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コンテンツ知的財産論: 第11講

パブリシティの権利

パブリシティの権利 (right of publicity)

裁判例による権利としての確立

パブリシティ権に関する問題

表現行為とパブリシティ価値の利用

プライバシー権との関係

プライバシーの権利は「人がその氏名・肖像等をみだりに使用・利用されないこと」を内容とする人格権であり,プライバシー権の侵害は不法行為としてその被害者が法的救済(差止め,損害賠償,名誉回復措置)を受けうる。同じく氏名・肖像等を対象とするパブリシティ権との関係はどのように捉えられるべきか。

人間以外(動物など)のパブリシティ権

パブリシティ権の本質は,著名人の氏名・肖像等の持つ「顧客吸引力」である。他方「顧客吸引力」は,著名人(自然人)の氏名・肖像以外にもさまざまな情報がこれを得る可能性がある。では物の名称や姿態などにもパブリシティ権は生じるのだろうか。

競走馬のパブリシティ権を巡る二つの事件は事実審での判断が異なる中で最高裁にまで至り,ともに棄却された。すなわち,パブリシティ権は「人格権に根ざすもの」として競走馬のそれを否定した “ダービー・スタリオン事件” にあっては最高裁がその原審の判断を維持し,他方原審がパブリシティ権に基づく損害賠償を認めた “ギャロップ・レーサー事件” については最高裁がこれを覆したのである。

もっとも後者の上告審では,パブリシティ権の説明において「人格権に基づく」とか「人格権に根ざす」という表現は用いられておらず,その意味では “ダービー・スタリオン事件” の控訴審の判旨がそのまま最高裁においても是認されたものであるか疑問なしとしない。さらにはその “ダービー・スタリオン事件” 控訴審の判旨もパブリシティ権が「人格権である」とは言っておらず,あくまで「人格権に由来する(財産的権利である)」ことを指摘したにとどまると解することもでき,けだし「パブリシティ権は人の氏名・肖像等にのみ生ずるもの」と断じてしまうのは早計ではなかろうか。

パブリシティ権の相続性・譲渡性(死者のパブリシティ権)

現在までにわが国においてはこの点が問題となった事例はない(ただし後掲の事例を参照)。

死者の名誉毀損が問題となった事例において,裁判所が「死者に対する遺族固有の敬愛追慕の情に基づく」救済の可能性を示唆した例はあるが(東京高判昭和54・3・14 高民集32巻1号33頁 など),死者の人格権を直接の根拠としてその遺族に私法上の救済を認めた例はない。権利の主体が亡くなっている以上人格権も存しないということである(他方著作権法は,著作者や実演家の死亡後も著作者人格権侵害または実演家人格権侵害となるべき行為を禁ずべく特に規定を設けている。=著60条・101条の3)。

パブリシティ権の「人格権としての側面」を強調する(人格権そのものと捉え,あるいは,財産権であるとしても由来たる人格権を重視する)ならば,上記名誉毀損の例と同様に,「遺族の法的利益(権利)」の侵害として構成するか,さもなくば著作権法の著作者人格権に関する規定を類推しようということとなろうが,故人たる著名人の氏名・肖像等を対象とした利益の保護としては迂回・擬制が過ぎるのではなかろうか。