
知的財産法(知的財産権入門): 第3講
特許法概説
特許制度の特徴
- 権利付与および保護の対象は「発明」とその「実施」
- 技術情報を公開させる代わりに一定期間の独占的権利を付与する(公開代償)。
- 特許要件の審査,権利発生の登録等の手続は,行政機関としての特許庁が行う。
※以下引用条文は特記のない限り特許法
- (定義)
第2条 この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。
2 この法律で「特許発明」とは、特許を受けている発明をいう。
3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
- 一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
- 二 方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為
- 三 物を生産する方法の発明にあつては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
特許権取得その他の手続
特許出願は出願書類によって行う(実際は電子出願)。出願書類は,工業所有権情報・研修館(INPIT) が提供する 特許電子図書館(IPDL) などで検索・閲覧でき,下記のように PDF 形式でその内容が提供されている。
- 発明「スムーズに開く包装箱」の出願書類(公開特許公報より)
- (特許出願)
第36条 特許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。
- 一 特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
- 二 発明者の氏名及び住所又は居所
2 願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければならない。
3 前項の明細書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
- 一 発明の名称
- 二 図面の簡単な説明
- 三 発明の詳細な説明
4 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
- 一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
- 二 その発明に関連する文献公知発明(第二十九条第一項第三号に掲げる発明をいう。以下この号において同じ。)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。
5 第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。
6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
- 一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
- 二 特許を受けようとする発明が明確であること。
- 三 請求項ごとの記載が簡潔であること。
- 四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。
7 第二項の要約書には、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した発明の概要その他経済産業省令で定める事項を記載しなければならない。
特許要件等
「発明」における「自然法則」
- コンピューター・プログラムやビジネスモデルの実質的な保護(運用)
コンピューター・プログラムやビジネスモデルといったもの(以下「プログラム等」)は,元来人為的な取決めであって自然法則を利用していないから特許権の対象である「発明」たりえない。しかしプログラム等を含むシステム全体で自然法則を利用しているなどの場合にはその全体をもって「発明」とする運用がなされており,実質的にプログラム等が特許権によって保護されている。
特許要件
- 産業上利用可能性(29条1項柱書き)
- 新規性(29条1項各号に非該当)
- 公知でないこと
- 公用でないこと
- 文献公知(インターネットによるものを含む)でないこと
- 進歩性(29条2項に非該当)
当業者が容易に想到しうるものでないこと
- (特許の要件)
第29条 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
- 一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
- 二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
- 三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
不特許事由
上記の特許要件を満たしていても,公序良俗または公衆衛生を害するおそれのある発明は,特許を受けることができない(32条)。
- (特許を受けることができない発明)
特許法32条 公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがある発明については、第二十九条の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
特定者に独占させるべきではない情報
例えば医療行為などは,公共的な意味あいから特定の者にこれを独占させるべきではない。そのために取りうる理論として以下のようなものが考えられる。
- そもそも「発明」の要件を満たさない
- 特許要件としての「産業上利用可能性」がない
- 「公序良俗・公衆衛生を害するおそれがある」という不特許事由に該当する
この点について判断した事例が下記である。
- 東京高判平14・4・11 判時1828号99頁 (外科手術再生光学表示方法装置事件)
〔医薬や医療機器に特許が認められる場合と異なり,〕医療行為そのものにも特許性が認められるという制度の下では,現に医療行為に当たる医師にとって,少なくとも観念的には,自らの行おうとしている医療行為が特許の対象とされている可能性が常に存在するということにな〔り,〕医師は,常に,これから自分が行おうとしていることが特許の対象になっているのではないか,それを行うことにより特許権侵害の責任を追及されることになるのではないか,どのような責任を追及されることになるのか,などといったことを恐れながら,医療行為に当たらなければならないことになりかねない。……医療行為に当たる医師をこのような状況に追い込む制度は,医療行為というものの事柄の性質上,著しく不当であるというべきであり,我が国の特許制度は,このような結果を是認するものではないと考えるのが,合理的な解釈であるというべきである。そして,もしそうだとすると,特許法が,このような結果を防ぐための措置を講じていれば格別,そうでない限り,特許法は,医療行為そのものに対しては特許性を認めていないと考える以外にないというべきである。……特許法は,〔昭和50年改正により医薬やその調合法を特許の保護対象に加えることとした際も〕医療行為そのものに係る特許については,〔医師等の処方箋による調剤行為および調剤医薬に医薬の特許権が及ばないという例外を定めた特許法69条3項のような〕措置を何ら講じていないのである。〔他方特許法はその1条および29条柱書きに〕いう「産業」に何が含まれるかについては,何らの定義も与えていない。また,医療行為一般を不特許事由とする具体的な規定も設けていない。そうである以上,たとい,上記のとおり,一般的にいえば,「産業」の意味を狭く解さなければならない理由は本来的にはない,というべきであるとしても,特許法は,上記の理由で特許性の認められない医療行為に関する発明は,「産業上利用することができる発明」とはしないものとしている,と解する以外にないというべきである。