
コンテンツ知的財産論: 第6講
法情報学: 第5講
プロバイダ責任制限法
プロバイダ責任制限法の趣旨
高度情報通信ネットワーク社会
- 情報の発受が誰でも可能に,容易になる。
- 情報流通に携わる(媒介する)者が多数に及ぶ。
流通する情報により誰かの権利・利益が侵害されたとき
- その侵害の主体が誰であるか?
- またその責任は誰が負うべきか?
→ 情報流通を担ういわゆる「プロバイダ」を一定条件下で免責してその自由な活動を促す。
用語等
- 正式題名
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律137号,平成14年5月27日施行)
- 定義
- 特定電気通信
- 不特定の者に受信されることを目的とする電気通信の送信。放送のように公衆により直接受信されるものは除く。
- 特定電気通信設備
- 特定電気通信の用に供される電気通信設備(ハードウェアに限られない)
- 特定電気通信役務提供者 (プロバイダ)
- 特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し,その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者
- 発信者
- 特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録し,または当該特定電気通信設備の送信装置に情報を入力した者
プロバイダ責任制限法の概要
プロバイダの免責要件
- ⑴権利を侵害されたと主張する者に対しての免責
- Ⅰ.情報の送信防止措置が技術的に可能である
- Ⅱ.発信者がプロバイダ自身ではない
- Ⅲ.以下のいずれにも該当しない
- ⅰ.情報流通による権利侵害を知っていた,または
- ⅱ.情報流通を知っていて,それによる権利侵害を知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある
- ⑵発信者(送信防止措置による表現の自由の侵害を主張)に対しての免責
- Ⅰ.送信防止措置が必要な限度でなされた
- Ⅱ.以下のいずれかに該当する
- ⅰ.情報流通により権利侵害があったと信じるに足りる相当の理由がある
- ⅱ.被害主張者からの送信防止措置の申し出があった場合に,これを発信者に照会してから7日を経過しても発信者が異議を唱えなかったとき
上記 ⑵-Ⅱ-ⅱ に定める手続を “notice, notice and takedown” という。すなわち,被害主張者からの申し出(最初の notice)と発信者への照会(二番目の notice)を経てから送信防止措置(=情報の削除,takedown)をするという意味である。なお米国では,特にネットワーク上での著作権侵害の問題については,被害主張者からの申し出を受けてまずは情報を削除する(発信者との関係は後に処理する)ことで被害主張者に対する免責となる “notice and takedown” の手法が採られている。
発信者情報開示
- 被害主張者は,以下の要件を満たす場合に,プロバイダに対して発信者情報の開示を求めることができる
- Ⅰ.情報流通による権利侵害が明らかである
- Ⅱ.発信者情報開示が被害主張者の損害賠償請求権行使のために必要であるなど,開示を受けるべき正当な理由がある
発信者情報開示の請求は,プロバイダが任意にこれに応じてくれない限り,通常の民事訴訟によって行わなければならない。ゆえに,とりわけ関与するプロバイダが多い場合など,制度の実効性が著しく低いのではないかと指摘されている。裁判外紛争手続(ADR)の制度の確立を求める声が多い。
プロバイダ責任制限法関連の裁判例
同法施行前の事例
- 東京地判平14・6・26,平成13年(ワ)第15125号 2ちゃんねる動物病院事件
- 東京高判平14・12・25,平成14年(ネ)第4083号 上記控訴審
匿名性を標榜するインターネットの電子掲示板に匿名で他人の名誉を毀損する発言が記載された場合,被害を受けた者が発言者を特定してその責任を追及することが事実上不可能となっており,被害を受けた者からの削除要請も当該電子掲示板を管理運営する者が一方的に定めたあいまいな基準やルールに従わなければならない等被害者に対する救済手段として十分でないなどの判示の事情があるときには,被害を受けた者は,当該電子掲示板を管理運営する者に対して当該発言の記載の削除を求めることができる。〔傍論としてプロバイダ責任制限法3条1項につき,同法条は,プロバイダが当該情報が他人の権利を侵害することを知っていたときはもちろん,プロバイダが当該情報の流通を知り,かつ,通常人の注意をもってすればそれが他人の権利を侵害するものであることを知り得たときも責任を免れないとする趣旨であると判示。〕
同法に関する事例
- 大阪地判平20・5・23,平成19年(ワ)第6473号 学校裏サイト掲示板事件
- [1] 事実の概要
X(原告)は,平成18年8月当時中学1年の女子生徒であった者であり,Y(被告)は,同当時インターネット上のレンタル掲示板において複数のインターネット上の掲示板を設置・運営していた者である。Yの設置・運営に係る掲示板には,Xの当時通う中学校の名称を冠し,同校の話題を扱うもの(以下「本件掲示板」という)も含まれていた。本件掲示板は,不特定多数の者が自由に匿名で書き込むことができるもので,Yによって本件掲示板への書き込み及びその削除について一定のルールが定められている一方で,書き込みの削除については,利用者からの削除依頼により,管理人が対象の削除基準該当性を判断した上で,管理人が削除することとしている。
平成18年8月20日,本件掲示板に,「中1の〔Xの氏名〕について」とのタイトルのスレッド(以下「本件スレッド」という)が立ち上げられ,Xに対してその実名を挙げての悪口・非難やそれに同調する書込みが同年10月18日にかけて88回なされた。この間Xの通う中学校の教頭がなした本件スレッドの削除依頼に対して,Yはいずれもその定める削除ルールに合致しないなどとして削除を行わなかったところ,平成18年10月中旬にXの両親が警察に相談した上で本件スレッドの削除依頼等を申し出たことにより,同月31日に至ってようやくYは本件スレッドを削除した。
Xは,Yが本件スレッドを迅速に削除するなどの適切な対処をすべき義務を怠ったことにより精神的苦痛を被ったとして,Yに対して民法709条に基づき200万円余の損害賠償を請求した。Yは,プロバイダ責任制限法3条1項により自身が免責されるなどとしてこれを争った。
- [2] 判旨
一部認容。
〔認定事実から〕Yは,平成18年9月7日の〔Xの通う中学校の教頭〕からの一回目の削除依頼の時点で,本件スレッドを確認することにより,本件スレッドのタイトル及び内容がXの実名を挙げた上での誹謗中傷であり,Xの権利を侵害するものであることを知ることができたというべきであ〔り,Yの情報流通に関する認識および権利侵害に関する認識がいずれも認められ,プロバイダ責任制限法3条1項の免責事由に該当しない〕。
本件掲示板〔のような特定の学校の生徒が書き込むことを予定した電子掲示板〕を設置し,これを管理運営していたYとしては,〔学校の生徒同士が実名を挙げて誹謗中傷を行う等し,そのトラブルがインターネット上にとどまらず現実の学校社会にも及ぶ〕ような被害の発生を防止するよう慎重に管理し,トラブルが発生した場合には,被害が拡大しないよう迅速に対処する管理義務を負っていたと解するのが相当である〔ところ,認定事実から〕Y被告には,本件掲示板について,管理義務違反が認められる。
- [1] 事実の概要
「法情報学」の講座では本講の後 コンテンツ知財論第7講 の内容を準用します。