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判例紹介

ヘアヌード写真集出版差止等仮処分申請事件


事実の概要

債権者

債権者 X1 は女優であり,舞台,テレビ,映画,音楽活動,コマーシャル等において活躍している。債権者 X2 は企画制作,マネージメントおよび音楽出版を目的とする会社であって,X1 と専属出演契約を締結している。

債務者

債務者 Y1 は出版物の企画制作等を行う会社であり,債務者 Y2 は写真集の出版等を主に行っている出版社である。なお,Y1 の代表取締役が Y2 の実質的な社長である模様である。

X1 および X2 は,X1 の写真集の出版を検討していたところ,Y1 の代表取締役から写真家 A(訴外) の紹介を受けた。写真集に関しては,X2,Y1,Y2 の各関係者の間で打ち合わせがなされた(ときとして A や X1 もこれに参加した)が,その際に,ヌード写真を使用しないこと,写真集に使用する写真もパブリシティに使用する写真もすべて X2 と X1 が事前にチェックし了承したものだけを使うこと等が確認され,「出演承諾書(案)」においてもこれが明記された。A による X1 の写真撮影においては X1 の裸体が撮影されたが,このときも X1,X2 ならびに Y1 の間でヌード写真の不使用と事前チェックについての確認がなされた。ところが,Yらは X2 および X1 に写真の事前チェックを行う機会を与えないまま,X1 のヌード写真をマスコミ(写真週刊誌・スポーツ新聞等)に頒布し,これを収録した写真集の発売を告知した。

債権者の請求

(a) Yらが X1 の了解なしに写真集の出版およびマスコミを通じて大衆に X1 の裸体写真を公表することは,X1 の人格権を侵害し,また女優としての X1 の肖像権を侵害する。

(b) X2 は Y1 との間の写真集出版に関する契約をすでに解除しており,Yらが写真集の出版および写真の使用を継続することは,X2 の専属出演契約に基づく独占的管理権限を侵害する。

(c) Yらが写真集の出版を強行する危険性は極めて高く,出版が強行された場合,X1 の人格権侵害に対する実効のある回復措置は不可能であり,さらに女優としてイメージダウンを受け,これによって X1 および X2 は経済的損害を被ることとなるので,保全の必要性がある。

(d) X1 の人格権および肖像権,ならびに X2 の独占的管理権限を保全するため,写真集および写真の出版等の禁止,ならびに Yらが占有する写真ネガ等の執行官保管の仮処分命令を求める。

判旨 (請求認容)

裁判所は,債務者審尋を行ったうえで Xらの申立を相当と認め,その申立どおりの仮処分を命じた。

コメント

本件は,債権者 X2 について債権的請求権に基づく出版の差止が認められた事例であり,この点に特徴があるといえるが,この債権的請求権に関しては必ずしも明らかではない。すなわち,申請の理由(前記(b)参照)によれば契約解除の効果としての請求権として捉えられているようであるが,判例タイムズ解説(239頁)によれば,事前チェックの明文の合意の反面として,事前チェックのない写真を使用した写真集を発行しない旨の合意があり,この合意に基づく差止請求権が認められたとする。

なお,本件においては事前チェックに関する当事者間の合意が明確になされていたことが窺えるが,この点も出版物に関する契約を考察するうえで出版実務上参考になるであろう。

―「コピライト」 425号 ―1996年 8月― 掲載




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