コンテンツ知的財産論: 第2講
各種コンテンツとその保護 Part 1
さまざまな種類のコンテンツ
- コンテンツは,その表現・伝達の形式等によっていくつかのタイプに分類できる。
文字コンテンツ
- 「文学的著作物(literal works)」(ベルヌ1条ほか),「言語の著作物」(著10条1項1号)のうち文字で表現されるもの
- 文字情報がデジタル化されることで
- ⑴複製が容易になる……ファイル全体としてのコピーはもちろん,部分をコピー&ペーストも
- ⑵他の形式(通常の文字によらない,点字や音声など)での利用も
- ⑶伝達・配信の利便性向上(有体物としての複製物なしでも)
- ⑷検索が容易に(特に全文検索)
前講 でも触れたように,私たち人間は,表示される文字やその装飾等を目視することなり,発せられる音声を聞くなりすることで,情報(の内容)の軽重を判断する。しかしコンピュータはあくまで 0 と 1 の計算をするのみで,内容の軽重を判断できない。逆にこのこと ――情報がすべて等価・平等となること―― が,複製・伝達や検索の質を向上させているとも言えよう。
その一方で,等価・平等で扱われる情報の(内容の)意味をコンピュータにも理解・表現できるようにすることもまた,まったく不可能なことではない。文書で行われるマークアップ(マーク付け)がその典型である。
主にインターネット上での文書において用いられるものとしてお馴染みの HTML もまた,こうしたマークアップ言語の一つだ。HTML では,例えば,<p> を段落,<h1> を第1レベルの見出し,<strong> を強調というように,< と > で括られたタグを用いることで文書内の情報の “要素” を指定できる。
こうした言語を用いて適切なマークアップがなされた文書であれば,コンピュータとアプリケーションはこれを解析して,情報の軽重等を視覚的に表示することができるだけでなく,音声によって再現することも可能となる。
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- ※問題点:
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- 文字コードとその設定により再現できないことも
- 汎用性または互換性のない形式では再利用が難しくなる
- 非印刷物では可読性が低くなる
静止画コンテンツ
- 「美術の著作物」「図形の著作物」「写真の著作物」(著10条1項4号・6号・8号),
- その他視覚によって知覚される情景の一瞬を固定したもの(例:動画キャプチャーなど)
- 静止画がデジタル化されることで
- ⑴複製が容易になる
- ⑵複製に伴う劣化がほとんどなくなる
- ⑶編集・加工(改変)が容易になる
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- ※問題点:
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- 圧縮規格等による互換性の問題
- 改竄が比較的容易にできる
かつてウェブ(インターネット)の世界では,米国の CompuServe が開発した画像圧縮フォーマット GIF が幅広く普及していたが,この圧縮技術で用いられているアルゴリズム LZW については米国の Unisys が特許権を有していた(日本でも出願はなされたが=特許公開平8-237138=後に取り下げられているようである。)。
当初 Unisys は LZW の利用について料金等を請求しないこととしていたが,GIF フォーマットが普及しウェブ・ブラウザで標準的にサポートされるようになると方針を転換,実施料を請求しようとした。
これに関して,実施料の請求が,商用利用のソフトウェアだけでなく,フリーで開発された画像閲覧ソフト,画像制作・編集ソフト,あるいはそれらを用いて制作された画像自体にまで及ぶのではないかとの懸念が一般に拡がり,Unisys の方針は世人,特にアマチュアたる一般ユーザーの大きな反感を買うことになる。すなわち,多くの画像関係ソフトは GIF フォーマットの対応をやめ,また多くののウェブ制作者が自身のウェブページにおいて GIF フォーマットの画像を用いることをやめた。
また同時にこの反感は,GIF に代わる画像フォーマットの開発の源ともなり,その成果として PNG が得られた。
音声コンテンツ
- 「言語の著作物」のうち音声で表現されるもの,
- 「音楽の著作物」(著10条1項2号)
動画コンテンツ
- 「映画の著作物」(著10条1項7号)
- 音声・動画がデジタル化されることで
- ⑴複製が容易になる
- ⑵複製に伴う劣化がほとんどなくなる
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- ※関連:
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- ハードやメディア(媒体)の小型化 →複製物の持ち運びが容易に(いつでもどこでも)
- 通信技術の発達(高速化等) →複製物なしでも(録音→媒体製作→媒体販売,でなくとも)
- ※問題点:
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- 圧縮規格による互換性の問題
※動画は文字や静止画よりもはるかに多くの情報量を要するため,圧縮技術はとりわけ重要である。
- 利用態様の多様化と支分権
※同じコンテンツなのに提供手段によって享受できたりできなかったりする可能性が生じる。
- 圧縮規格による互換性の問題
動画の圧縮規格においても,上記の静止画におけるそれと同様の事例がある。
米国 DivX, Inc. が開発したコーデック DivX について,一時オープンソースで開発されていたこのコーデックを同社が商用製品に転換したところ,これに反発したプログラマーらによって Xvid が開発された。
かつてニッポン放送系列の BS デジタル・ラジオ局 “LFX488” では “あなたのジュークボックス” という番組において聴取者から広く楽曲のリクエストを受け付けていたが,2006年 4月に同局がインターネット・ラジオ局 “LFX mudigi”へと移行(その後 2007年 4月に “Suono Dolce” となり,2018年 1月に配信終了)してから,特定のレコード会社やアーティストの楽曲についてはリクエストされても放送できない旨の告知がなされた。これはどういう理由からか,法的根拠を考えてみよう。
演習
- まずは従来から著作権の対象とされているものについてアナログとデジタルの異同を捉えてみよう。
- さらに,上記コンテンツに従来の知的財産としては保護され得ないものがあるか考えてみよう。