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判例紹介

商品カタログに掲載された写真等の著作権侵害


事実の概要

原告

X は,昭和 62年来,カーテン用副資材等の製造販売業者 A(訴外) の依頼でその総合商品カタログを企画・制作し,それぞれ昭和 62年,平成元年,同 2年および同 3年に発行している(このうち平成 3年発行のものを以下「本件カタログ」という)。

なお,X 法人設立以前は,その代表者の個人営業として活動を行っていた。

被告

Y は A の同業者であり,平成 3年頃から自社商品紹介のためのカタログ(以下「Yカタログ」という)をデザイン事務所(訴外)に依頼して制作・頒布している。

原告の請求

(a) 本件カタログ掲載の A の商品の写真(本件写真)は著作物である。

(b) 本件カタログ全体は編集著作物である。

(c) 本件カタログは全体として一個の著作物である。

(d) 嘱託写真家 B(訴外) が撮影した本件写真を含め,本件カタログに関する著作権は X に帰属する。

(e) Yカタログは X 主張の著作物の複製(または翻案)にあたり,したがって X は,Y に対し,Yカタログの複製の停止と損害賠償を請求する。

判旨(請求棄却)

本件写真の著作物性ならびに本件カタログの編集著作物性

原告の請求 (a),(b) について,これを認めた。

本件カタログ全体の著作物性 (請求(c))

「そのような著作物が存在するかどうかはともかく,X の主張する本件カタログにおける……工夫は結局のところ素材の配列または選択の創作性にすぎないというべきであり,本件カタログはその性質上個々の写真に商品を印象づけることを意図して制作されたものであって,ストーリー性を持った読み物とまでいうことはできないから,本件カタログ全体が,……一個の創作性ある著作物としての性格を有するということはできない。」

本件カタログに関する著作権の帰属 (請求(d))

編集著作権が X に帰属することを認め,本件写真については,これを「公表するとすれば法人等の名義を付するような性格の著作物」であり,著作権法 15条 1項に該当するなどとする X の主張を斥け,その著作者を写真家 B であるとしつつ,証拠等によって認められる事実から,B から X 代表者個人へ本件写真の著作権を譲渡する旨の合意が成立していたと推認しうるとして,代表者の個人営業を承継した X に著作権が承継取得されたものと認めた。

著作権侵害ならびに損害賠償 (請求(e))

写真の複製については,「著作権が保護の対象とするのはその表現の手法という抽象的なアイデア自体ではなく,具体的な表現形式であることに注意しなければならない。」としたうえで,「写真 A と同一の被写体を同様の撮影方法を用いて写真 B を撮影したからといって,直ちに写真 A の複製になるとは言い難(く,)・・・写真 B が写真 A の被写体とは異なる対象物を被写体として撮影したものである場合,被写体が個性のない代替性のある商品であり,同様の撮影方法を用いているからといって,写真 B をもって写真 A の複製物であると解する余地はない。」として,Yカタログ掲載の写真が本件写真の複製(または翻案)であるとする X の主張を斥けた。

また,編集著作権の侵害についても,「保護の対象とするのは素材の選択,配列方法という抽象的なアイデア自体ではなく,素材の選択,配列についての具体的な表現形式であるから,素材において本件カタログと全く異なる Yカタログが本件カタログの編集著作権を侵害するものであるということはできない。」とした。

コメント

本件判決は,商品カタログについての著作権の成立を認め,職務著作の公表要件の解釈ならびに写真の著作物の複製の判断基準を示しただけでなく,編集著作物であると同時に一個の著作物でもあるという著作物が存在しうるかどうかについて明確な判断を避けつつも(これが下級審判決であることに鑑みれば,この点を非難すべきではない),その可能性を完全に否定しなかった点で非常に意義深い判決であると考えられる。

―「コピライト」 421号 ――1996年 4月―― 掲載




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