画・音声等のさまざまな形態の情報を統合して扱うこと
- ⑵双方向性(interactivity):利用者の要求・操作に応じて情報の提供等が変化
すでに前講までで何度も述べているように,デジタルにあっては文字・画像・音声その他すべての情報は符号化される。これが複合コンテンツとしての 「マルチメディア・コンテンツ」 の存在を可能ならしめる一番のポイントだろう。
また,マルチメディアの要素として 「双方向性」を含めるかどうかは立場が分かれるが,これについても同様の点から理解すれば,やはり必須であることが納得できる。すなわち,符号化された情報を個々の要求(その要求さえもデジタルで符号化された信号により行う)に応じて供給することは難なく行えるし(そこではデジタル信号を伝達するインフラさえあればよい),利用者がそのような情報を取捨選択したり,加工・改変した上で供給者にフィードバックしたりすることもまた可能となるからだ。
ウェブページ
- ①ウェブページの意義と特徴
- WWW において流通する文書
- HTML によって記述される
- 上記により,文書の構造をいわばコンピューターに理解させることが可能になる
- ハイパーリンクによって文書どうしの関連を示すことができる
- 画像や音声等のデータをオブジェクトとして埋め込んだり参照することができる
- ②オブジェクトの埋め込みからさらなる発展へ
ウェブページ,すなわち HTML 文書にあっては,比較的早い段階から,画像等を埋め込んで文書中に表示するといったことが可能なように規格化されていた。一時はブラウザ(ウェブを閲覧するためのアプリケーション)ごとに独自の拡張規格を積極的に取り込む動きも見られたが,現在は非営利団体 W3C によってウェブ関連技術の標準化が図られている。
その後 DHTML(動的 HTML)や Ajax(Asynchronous JavaScript + XML)などの技術により,より動的で双方向性の高いウェブページ,ひいてはウェブ・アプリケーション(Google Map 等に代表される,ブラウザ上で動作するアプリケーション)までもが登場するに至っている(第5講 も参照)。
コンピューター・ゲーム
- ①コンピューター・ゲームの意義
プレイヤーがコントローラ等を介して入力する何らかの情報をコンピューターが演算し,その処理結果に対してさらにプレイヤーが入力するという一連の動作を繰り返すことで行われるゲーム(遊戯・娯楽)
- ▼東京高判平11・3・18 判時1684号112頁(三國志Ⅲ事件)
判旨: 被告プログラムによって,いわゆる歴史シミュレーション・ゲームソフトに登場する君主,武将等のパラメータ(能力値)が本来予定されている制限値を超えて設定できるようになったとしても,被告プログラムが当該ゲームソフトに係る同一性保持権を侵害するものとはいえない。
- ▼大阪高判平11・4・27 判時1700号129頁(ときめきメモリアル事件控訴審)
本件〔恋愛シミュレーション〕ゲームソフトはプログラムとデータとからなるもので,……影像や音声はすべてデータとして保存されている。……本件ゲームソフト〔は,それ〕が再生機器を用いてモニターに各場面に応じて(連続的ではないとしても)変化する影像を映し出し,登場人物が当該場面に相応しい台詞を述べて一定のストーリーを展開している点で,〔…著作権法10条1項7号〕にいう「映画の著作物」に該当するものということができる……。……また,本件ゲームソフトのプログラムはコンピューターに対する指令を組合わせたものとして表現したものを含むものと認められる……から,同法10条1項9号にいう「プログラムの著作物」にも該当する。……そして,本件ゲームソフトにおいては,データに保存された影像や音声をプログラムによって読み取り再生した上,プレイヤーの主体的な参加によって初めてゲームの進行が図られる点で,「映画の著作物」と「プログラムの著作物」とが単に併存しているにすぎないものではなく,両者が相関連して「ゲーム映像」とでもいうべき複合的な性格の著作物を形成しているものと認めるのが相当である。〔被告の輸入・販売に係る本件メモリーカードが本件ゲームソフトのストーリーを改変するものとして同一性保持権侵害を認定。〕
- ▼最判平13・2・13 民集55巻1号87頁(ときめきメモリアル事件上告審)
本件メモリーカードの使用は,本件ゲームソフトを改変し……同一性保持権を侵害する〔。〕パラメータは,それによって主人公の人物像を表現するものであり,その変化に応じてストーリーが展開され〔るものであるところ,本件メモリーカードの〕使用によって本件ゲームソフトにおいて設定されたパラメータによって表現される主人公の人物像が改変されるとともに,その結果,本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され,ストーリーの改変をもたらす……からである。
コンピューター関連技術の発達に伴い,ゲームにおいても特に映像・音声の表現能力が飛躍的に向上し,また通信機能およびその環境の充実と相俟って,情報統合と双方向性という意味でのマルチメディア化はいっそう進んでいる。
著作権法の解釈・運用において,しばしば「ゲームは映画だ」と主張されることがある。わが国の著作権法上,ゲームの映画該当性が問われた最初の事例は 東京地判昭59・9・28 判時1129号120頁(パックマン事件) であるところ,同事件はゲームのプログラムを複製した者が不明である中で,当該ゲームを稼働させていた被告喫茶店(当時はゲームのプログラムを格納した ROM を備えたテーブル型筐体のゲーム機を喫茶店に設置するのが一般的だった)の行為を上映権侵害と認めた点に特徴がある。すなわち,当時の著作権法(平成11年法律77号改正前)では「上映権」は「映画の著作物」にのみ認められていた支分権(当時の26条)であったがゆえに,喫茶店でのビデオゲームの稼働(=デモおよびプレイ画面の再生)を差し止めるには「映画」でなければならなかったのである。
上記平成11年の著作権法改正によって上映権はあらゆる著作物に認められるようになったが(22条の2),他方その後も引き続き「映画」にのみ認められている支分権が「頒布権」である。ゲームソフト製作会社は,これを根拠に中古ゲームソフト販売を差し止めようとしたところ,最高裁は,ゲームが「映画の著作物」であり頒布権があると認めつつも,当該頒布権は(劇場用映画のフィルムのように公衆に提示することを目的とする場合とは異なり)その複製物の適法譲渡により消尽するものと判断した(詳しくは 講義ノート - 知的財産法 第8講 参照)。
なお,ゲームソフト製作会社側は,違法にアップロードされた著作物を知情で受信して「録音・録画」する行為を著作権侵害とする著作権法改正(平成21年法律53号による30条1項3号)がなされた際に,当該改正が「映像・音楽」の違法配信を念頭になされたものである(改正概要の説明〔PDF〕 を参照)にもかかわらず,「ゲームは映画だから違法にアップロードされたゲームソフト(のプログラムおよびデータ)をダウンロードして複製することは録画である」旨の見解を示していた。
- ▼東京高判平11・3・18 判時1684号112頁(三國志Ⅲ事件)
- ②ゲームの多様化
- ⑴その内容は,単なる「遊び」にとどまることなく,「教養」や「健康」に資するものであったり,「コミュニケーション・ツール」の機能を有するものであったりと,多方面に発展している。
- ⑵視聴覚での認識にとどまらず,触覚を通じて振動や感触を伝えるコントローラや,VR(仮想現実)・AR(拡張現実)を可能にするインターフェイス等の多様化が見られる。
- ⑶ゲーム専用機器だけでなく,スマートフォンをプラットフォームにしたアプリによって,さらにはクラウド・コンピューティングを利用した SaaS によって供給されるなど(詳しくは 第5講 を参照),享受の手段や場が拡がっている。
演習
- さまざまな形態の情報が統合されることによって,各情報に対する本来の保護に変化は生じるだろうか。