知的財産法(朝日大学・法学部,大阪教育大学・教育学部,奈良女子大学・理学部)
著作権者の利益を損なうまでもない私的使用や,一定の引用による利用には,原則として権利が働かない。
※次の場合は私的使用目的複製とはならず,権利が働く
※デジタル方式の録音・録画については,私的使用目的複製でも著作権者に補償金を支払わなければならない。
私的録音録画補償金制度に関しては,著作権法30条2項にあるように,その課金対象から 「録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するもの」
,いわゆる汎用機機が除かれており,これが昨今問題となっている。
すなわち,音声・映像の記録・再生機器として iPod(Apple 社)のようなデジタル・プレーヤーがここ数年で広く普及したが,こうした機器は,パソコンの記録媒体(ハードディスクやメモリ等)と同様に汎用的にデジタル・データを読み書きできるため,上記趣旨から課金の対象とならないのだ。
権利者側からは,上記のような機器も実施的にはもっぱら録音・録画を行うための機器であるとしてこれを課金対象にすべしという声があがっているが,他方,そのようにすると課金対象が汎用機器へと無制限に拡がってくるおそれがあるとの慎重論も根強い。また,そもそも私的録音録画補償金制度自体に問題があるという指摘もある(例えば,同制度では著作物以外の録音・録画については媒体に課せられた補償金を返還するとされているが,これがほとんど形骸化している,など。)。
私的使用目的を定めた著作権法30条に関しては,特に 「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」
について,「何親等の親族ならよい」 というような絶対的基準があるかのように誤って説明されることがしばしばあるようだ。
この範囲について具体的に表立って争われた事例は見受けられないが,要するにこの規定は,例えば妻の購入した音楽 CD を夫が通勤の際に聴くことを目的として携帯可能な別の媒体に複製するようなケースを想定していると考えられ,このような場合にはそもそも著作権者の経済的利益が著しく損なわれることがないだろうとの趣旨から出たものである。
そうすると一応の参考的な基準としては 「家計を一つにする者ら」 というのが上記範囲ということになろうが,この場合も,例えばルームシェアで共同生活を送っている友人ならどうかとか,夫婦でも財布は別だという者らはどうなのかなど,結局のところ個別に判断するほかないということになる。
〔旧著作権法30条1項第2(現32条1項に相当)にいう〕引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをい〔い,〕右引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならないというべきであり、更に、〔同18条3項(現50条に相当)〕によれば、引用される側の著作物の著作者人格権を侵害するような態様でする引用は許されない〔。〕
引用についてしばしば誤解されているのは,「何文字・何行(何秒・何小節)までならよい」 というような,正当な引用が認められる絶対的基準があるかのように言われることである。実際には上記判例が示した基準に従い個別具体的に判断されるもので,絶対的な基準はない。
この点に関しては,「非営利」 という点のみを捉えて誤解しているケースが一般にしばしば見受けられる。すなわち,「非営利」 であれば他人の著作物をいかに利用してもよいかのように解している(例えば,自身が個人的に非営利で開設・運営しているウェブページにおいて,他人の創作に係る画像,歌詞などを掲載するように。)ものがある。
上記ウェブページの例では,その利用態様は複製および公衆送信(送信可能化)であり,この場合は非営利であろうと権利が働く。
〔著作権法47条〕にいう「……小冊子」とは、観覧者のために著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小型のカタログ、目録又は図録といつたものを意味し、たとえ、観覧者のためであつても、実質的にみて鑑賞用の豪華本や画集といえるようなものは、これに含まれないものと解するのが相当である。